条文・判例・学説を体系的に整理
国の私法上の行為と憲法9条の直接適用
憲法9条は私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではないが、国が一方当事者として関与した私法上の行為であっても、その成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情があるときは、同条の直接適用を受ける。
平成元年6月20日最高裁第三小法廷民集43巻6号385頁(不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加)
自衛戦争放棄否定説と交戦権
憲法9条1項が国際紛争を解決するための戦争を放棄したものであり、自衛戦争を放棄したものではないとの考え方に立った場合でも、同条2項後段の「国の交戦権は、これを認めない」は、交戦国が国際法上有する権利を否認したものと解することができる。
平和的生存権と私法行為の効力
憲法前文の平和主義ないし平和的生存権として主張される平和とは理念ないし目的としての抽象的概念であり、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものではない。
平成元年6月20日最高裁第三小法廷民集43巻6号385頁(不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加)
広義の交戦権と憲法9条1項の重複
憲法9条2項で否認されている交戦権の内容を国家が交戦者として有する権利と国際法上の用例に従って解するのでなく国家として戦争を行う権利と広く解する見解に対しては同条第1項の規定との重複が避けられないとの批判がある。
砂川事件と自衛のための戦力
砂川事件判決は、憲法9条1項によっても我が国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではないとし、アメリカ合衆国軍隊の駐留は、わが国が指揮権・管理権を行使し得る戦力に当たらないから9条2項に違反しないとしたが、9条2項が自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別としている。
昭和34年12月16日最高裁大法廷刑集13巻13号3225頁(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)
国家の自衛権と個人の正当防衛
個人の正当防衛の権利とは異なり、国家が固有の権利として自衛権を有するということはできないとする見解があり、これは自衛のための実力保持を認める見解に対する批判となりうる。
9条1項と自衛戦争
憲法9条1項は侵略戦争を放棄しているが自衛戦争は放棄しておらず、同条2項にいう「前項の目的」とは第1項の「国際紛争を解決する手段として」の戦争の放棄のみを指すとする解釈によれば、自衛のための戦力の保持は禁じられていないこととなる。
限定放棄説と戦力の区別困難
自衛のための戦力と侵略のための戦力とを区別することは困難であり、戦力の保持を禁じた9条2項の規定が無意味なものとなるとの指摘は、「前項の目的」を侵略戦争放棄の目的に限定し、自衛のための戦力の保持は禁じられていないとする見解に対する批判となる。
自衛権と9条
憲法9条は我が国が主権国として有する固有の自衛権まで否定するものではなく、自衛のために必要な最小限度の実力すなわち自衛力の保持を禁じていない。
昭和34年12月16日最高裁大法廷刑集13巻13号3225頁(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)
憲法9条2項の前項の目的の解釈
9条2項にいう「前項の目的」を、1項全体の精神、すなわち「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し」を指すと解し、2項によって警察力を上回る実力の保持が禁じられているとする見解がある。
戦力不保持と軍隊規定の不存在
日本国憲法には、66条2項の文民条項を除き、戦争開始の決定手続や軍隊の編制に関する規定が存在しないとの指摘は、9条2項により警察力を上回る実力の保持が禁じられているとする見解に対する批判とはならず、むしろその見解を補強する事情である。
憲法9条1項の「戦争」の解釈
憲法9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の「戦争」という文言を不戦条約に見られるような通常の国際法上の用例に従って解釈すると、それは侵略戦争を指し自衛戦争は含まれないことになるから、この解釈は、同項は自衛のためであると侵略のためであるとを問わず全ての戦争を放棄したとする見解の根拠とはならず、同項が放棄したのは侵略戦争に限られるとする見解の根拠となる。
9条2項の戦力不保持の趣旨
憲法9条2項が戦力の不保持を定めているのは、わが国が戦力を保持し自らその主体となってこれに指揮権・管理権を行使することにより同条1項において放棄するとした侵略戦争を引き起こすことがないようにするためであるとの見解(砂川事件判決)からは、同項が保持を禁止した戦力はわが国が主体となって指揮権・管理権を行使し得る戦力をいい、わが国に駐留する外国の軍隊はこれに該当しないことになるから、この見解は、日米安保条約に基づき駐留するアメリカ合衆国の軍隊が同項の「戦力」に該当するとの見解の根拠とはならない。
憲法9条の権利侵害と裁判上の救済
憲法9条は国家の統治機構・統治活動について定めたものであって国民の権利を直接保障したものではないとの立場に立つと、同条に違反する具体的な立法又は行政処分により個人に何らかの不利益が生じたとしても、同条で保障された個人の権利が侵害されたものということはできない。
平成17年10月25日甲府地方裁判所(自衛隊イラク派遣違憲確認等請求事件)
9条の個人権利性に関する学説
憲法9条の平和は国民一般の公益であって個人の具体的権利ではないとする見解がある一方、前文の平和的生存権を根拠に個人の権利性を認める立場もあり、長沼ナイキ事件第1審(札幌地判昭48.9.7)は平和的生存権を認めた。
9条前文と平和主義の趣旨
憲法9条は前文における平和主義の原則を受けて規定されたものであり平和達成のための禁止事項を前文よりも具体的に列挙しているが、これは国家機関に対して一定の行為を禁止するものであって、その保護法益は国民一般の公益であるとの見解は、同条に違反する具体的な立法又は行政処分により個人に何らかの不利益が生じたとしても同条で保障された個人の権利が侵害されたものということはできないとする見解の根拠となる。
憲法9条の保護法益
憲法9条は前文の平和主義を受けて国家機関に対し一定の行為を禁止する規定であり、その保護法益は国民一般の公益であって個人の権利を直接保障するものではないとする見解がある。
憲法9条1項の戦争放棄
憲法9条1項は日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としてはこれを永久に放棄すると規定する。
憲法9条1項の戦争放棄の範囲
憲法9条1項の「国際紛争を解決する手段として」の戦争放棄について、不戦条約の用例に従えば侵略戦争のみの放棄を意味し、自衛戦争は放棄されていないとする解釈がある。
憲法9条2項の戦力不保持の趣旨
憲法9条2項の戦力不保持規定は、わが国が自ら戦力を保持しその主体として指揮権管理権を行使することにより侵略戦争を引き起こすことを防止する趣旨であるとする見解がある。