条文・判例・学説を体系的に整理
自働債権の弁済期の到来の要否
相殺をするには、双方の債務が弁済期にあることが必要であり、自働債権の弁済期が到来していなければ、受働債権の弁済期が到来していても、相殺をもって対抗することはできない(受働債権の期限の利益の放棄は別論)。
過失による物損債権の受働債権相殺
人の生命・身体の侵害による損害賠償債務及び悪意による不法行為に基づく損害賠償債務を受働債権とする相殺は禁止されるが、過失による物の損傷に基づく損害賠償債務は禁止されず、売買代金債権を自働債権として相殺をもって対抗することができる。
差押え前の原因に基づく求償権と相殺
債権が差し押さえられた場合に、第三債務者が差押え後に取得した債権であっても、それが差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができ、委託を受けた保証人が差押え後に弁済して取得した求償権も、保証委託が差押え前になされていれば、これに当たる。
不法行為債権による自働債権相殺
不法行為によって傷害を受けた被害者の加害者に対する損害賠償債権を自働債権とし、加害者の被害者に対する貸金債権を受働債権とする相殺は禁止されない。
相殺禁止特約と悪意・重過失の第三者
当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
返還時期の定めのない消費貸借と相殺
返還時期の定めのない金銭消費貸借契約の貸主は、相当の期間を定めた返還の催告及び相当期間の経過を待つことなく、その貸金債権を自働債権とする相殺をすることができる。
弁済期到来後の債権譲渡と相殺対抗
債権の弁済期が到来した後に当該債権が第三者に譲渡されて対抗要件が具備された場合、債務者は対抗要件具備時より前から有する反対債権を自働債権として、譲受人に対して相殺をもって対抗することができる(民法469条1項)。
先行相殺と譲渡債権の消滅
譲受人が取得した債権を自働債権、自己がその債務者に負う債務を受働債権として先に有効な相殺をし、取得債権を消滅させた後は、債務者はその消滅した債権を受働債権とする相殺を譲受人に主張できない。
昭和54年7月10日最高裁第三小法廷民集33巻5号533頁(約束手形金)
前原因に基づく反対債権と相殺
債権譲渡の対抗要件具備後に債務者が取得した反対債権であっても、当該反対債権が対抗要件具備時より前の原因に基づいて譲渡人と債務者の間で生じた債権であるときは、債務者は譲受人に対して相殺をもって対抗することができる(民法469条2項1号)。
請負報酬債権と修補に代わる賠償の相殺
請負人の注文者に対する報酬債権と注文者の請負人に対する目的物の修補に代わる損害賠償債権とは、同時履行の関係にあり、双方の債権額が異なる場合であっても、相殺することが許され、請負人が報酬債権を自働債権とし注文者の損害賠償債権を受働債権として相殺することもできる。
昭和53年9月21日最高裁第一小法廷集民125号85頁(損害賠償及び請負代金)
生命身体侵害の損害賠償債権譲渡と相殺
人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができないが、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
譲受けた悪意の不法行為債権と相殺
悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができないが、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、相殺をもって対抗することができる(民法509条柱書ただし書)。
差押え前取得の反対債権と相殺
差し押さえられた債権の債務者は、差押え前に取得した反対債権を自働債権として、差押え債権者に対して相殺をもって対抗することができる(民法511条1項)。
差押え前の反対債権取得と相殺適状
差押え前に取得した反対債権であっても、実際に相殺をするには双方の債務が弁済期にあること(相殺適状、民法505条1項)を要するから、自働債権である反対債権の弁済期が到来する前は、その相殺をもって差押債権者に対抗することはできない(民法511条1項・505条1項)。
差押後の他人債権取得と相殺
差し押さえられた債権の債務者が差押え後に他人から譲り受けた反対債権は、当該反対債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであっても、これを自働債権として差押え債権者に対して相殺をもって対抗することができない(民法511条2項ただし書)。
抵当不動産取得者と抵当権者間の相殺の可否
抵当不動産の所有権を取得した者が抵当権者に対する売買代金債権を有している場合であっても、被担保債務が第三者とその抵当権者との間の貸金債務であれば、当事者が異なるため相殺適状とならず、相殺することができない。
弁済期未到来の受働債権と期限の利益の放棄
弁済期の定めのない貸金債権を有する者は、当該貸金債権の債務者に対して、弁済期が未到来の売買代金債務を負担している場合には、当該売買代金債務の期限の利益を放棄した上で、これらの債権債務を対当額において相殺することができる。
消滅時効完成後に譲り受けた債権による相殺
請負代金債務を負担する注文者が、請負人に対する貸金債権を譲り受けたが、譲受けの時点で当該貸金債権の消滅時効が完成していた場合において、その後請負人により消滅時効が援用されたときは、注文者は、これらの債権債務を対当額において相殺することができない。
昭和36年4月14日最高裁
双方過失の交通事故と不法行為債権の相殺
車両同士の交通事故が双方の運転者の過失に基因して発生し、双方に物的損害のみが生じた場合、一方の運転者は、双方の損害賠償債権を対当額において相殺することができる。
不法行為債権と相殺
悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務又は人の生命若しくは身体の侵害による損害賠償の債務の債務者は、これらの債務を受働債権として相殺することができない。