条文・判例・学説を体系的に整理
善管注意義務違反と留置権の消滅請求
留置権者が善良な管理者の注意をもって留置物を占有する義務に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
建物買取請求後の建物留置と敷地占有
借地人が建物買取請求権を行使したときは、建物の代金債権を被担保債権として建物を留置することができ、その留置権に基づいて敷地の明渡しも拒むことができるが、建物の占有によりその敷地を占有している限り、敷地の賃料相当額を不当利得として返還すべき義務を負う。
昭和35年9月20日最高裁第三小法廷民集14巻11号2227頁(建物収去、土地明渡請求)
他人物売買の履行不能賠償債権と留置権
他人の物を売り、引き渡したものの買主に即時取得が成立しないときは、買主は、所有者からの返還請求に対し、売主に対する履行不能を理由とする損害賠償請求権を被担保債権として留置権を行使することができない。
昭和51年6月17日最高裁第一小法廷民集30巻6号616頁(所有権移転登記抹消等請求)
有益費による建物留置と使用の対価
賃借人が、有益費償還請求権を被担保債権として賃借建物を留置し、保存に必要な範囲で使用を継続した場合でも、その使用による利益は不当利得として賃貸人に返還しなければならない。
不法占有と留置権
他人の建物を権原なく占有していた者がその建物に関して生じた債権を有する場合であっても、占有の開始が不法なときは留置権は成立しない。
昭和46年7月16日最高裁第二小法廷民集25巻5号749頁(家屋明渡等請求)
留置物の滅失と保険金請求権
留置権者は、留置物の滅失によって債務者が受けるべき保険金請求権に対しては物上代位により留置権を行使することはできない。
留置物の無断賃貸と留置権の消滅請求
留置権者が債務者の承諾を得ずに留置物を賃貸した場合、その賃貸が終了して留置権者が留置物の返還を受けた後であっても、債務者は留置権の消滅を請求することができる(民法298条3項)。
昭和38年5月31日最高裁第二小法廷民集17巻4号570頁(所有権確認請求)
賃借人の必要費と留置権の範囲
賃貸借終了後、賃借人が賃貸人の負担に属する必要費を支出して留置権を行使している間に、さらに賃貸人の負担に属する必要費を支出した場合には、更に支出したものを含めた必要費全額の弁済を受けるまで留置権を行使することができる。
造作買取請求権と建物の留置権
建物の賃借人は、造作買取請求権の行使によって生じた代金債権を被担保債権として、建物について留置権を行使することはできない。
昭和29年1月14日最高裁第一小法廷民集8巻1号16頁(家屋明渡請求)
留置権者による賃貸
留置権者は、債務者の承諾を得て留置物を第三者に賃貸したときは、その賃料(法定果実)を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
有益費の償還と留置権の消滅
建物の賃借人が賃貸借終了後、有益費の償還請求権を被担保債権として留置権を行使している場合において、賃貸人の請求により裁判所がその償還について期限を許与したときは、留置権は消滅する。
二重売買と留置権の成否
不動産の二重売買において、第一買主は、売主の債務不履行に基づく損害賠償請求権を被担保債権として当該不動産を留置しようとしても、その後に当該不動産を譲り受けて登記を取得した第三者(第二買主)に対しては、留置権を主張することができない。
昭和43年11月21日最高裁第一小法廷民集22巻12号2765頁(家屋明渡請求)
留置権者の使用と債務者の承諾
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができず(その物の保存に必要な使用を除く)、これに違反したときは、債務者は留置権の消滅を請求することができる。
担保供与による留置権消滅請求
債務者は相当の担保を供して留置権の消滅を請求することができる。
留置権と債務者以外の者の物
留置権は債務者以外の者の物についても成立する。
留置権の不可分性
留置権者が目的物の一部を債務者に引き渡したとしても、特段の事情のない限り、債権の全部の弁済を受けるまで、留置物の残部について留置権を行使することができ、留置権は残部について消滅しない。
平成3年7月16日最高裁第三小法廷民集45巻6号1101頁
敷金返還請求権と留置権
特約のない通常の建物賃貸借では明渡しが敷金返還に先行するため、賃借人は敷金の返還を受けるまで建物を留置すると主張できない。
昭和49年9月2日最高裁第一小法廷民集28巻6号1152頁(家屋明渡請求)
借地上建物の買取請求と敷地明渡し拒絶
借地上の建物の買取請求権を行使した借地人は、建物代金の支払を受けるまで建物を留置でき、その結果として敷地の明渡しも拒むことができる。
昭和18年2月18日大審院第三民事部民集22巻91頁
賃料不払解除後の有益費と留置権
賃借人の賃料不払により賃貸借契約が解除された後、占有すべき権原のないことを知りながら目的物を占有する賃借人が目的物について有益費を支出した場合、民法295条2項の類推適用により、その有益費償還請求権を被担保債権とする留置権を主張することはできない。
昭和46年7月16日最高裁第二小法廷民集25巻5号749頁(家屋明渡等請求)
留置権行使中の使用と不当利得
建物の留置権者が留置権に基づき建物に従前と同様の態様で居住した場合、留置権者は建物所有者に対してその居住による利得を返還する義務を負う。
昭和10年5月13日大審院民集14巻876頁