条文・判例・学説を体系的に整理
借り受けた自動車の無断長期使用と横領罪
他人から借り受けて占有している自動車を、返還の約束に反して無断で長期間乗り回し、返還することを惜しんで自己の物のように使用したときは、不法領得の意思が発現されたものとして、横領罪が成立する。
昭和46年11月26日大阪高裁高刑集24巻4号741頁(窃盗(予備的訴因横領)被告事件)
自転車の乗り捨てと不法領得の意思
自転車を駐輪場から無断で乗り出し、自宅近くで乗り捨てる意思で乗り回した場合でも、所有者を排除して自己の物としてその経済的用法に従い利用する意思(不法領得の意思)が認められ、窃盗罪が成立する。
自動車の数時間の無断使用と不法領得
自動車を、数時間にわたって完全に自己の支配下に置く意図のもとに所有者に無断で乗り出し、4時間余り乗り回した場合には、使用後に元の場所に戻しておくつもりであったとしても、不正領得の意思が認められ、窃盗罪が成立する。
昭和55年10月30日最高裁第二小法廷刑集34巻5号357頁(窃盗、道路交通法違反)
嫌がらせによる社員証隠匿と領得の意思
他人が保管する物を、その者を困らせる目的で隠匿する意思で持ち去った場合には、物を利用・処分する意思(不法領得の意思)を欠くから、窃盗罪は成立せず、毀棄・隠匿の罪の成否の問題となる。
昭和25年5月18日最高裁第一小法廷集刑17号689頁(窃盗)
無主物との誤信による自転車領得と故意
雑草の生い茂った空き地に捨てられていて誰の物でもないと思って持ち帰った場合には、他人の占有する財物を窃取する故意(窃盗罪の故意)を欠き、窃盗罪は成立しない(遺失物等横領罪の成否の問題となる)。
意思抑圧なき12歳への強盗指示と正犯
是非弁別能力のある刑事未成年者に強盗を指示したが、その指示が意思を抑圧するものではなく、未成年者が自らの意思で強盗の犯行を決意して実行した場合には、強盗罪の間接正犯は成立しない。
昭和58年9月21日最高裁第一小法廷刑集37巻7号1070頁(窃盗)
事後強盗目的の凶器準備と強盗予備罪
窃盗の際に家人が帰宅した場合に備えて、窃取した金品の取戻しを防ぐ目的で出刃包丁を携えて侵入先へ向かう行為は、事後強盗(準強盗)を目的とする準備として、刑法237条にいう「強盗の罪を犯す目的」でその予備をしたものであり、検挙された場合に強盗予備罪が成立する。
昭和54年11月19日最高裁第二小法廷刑集33巻7号710頁(強盗予備と事後強盗の目的)
他人が占有する自己の物と窃盗罪
自己の財物であっても、他人が占有するものであるときは、窃盗罪については他人の財物とみなされるから、貸していた自転車を、返却期限が過ぎても返してくれない借主の車庫のシャッターを壊して無断で持ち帰った行為は、窃盗罪に当たる。
背任罪の主体と自己の事務の処理
背任罪の主体は刑法247条の他人のためにその事務を処理する者であり、売主に対して売買契約に基づいて代金支払債務を負う買主のように、自己の事務を処理するにすぎない者はこれに当たらない。
二重抵当と登記協力任務の他人事務性
抵当権設定者は、抵当権設定登記を完了するまでは抵当権者に協力する任務を有し、この任務は主として他人である抵当権者のために負うものであるから、二重抵当の場合に、設定者は刑法247条の他人のためにその事務を処理する者に当たる。
昭和31年12月7日最高裁第二小法廷刑集10巻12号1592頁(背任)
背任罪の信任関係違背説への批判
背任罪の本質について判例は、本人との信任関係に違背して財産を侵害する点にあるとする立場(背信説)に立つとされ、この立場に対しては、抵当権設定者がその登記に関し協力する任務は抵当権設定者の自己の事務であり他人の事務に当たらないとの批判がある。
器物損壊の物理的損壊説の根拠
毀棄・損壊の意義を「対象物の全部又は一部を物理的に破壊・毀損すること」と解する見解は、毀棄・損壊概念の本来の意義は物理的に破壊・毀損しその結果として効用を害することにあると説明し、この立場では、隠匿は毀棄・損壊に含まれないので、信書隠匿罪の規定は、信書についてのみ隠匿を特に処罰する器物損壊罪の拡張規定であると考える。
器物損壊の効用侵害説の根拠
毀棄・損壊の意義を「対象物の効用を害する一切の行為」と解する見解は、毀棄・損壊がもたらす財物侵害の本質は対象物が具備する効用が不利益に変更される点にあるから、物理的な破壊・毀損のみに限定する理由はないと説明し、この立場では隠匿は毀棄・損壊に含まれ、信書隠匿罪の規定は、信書の隠匿のみを特に軽く処罰する器物損壊罪の減軽規定であると考える。
食器への放尿と器物損壊の学説の批判
物理的損壊説に対しては物理的な破壊・毀損によらずに物の効用を害する行為を一切不可罰にし処罰範囲が狭きに失するとの批判があり、効用侵害説に対しては日常用語的意味から隔たりが大きく処罰範囲を不当に拡大する危険性があるとの批判があり、効用侵害説によれば、飲食店の食器に放尿して心理的に利用困難にした場合にも器物損壊罪が成立することになるが、同説の論者は、その結論は妥当であり判例の立場とも整合すると説明する。
強盗罪の脅迫の程度と客観的基準
強盗罪における脅迫は、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものであれば足り、現実に被害者の反抗が抑圧されることは必要でなく、その程度の脅迫により財物を取得すれば強盗罪の既遂が成立する。
強盗罪への親族相盗例の適用の有無
刑法244条の親族間の犯罪に関する特例は、窃盗の罪(235条)、不動産侵奪の罪(235条の2)及びこれらの未遂罪に適用され、251条により詐欺及び恐喝の罪に準用されるが、強盗罪には適用されない。
無銭飲食の注文と詐欺罪
支払の意思・能力がないことを秘して飲食店で注文し飲食物の提供を受ければ、飲食店での注文には代金を支払う意思・能力があるとの意思表示が暗黙の前提として含まれているから、挙動による欺罔行為に当たり、詐欺罪が成立する。
昭和30年7月7日最高裁第一小法廷刑集9巻9号1856頁(詐欺)
ゴルフ場の暴力団利用と欺罔行為否定例
暴力団関係者の利用を拒絶する立看板を設置するなどしても、利用客に暴力団関係者でないことを確認する措置を講じず、周辺のゴルフ場で暴力団関係者の施設利用を許可・黙認する例が多数あったなどの事情の下では、暴力団関係者であることを申告せずに施設利用を申し込む行為は、通常の方法で利用し料金を支払う旨の意思を表すにとどまり、それ以上に申込者が当然に暴力団関係者でないことまで表しているとは認められないから、詐欺罪にいう人を欺く行為には当たらない。
平成26年3月28日最高裁第二小法廷刑集68巻3号582頁(詐欺被告事件)
ゴルフ場の暴力団確認措置と詐欺罪
ゴルフ倶楽部が入会時に暴力団関係者を同伴しない旨の誓約書を提出させるなど暴力団関係者の利用を拒絶する意向を明確に示す措置を講じていた場合に、会員が同伴者が暴力団関係者であることを申告せずに施設利用を申し込むことは、詐欺罪(2項詐欺)に当たる。
平成26年3月28日最高裁第二小法廷刑集68巻3号646頁(詐欺被告事件)
不正賭博による債務負担と詐欺罪
不正な手段(細工した花札)を用いて賭博の初心者を負けさせ、債務を負担させて財産上の利益を得たときは、賭博の債務が公序良俗に反し無効であっても、詐欺罪(246条2項)が成立する。
昭和43年10月24日最高裁第一小法廷刑集22巻10号946頁(詐欺、賭博開帳図利)