条文・判例・学説を体系的に整理
横領金の弁済受領者の悪意と不当利得
横領者が横領した金銭で自己の債権者に対する債務を弁済した場合において、債権者が受領につき悪意又は重大な過失があるときは、債権者の金銭の取得は被横領者に対する関係で法律上の原因を欠き不当利得となるが、善意で軽過失にとどまるときは不当利得とならない。
昭和49年9月26日最高裁第一小法廷民集28巻6号1243頁(金員返還請求)
他人の債務の弁済と債権証書の滅失
債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させたときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。
受益者の悪意転化と現存利益
善意の受益者は、その利益の存する限度で返還義務を負うが、法律上の原因がないことを認識した後は悪意の受益者として扱われ(民法704条)、その後に利益が消滅しても、現に利益が存しないことを理由に返還請求を拒むことができない。
平成3年11月19日最高裁第三小法廷民集45巻8号1209頁(不当利得返還)
不倫維持目的の建物贈与と返還請求
不倫関係を継続する目的で未登記建物を贈与して引き渡したときは、その引渡しにより贈与者の債務は履行を完了し、不法原因給付に当たり、贈与者は不当利得に基づいてその建物の返還を請求することができない。
昭和45年10月21日最高裁大法廷民集24巻11号1560頁(建物明渡等請求)
寄託物の即時取得と不当利得返還義務
所有者から寄託された動産を受寄者が売却し、買主に即時取得が成立した場合、買主は、寄託者に対し、不当利得返還義務を負わない。
騙取金による弁済と不当利得
第三者からだまし取った金銭を用いて債務が弁済された場合において、債権者が当該金銭が詐取されたものであることについて悪意又は重大な過失がなかったときは、債権者は当該第三者に対して不当利得返還義務を負わない(最判昭49.9.26)。
昭和49年9月26日最高裁第一小法廷民集28巻6号1243頁(金員返還請求)
受領権限のない者への弁済と不当利得
債務者が債権の受領権限がない者に対し弁済をした場合において、真の債権者がその受領者に対して不当利得返還請求をしたときは、その受領者は、弁済をした債務者に過失があったことを主張して、請求を拒絶することができない。
平成16年10月26日最高裁第三小法廷集民215号473頁(不当利得金返還請求事件)
非債弁済と消滅時効援用後の返還請求
自らを債務者であると誤信して他人の債務を弁済した者は、債権者が善意でその債権を消滅時効により消滅させてしまった場合、債権者に対し弁済金の返還請求をすることができない。
強行法規違反と不法原因給付
強行法規に違反してなされた給付であっても、直ちに民法708条の不法原因給付に該当するわけではない。
昭和37年3月8日最高裁第一小法廷民集16巻3号500頁(売掛代金請求)
不法原因給付の要件
不法の原因が受益者についてのみ存するときは、民法708条の適用はなく、給付者は不当利得の返還を請求することができる。
不法原因給付と所有権に基づく返還請求
不法原因給付に該当し不当利得返還請求が認められない場合には、給付者は所有権に基づく返還請求もすることができない。
昭和45年10月21日最高裁大法廷民集24巻11号1560頁(建物明渡等請求)
不法原因給付の効果
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。
不当配当と不当利得返還請求
抵当権者は、不動産競売の配当期日において配当異議の申出をしなくても、債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた者に対して不当利得返還請求をすることができる。
平成3年3月22日最高裁第二小法廷民集45巻3号322頁(不当利得)
転用物訴権の制限
建物賃借人から請け負った修繕工事について、賃貸借契約に修繕費用を賃借人が負担する旨の特約がある場合であっても、建物所有者が対価関係なしに利益を受けたものでないときは、請負人の建物所有者に対する不当利得は成立しない。
平成7年9月19日最高裁第三小法廷民集49巻8号2805頁(不当利得金)
悪意の受益者の損害賠償責任
民法704条後段の損害賠償責任は、悪意の受益者が不法行為の要件を満たす限度で不法行為責任を負うことを注意的に定めたものであり、不法行為の要件を満たさない場合にまで賠償責任を負わせるものではない。
平成21年11月9日最高裁第二小法廷民集63巻9号1987頁(不当利得金返還請求事件)
預金の誤払戻しと不当利得
銀行が預金を誤って他人に払い戻した場合、その払戻しについて過失があったときでも、真の預金者への払戻しをしていなければ、誤払い先に対し、支払った金員の返還を請求することができる。
平成17年7月11日最高裁第二小法廷集民217号329頁(預金払戻,不当利得返還請求事件)
騙取金による弁済と不当利得
債務者が第三者から横領した金銭を自己の金銭と識別することができない状態にした上、その金銭で自己の債権者に対する債務の弁済に充てた場合であっても、社会通念上、第三者の金銭で債権者の利益を図ったと認めるに足りる連結があり、債権者が債務者の横領を知り、又は知らなかったことについて重大な過失があるときは、第三者は、債権者に対し、不当利得の返還を請求することができる。
昭和49年9月26日最高裁第一小法廷民集28巻6号1243頁(金員返還請求)
無権代理の抵当権実行と不当利得
無権代理人によって設定された抵当権の実行により不動産の所有権を喪失した者は、抵当権の実行手続において配当を受けた者に対し、不当利得の返還を請求することができる。
昭和63年7月1日最高裁第二小法廷民集42巻6号477頁(不当利得金返還請求事件)
非債弁済と返還請求
強制執行を避けるためやむを得ず、後日返還を請求する旨を留保して支払った場合には、既に弁済した債務についての支払であっても、その金員の返還を請求することができる。
昭和35年5月6日最高裁第二小法廷民集14巻7号1127頁(過払金請求)
不法原因給付と所有権
不法な原因のために土地を譲渡し、所有権移転登記をした場合、不当利得に基づきその返還を請求することができないときは、土地の所有権に基づき所有権移転登記の抹消を請求することもできない。
昭和45年10月21日最高裁大法廷民集24巻11号1560頁(建物明渡等請求)