条文・判例・学説を体系的に整理
責任無能力者の監督義務者の免責
責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その義務を怠らなかったとき又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。
精神障害者の同居配偶者と監督義務者
最判平成28年3月1日は、精神障害者と同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないとした。
平成28年3月1日最高裁第三小法廷民集70巻3号681頁(損害賠償請求事件)
法定監督義務者に準ずべき者の判断
法定の監督義務者に該当しない者であっても、責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、加害行為の防止に向けてその者が責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなど、その監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、法定の監督義務者に準ずべき者として、民法714条1項が類推適用される。
平成28年3月1日最高裁第三小法廷民集70巻3号681頁(損害賠償請求事件)
使用者責任の使用関係と事実上の監督
民法715条1項の使用者・被用者の関係は、雇用契約等の契約の存在を要件とせず、事実上の指揮監督関係があれば成立し、一時的に被用者を指揮監督してその仕事に従事させていた者も使用者責任を負う。
昭和56年11月27日最高裁第二小法廷民集35巻8号1271頁(損害賠償本訴、同反訴)
使用者責任と被用者の不法行為責任
被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害について使用者が使用者責任を負うときでも、被用者自身が第三者に対して不法行為責任(民法709条)を負い、使用者と被用者の責任は併存する。
使用者の被用者に対する求償権の制限
使用者が被用者の加害行為により損害を被り、又は使用者責任に基づく賠償義務を履行した場合、使用者の被用者に対する賠償又は求償の請求は、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度に制限されることがある。
昭和51年7月8日最高裁第一小法廷民集30巻7号689頁(損害賠償請求)
使用者責任と被用者の直接責任
使用者が被用者の加害行為につき使用者責任に基づいて第三者に損害賠償責任を負う場合であっても、当該被用者は加害行為につき故意又は過失があるときは、民法709条に基づき第三者に対する損害賠償責任を負う。
前所有者時代の瑕疵と工作物責任
土地工作物の瑕疵が前所有者の所有当時に生じたものであっても、現所有者は民法717条1項に基づく工作物責任を免れない。
工作物責任の対象となる工作物
民法717条の土地の工作物について、工場内の機械を除外した大審院の事例はあるが、機械一般が一律に除外されるわけではなく、設置方法・用途等から土地又は建物と一体をなす機械設備等を含める裁判例がある。
大正元年12月6日大審院民録18巻1022頁(損害賠償請求ノ件)
工作物の所有者の無過失責任
土地の工作物の設置又は保存の瑕疵による損害については占有者が第一次的に責任を負い、所有者は、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときに過失の有無を問わず責任を負うのであって、占有者が責任を負う場合には、占有者が無資力であっても所有者が民法717条1項による責任を負うことはない。
被用者から使用者への逆求償
被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、使用者に対して、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、求償することができる。
令和2年2月28日最高裁第二小法廷民集74巻2号106頁(債務確認請求本訴,求償金請求反訴事件)
工作物責任における占有者の求償権
土地の工作物の設置又は保存の瑕疵により他人に損害が生じた場合に占有者が損害を賠償したときは、占有者はその損害の原因について他に責任を負うべき者に対して求償権を行使することができる。
責任無能力者の監督義務者の責任
精神上の障害により責任無能力者となった者と同居する配偶者であるからといって、その配偶者が民法714条1項の「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないが、法定の監督義務者に該当しない者であっても、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合には、法定の監督義務者に準ずべき者として同項が類推適用され、責任を負うことがある。
平成28年3月1日最高裁第三小法廷民集70巻3号681頁(損害賠償請求事件)
動物占有者の責任
動物の占有者は、その動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負わない。
共同不法行為と消滅時効の相対効
共同不法行為者の一人に対する損害賠償請求訴訟による時効の完成猶予・更新の効力は、他の共同不法行為者には及ばない。
昭和57年3月4日最高裁判時1042号87頁
共同不法行為の第三者の使用者への求償
被用者と第三者が共同不法行為により他人に損害を加えた場合において、第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができる。
昭和63年7月1日最高裁第二小法廷民集42巻6号451頁(損害賠償請求本訴、同反訴事件)
共同不法行為者間の求償
判例は、共同不法行為者の一人が、過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときに、その超える部分について他の共同不法行為者の負担部分の限度で求償できるとし、自己の負担部分を超えない賠償をしただけでは求償できないとしていた。
平成10年9月10日最高裁第一小法廷民集52巻6号1494頁(損害賠償)
責任無能力者の失火と監督義務者
責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が生じた場合、失火責任法にいう重大な過失の有無は未成年者ではなく監督義務者の監督について判断され、その監督について重大な過失がなかったときは監督義務者は損害賠償責任を免れる。
平成7年1月24日最高裁第三小法廷民集49巻1号25頁
使用者責任と失火責任法の関係
被用者の重大な過失により火災が生じた場合において使用者に選任監督上の過失があるときは、使用者の過失が重大でなくても使用者は損害賠償責任を免れない。
昭和42年6月30日最高裁第二小法廷民集21巻6号1526頁(損害賠償請求)
使用者責任と被用者の資力
使用者は被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負い、この責任は被用者に賠償の資力があるか否かにかかわらず成立する。