条文・判例・学説を体系的に整理
過失犯の実行行為の結果直近行為限定説
過失犯の実行行為を、結果発生に直近する不注意な行為だけに限るとする見解は、因果関係のある不注意な行為を全て実行行為とすると、結果発生と関連が薄い間接的な落ち度まで実行行為とされるおそれがあり、公判審理の争点が不明確になるからだと説明する。
過失犯の因果関係ある不注意行為包括説
過失犯の実行行為について、発生した結果と因果関係のある不注意な行為は全て実行行為になり得るとする見解によれば、結果発生に直近する運転操作の誤りのほか、その前の前方不注視も実行行為となる。
過失行為を広く捉える説の認定上の利点
過失犯の実行行為を広く捉える見解は、前方不注視が主たる原因である場合に、直近過失のみを実行行為とする見解よりも、過失をより適切に認定することができると主張する。
過失犯の因果経過の予見可能性
過失犯が成立するために、結果発生に至る現実の因果経過を逐一具体的に予見できたことまでは必要でなく、結果発生の基本的部分についての予見可能性があれば足りる。
業務上過失致死傷罪の「業務」の意義
業務上過失致死傷罪の「業務」とは、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為が他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいい、行為者の目的が収入を得ることにあるか他の欲望を満たすことにあるかを問わない。
昭和33年4月18日最高裁第二小法廷刑集12巻6号1090頁(業務上過失傷害)
重過失致死傷罪の「重大な過失」の意義
重過失致死傷罪の「重大な過失」とは、注意義務違反の程度が著しい場合、すなわち僅かな注意を払うことにより結果の発生を容易に回避し得たのにこれを怠った場合をいい、その要件として、発生した結果が重大であること又は結果発生の可能性が大であったことまでは必要としない。
方法の錯誤と過失犯の予見可能性の対象
故意犯における方法の錯誤について、認識した事実と発生した事実とが具体的に一致しない限り故意を阻却するとの見解(具体的符合説)を過失犯に及ぼせば、特定の人に対する死傷結果について予見可能性が要求され、構成要件的に一致する限り故意を阻却しないとの見解(法定的符合説)を及ぼせば、「およそ人」に対する死傷結果の予見可能性で足りることになる。
過失犯の構造(故意犯との並行的理解)
過失犯の構造について、故意犯と過失犯とを並行的に理解する見解は、故意犯の議論を過失犯にも転用し、過失犯においても故意犯と同様の議論が当てはまると考える。
過失犯の予見可能性と結果回避義務
過失犯について、故意犯と過失犯とを異なる構造の犯罪類型として理解し、予見可能性は結果回避義務の前提であり、結果発生の原因となる事実の認識ないし認識可能性があれば、結果回避措置を義務付けてよいとする見解によれば、同乗者の存在を認識していなくても、速度超過という危険な状況を認識していた以上、減速する義務に違反したものとして過失犯が成立し得る。
抽象的事実の錯誤と犯罪の成立
ヘロインを覚醒剤と誤信して営利目的で輸入した場合、客観的事実であるヘロインの営利目的輸入罪が成立し、覚醒剤の営利目的輸入罪は成立しない。
昭和54年3月27日最高裁第一小法廷刑集33巻2号140頁(麻薬取締法違反、関税法違反)
方法の錯誤と法定的符合説
殺意をもって標的に発砲し、標的を貫通した弾丸が予期しなかった別人にも命中したが双方とも死亡しなかった場合、判例の法定的符合説によれば両者に対する殺人未遂罪が成立する。
昭和53年7月28日最高裁第三小法廷刑集32巻5号1068頁(強盗殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反)
旧過失論と信頼の原則
結果の発生を予見することができたのにこれを予見しなかったことを過失の本質とする旧過失論からも、信頼の原則を過失犯に適用する余地はある。
故意犯と過失犯の区別
旧過失論からは、故意犯と過失犯は客観面が共通であり両者は主観面において区別されるとの見解と親和的である。
旧過失論と過失犯の成立範囲の広がり
自動車運転はそれ自体危険な行為で死傷結果が容易に予見可能であるから過失犯の成立範囲が広くなりすぎるとの批判は、予見可能性を過失の中心とする旧過失論に向けられるものであり、予見可能性に加えて結果回避措置を採らなかったことを過失の本質とする新過失論には当たらない。
危惧感説と責任主義
具体的な予見可能性を必要とせず合理的な結果回避措置を命じるのに十分な程度の危惧感で足りるとする危惧感説に対しては、漠然とした危惧感だけで過失責任を追及することは責任主義に反するとの批判が可能である。
重過失の意義
重過失とは、注意義務違反の程度が著しい場合をいい、重大な結果を惹起する危険のある不注意な行為をすることをいうものではない。
過失犯の予見可能性の程度
過失犯の成立に必要となる結果発生の予見可能性は、内容の特定しない一般的・抽象的な危惧感ないし不安感を抱く程度の予見の可能性では足りない。
平成12年12月20日最高裁第二小法廷刑集54巻9号1095頁(近鉄生駒トンネル火災事件)
信頼の原則と法令違反行為
行為者が法令に違反する行動をした事案においても信頼の原則が適用される場合がある。
昭和42年10月13日最高裁第二小法廷刑集21巻8号1097頁(業務上過失致死)
管理者の過失と業務上過失致死傷
ホテルの火災により死傷者が出た場合、火災発生時に現場にいなかったホテル経営者にも業務上過失致死傷罪が成立することがある。
平成2年11月16日最高裁第一小法廷刑集44巻8号744頁(業務上過失致死、同傷害)
法定的符合説と具体的符合説
法定的符合説は、故意の認識内容と発生した事実が構成要件の範囲内で符合する限り故意を認める見解であり、判例はこの立場をとる。
昭和53年7月28日最高裁第三小法廷刑集32巻5号1068頁(強盗殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反)