条文・判例・学説を体系的に整理
理事会議事録の名義人と代表資格冒用
学校法人の理事会議事録を作成する権限がないのに、行使の目的で、虚偽の決議内容を記載し、末尾に「理事会議事録署名人」として自己の氏名を記載した文書を作成した場合、その表示は理事会を代表するものと誤信させるに足りる資格の表示であり、文書の名義人は理事会であるから、理事会名義の私文書を偽造したものとして私文書偽造罪が成立する。
昭和45年9月4日最高裁第二小法廷刑集24巻10号1319頁(有印私文書偽造、同行使、公正証書原本不実記載、同行使)
定着した通称の再入国許可申請と偽造
密入国した者が、他人名義の外国人登録証明書により在留を続け、その名義の通称を永年自己の氏名として公然使用し、それが相当広範囲に自己を指称するものとして定着していた状況においても、その名義の再入国許可申請書を作成する行為には、私文書偽造罪が成立する。
昭和59年2月17日最高裁第二小法廷刑集38巻3号336頁(外国人登録違法違反、有印私文書偽造、同行使)
公文書のコピーと公文書偽造罪の客体
公文書の写真コピーの作成も公文書偽造罪の客体となり得、その場合のコピーの名義人は原本の作成名義人であるとするのが判例であるが、これに対しては、コピーそれ自体を原本として行使する場合を除き、コピーの作成名義人はコピー作成者であり、コピーにはその記載を欠くので文書偽造罪にいう文書ということはできないとの批判がある。
昭和51年4月30日最高裁第二小法廷刑集30巻3号453頁(業務上横領、詐欺、有印公文書偽造、同行使)
市長名義の公文書と補助公務員の権限
市長の代決者である課長を補助する係長等の補助公務員も、公文書の内容の正確性を確保することなど、その者への授権を基礎付ける一定の基本的な条件に従う限度において作成権限を有する場合があるとするのが判例であるが、これに対しては、刑法が公文書偽造と虚偽公文書作成を区別している以上、文書の内容が正確ならば作成権限があるという解釈はその建前に反するとの批判がある。
昭和51年5月6日最高裁第一小法廷刑集30巻4号591頁(有印公文書偽造、同行使)
偽造通貨の収得時の認識と収得罪
偽造通貨を収得した時点で偽造であることを知らなかった者には、偽造通貨収得罪(刑法150条)は成立せず、収得後に偽造と知ってこれを行使し又は行使の目的で人に交付したときに、収得後知情行使罪(152条)が成立し得る。
宝くじと有価証券変造罪
いわゆる宝くじは刑法上の有価証券にあたり、外れた宝くじに印字された番号を当せん番号に改ざんする行為は、有価証券変造罪(刑法162条1項)にあたる。
昭和33年1月16日最高裁第一小法廷刑集12巻1号25頁(有価証券変造同行使詐欺)
死者名義の文書偽造
死亡した者の氏名を冒用して消費貸借契約書を作成した場合、一般人をして死者が生前に作成した文書と誤信させるおそれがあれば有印私文書偽造罪が成立する。
昭和26年5月11日最高裁第二小法廷刑集5巻6号1102頁(業務上横領、私文書偽造、同行使、詐欺)
支払用カード電磁的記録の不正作出
窃取したクレジットカードの番号等を冒用してインターネット上で決済代行業者のコンピュータに電子マネー購入の電磁的記録を作出した場合、支払用カード電磁的記録不正作出罪は成立せず、電子計算機使用詐欺罪が成立する。
間接正犯による虚偽公文書作成
上司である公文書の作成権限のある公務員を補佐して公文書の起案を担当する公務員が、その地位を利用し行使の目的で、職務上起案を担当する公文書に内容虚偽の記載をした上、情を知らない上司に署名押印させた場合、判例によれば虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立する。
昭和32年10月4日最高裁第二小法廷刑集11巻10号2464頁(虚偽公文書作成行使詐欺、収賄)
公文書偽造罪と形式・外観
行使の目的で、公務員の名義を冒用して公文書を作成したが、実際には当該公務員に当該文書の作成権限がなかった場合、当該文書が当該公務員の職務権限内で作成されたものと一般人が信ずるに足る形式・外観を備えていれば、公文書偽造罪が成立する。
昭和28年2月20日最高裁第二小法廷刑集7巻2号426頁(物価統制令違反、公文書偽造、同行使、詐欺)
不実記録罪と供用罪の牽連犯
情を知らない担当登記官に対し虚偽の申立てをして登記簿の磁気ディスクに不実の記録をさせた後、当該記録の内容を閲覧可能な状態にした場合、電磁的公正証書原本不実記録罪及び同供用罪が成立し、牽連犯となる。
有印公文書偽造罪と架空請求はがき
架空請求で行使する目的で、実在しない公的機関の名義を用い、その機関の偽造印章を使用してはがきを作成し、一般人に実在する公務所が権限内で作成したと誤信させる形式・外観を備える場合、有印公文書偽造罪が成立する。
昭和36年3月30日最高裁第一小法廷刑集15巻3号667頁(公文書偽造、同行使、詐欺、横領)
公文書の写しと有印公文書偽造罪
公務所又は公務員の印章又は署名のある公文書の原本を改変して写真コピーを作成し、原本の写しとして一般人に真正なものと誤信させるに足りる形式・外観を備えたものを作成した場合、写真コピーの上に印章又は署名が複写されている以上、原本作成名義人の印章又は署名のある文書として有印公文書偽造罪(刑法155条1項)が成立し、公務所の印章等が表示された健康保険証の氏名欄に自己の氏名を印刷した紙を貼り付けて複写機でコピーした場合も同様である(印章等によらない公文書の偽造は同条3項の無印公文書偽造罪となる)。
昭和51年4月30日最高裁第二小法廷刑集30巻3号453頁(業務上横領、詐欺、有印公文書偽造、同行使)
権限ある公務員による虚偽公文書作成罪
公務員が、その職務に関し、行使の目的で虚偽の文書を作成したときは虚偽公文書作成罪が成立するが、作成権限を有しない公務員が内容虚偽の公文書を作成した場合は、虚偽公文書作成罪ではなく公文書偽造罪が成立する。
有印私文書偽造罪と支払督促正本の受領
他人宛ての郵便物を受領する際に、その他人を装って郵便送達報告書の受領者欄に他人の氏名を記載した場合には、有印私文書偽造罪が成立し、支払督促制度を悪用して他人宛ての支払督促正本等を受領した場合も同様である。
平成16年11月30日最高裁第二小法廷刑集58巻8号1005頁(有印私文書偽造,同行使,詐欺)
FAX送信と文書偽造
公文書の内容を改ざんしてファクシミリで送信した場合、送信に供した原稿だけでなく、受信側で出力された書面も公文書偽造罪の客体となる。
平成8年5月22日広島高等裁判所岡山支部高刑集49巻2号246頁(有印公文書偽造、同行使、詐欺被告事件)
偽造と変造の区別
既存の真正な文書の非本質的部分を改ざんする行為は変造であって偽造ではなく、通帳の受入年月日のように日付のみを改ざんする行為は変造に当たる。
文書の写しと偽造罪
公文書に限らず、私文書であっても、その写し(機械的方法による正確な複写)は、原本と同一の意識内容を保有し証明文書として原本と同様の社会的機能と信用性を有するものと認められる限り、文書偽造罪の客体となり得る。
昭和51年4月30日最高裁第二小法廷刑集30巻3号453頁(業務上横領、詐欺、有印公文書偽造、同行使)
通称名の使用と私文書偽造
行使の目的で、交通事件原票中の供述書の署名欄に他人と同一の氏名を記載した場合、その氏名がある限られた範囲で自己を指称するものとして通用していても、作成名義を偽ったものとして私文書偽造罪が成立する。
昭和59年2月17日最高裁第二小法廷刑集38巻3号336頁(外国人登録違法違反、有印私文書偽造、同行使)
権限濫用と文書偽造
代表取締役が権限を濫用して会社名義の文書を作成した場合でも、文書作成権限がある限り私文書偽造罪は成立しない。
昭和51年5月6日最高裁第一小法廷刑集30巻4号591頁(有印公文書偽造、同行使)