条文・判例・学説を体系的に整理
憲法改正無限界説と法価値の同一性
憲法の定める改正手続に従いさえすればいかなる内容の改正を行うことも法的に可能であるとする見解(改正無限界説)は、憲法典における規定は、その内容にかかわらず全て同一の法価値と形式的効力を有するとの理解を根拠とする。
憲法改正原案の提出権と内閣
憲法改正案の原案を国会に提出することが憲法96条1項の「発議」の手続の一部を構成するとの理解は、発議が国会の権限である以上、法律によって内閣に原案の提出権を認めることは許されないとの方向に導くものであり、内閣に原案の提出権を認めることは許されるとする見解の根拠とはならない。
憲法改正国民投票の過半数の意義
憲法96条1項が定める国民の承認の要件としての「過半数」を有効投票数の過半数と解する見解に対し、積極的に賛成の意思表示をしたものが投票の過半数であることが憲法改正のような重要事項には要請されるとの指摘は、その見解の根拠とはならず、むしろ有効投票総数の過半数を要件とすることとは異なる方向の考え方である。
納税義務と外国人
憲法30条は国民の納税義務を定めているが、国際法や条約に基づいて免除される場合を除き、法律の定めるところにより、我が国に居住する外国籍の者から徴税することは違憲ではない。
砂川事件の条約違憲審査と統治行為論
日米安全保障条約のように高度の政治性を有する条約の内容が違憲か否かの法的判断は、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、裁判所の司法審査権の範囲外のものである(砂川事件判決)。
昭和34年12月16日最高裁大法廷刑集13巻13号3225頁(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)
外国軍隊と戦力の概念
憲法9条2項が保持を禁止した戦力とは我が国が主体となってこれに指揮権・管理権を行使し得る戦力をいうものであり外国の軍隊はたとえそれが我が国に駐留するとしてもここにいう戦力には該当しない。
昭和34年12月16日最高裁大法廷刑集13巻13号3225頁(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)
人権の直接適用説と私的自治尊重の批判
基本的人権に関する憲法の規定が私人間の関係にも直接適用されると解する見解(直接適用説)に対しては、市民社会の原則である私的自治が最大限に尊重されなければならないとの批判が当てはまる。
人権の国家同視説と国家・社会二分論
私人の行為が高度に公的な機能を有している場合に、当該行為を国家の行為と同視して憲法の人権規定を直接適用する見解(国家同視説)に対し、国家と社会を分離する自由主義的国家論を採ることは当然視されるべきではないとの指摘は、その見解への批判とはならない。
人権の無適用説と近代憲法観
基本的人権に関する憲法の規定は私人間の関係には適用されず国家と国民との関係にのみ適用されるとする見解(無適用説)に対し、近代憲法が前提としてきた憲法観や人権観は修正されるべきではないとの指摘は、その見解への批判とはならず、その根拠にあたる。
国の私法上の契約と公権力発動の例外
国が私人と対等の立場で締結する私法上の契約は、成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為と変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私法の適用を受けるにすぎない。
平成元年6月20日最高裁第三小法廷民集43巻6号385頁(不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加)
不妊手術強制と身体侵襲を受けない自由
最大判令和6年7月3日は、憲法13条は人格的生存に関わる重要な権利として自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由を保障しているところ、生殖を不能にする手術(不妊手術)は生殖能力の喪失という重大な結果をもたらす身体への侵襲であるから、これを受けることを強制することは上記自由に対する重大な制約に当たり、正当な理由に基づかずに不妊手術を受けることを強制することは同条に反し許されないとした。
令和6年7月3日最高裁大法廷民集78巻3号382頁(国家賠償請求事件)
マイナンバーと個人情報の開示公表の自由
最判令和5年3月9日は、憲法13条により何人も個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有すると解されるとし、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律に基づく特定個人情報の利用、提供等の行為は、この自由を侵害するものではないとした。
令和5年3月9日最高裁第一小法廷民集77巻3号627頁(マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件)
前科照会事件と前科の秘匿
前科は人の名誉・信用に直接関わる事項であり、前科のある者もこれをみだりに公開されないという法的保護に値する利益を有するから、弁護士法に基づく照会の申出書に「裁判所に提出するため」等とあったにすぎない場合に、市区町村長が漫然と照会に応じて犯罪の種類・軽重を問わず前科等の全てを報告することは、公権力の違法な行使に当たる。
昭和56年4月14日最高裁第三小法廷民集35巻3号620頁(損害賠償等)
条例の罰則と平等原則
条例において取締規定を設け法律の委任の範囲で罰則を規定することは許され、憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によって差別を生ずることは憲法自ら容認するところであるから、それぞれの条例間で法定刑が異なっても憲法14条に違反しない。
昭和33年10月15日最高裁大法廷刑集12巻14号3305頁(売春等取締条例違反)
法人の人権と自然人への還元の非現実性
憲法の人権規定が性質上可能な限り法人(団体)にも適用されるとする見解(性質説)は、高度に組織された現代社会においては法人(団体)の活動を構成する自然人の行為に分解・還元することは非現実的であるということを根拠にすることができる。
天皇・皇族の人権と財産権の制約
天皇・皇族も人権の享有主体としての「国民」に含まれると考える立場も、皇位の世襲と職務の特殊性を理由に、天皇・皇族の財産権に対して一定の制約がなされること(憲法8条・88条)を排除するものではない。
在留外国人の指紋押なつ強制拒否の自由
最高裁判所は、指紋押なつ拒否事件判決において、みだりに指紋の押なつを強制されない自由は憲法13条により保障され、この自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶとした。
平成7年12月15日最高裁第三小法廷刑集49巻10号842頁(外国人登録法違反)
候補者届出政党の政見放送
衆議院の小選挙区選挙について、候補者届出政党にのみ政見放送を認め候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないものとする公職選挙法の規定は、選挙運動をする上で候補者間に単なる程度の違いを超える差異を設ける結果となるが、国会に与えられた合理的裁量の限界を超えるものではなく、憲法14条1項に違反しない。
平成11年11月10日最高裁大法廷民集53巻8号1704頁(選挙無効請求事件)
定住外国人の地方選挙権
最判平成7年2月28日は、憲法93条2項にいう「住民」とは地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味し、同項は我が国に在留する外国人に対して選挙の権利を保障したものではないが、永住者等であって、その居住区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる者に、法律をもって地方公共団体の長・議会の議員の選挙権を付与する措置を講ずることは憲法上禁止されているものではないとした。
平成7年2月28日最高裁第三小法廷民集49巻2号639頁(選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消)
遺族補償年金の男女差と平等原則
地方公務員災害補償法の遺族補償年金について、死亡した職員の夫には職員の死亡当時一定の年齢に達していることを受給の要件とし、妻にはこれを要件としないことは、妻の置かれている社会的状況に鑑み合理的な理由を欠くものではなく、憲法14条1項に違反しない。
平成29年3月21日最高裁第三小法廷集民255号55頁(遺族補償年金等不支給決定処分取消請求事件)