条文・判例・学説を体系的に整理
信用毀損の虚偽風説と客観的真実
信用毀損罪における「虚偽の風説を流布」とは、客観的真実に反する事項を不特定又は多数の人に伝播させることをいい、実際に破産した者について破産者である旨記載したビラを配布する行為は、内容が客観的真実に反しないから、虚偽の風説の流布に該当しない。
業務妨害罪の妨害の危険
業務妨害罪における「妨害」とは、現に業務妨害の結果が発生したことを必要とせず、業務を妨害するおそれのある行為が行われれば足りるから、美容師を解雇させて美容室経営者の業務を妨害するため、虚偽内容の信書を郵送した行為は、美容師の解雇に至らなくとも、妨害行為に該当し得る。
権力的公務除外説と虚偽通報の業務妨害
強制力を行使する権力的公務のみを業務妨害罪の保護対象から除外する見解でも、警察官に対し犯罪予告の虚偽の通報がされた場合は、その段階では強制力を行使し得る段階にないので、妨害された警察官の活動全体について偽計業務妨害罪が成立する。
業務妨害罪の公務全面除外説
業務妨害罪の「業務」に公務が全て含まれないとの立場に立つと、威力を用いて公立高校の入学試験を妨害しても威力業務妨害罪も公務執行妨害罪も成立しないことになりかねず、私立高校の入学試験を妨害した場合との間で不均衡が生ずる。
業務妨害罪における「業務」と要保護性
業務妨害罪にいう「業務」は、行政上の許可を受けていない営業や行政取締法規に違反する営業であっても直ちに保護の対象から除かれるものではなく、要保護性を失わせるような法的瑕疵がなければ、同罪によって保護される。
平成14年9月30日最高裁第一小法廷刑集56巻7号395頁(威力業務妨害被告事件)
卒業式の妨害と威力業務妨害罪
卒業式の開式直前に、式典会場で保護者らに対して大声で呼び掛け、制止した教頭に怒号するなどして会場を喧噪状態に陥れ、卒業式の円滑な遂行を妨げた行為は、威力を用いて他人の業務を妨害したものとして、威力業務妨害罪に当たる。
平成23年7月7日最高裁第一小法廷刑集65巻5号619頁(威力業務妨害被告事件)
弁護士の業務用鞄の隠匿と業務妨害
弁護士業務にとって重要な書類が在中する鞄を奪取して隠匿する行為は、被害者の意思を制圧するに足りる勢力を用いたものであり、威力業務妨害罪にあたる。
昭和59年3月23日最高裁第三小法廷刑集38巻5号2030頁(威力業務妨害)
偽計業務妨害罪の「偽計」の意義
偽計業務妨害罪における「偽計」には、電話料金の支払を免れるために電話回線に機器を取り付けて課金装置の作動を不能にする行為も含まれる。
昭和59年4月27日最高裁第三小法廷刑集38巻6号2584頁(有線電気通信法違反、同教唆、同幇助、偽計業務妨害、同教唆、同幇助)
信用毀損罪における「信用」の範囲
信用毀損罪における「信用」には、人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼だけでなく、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含まれる。
平成15年3月11日最高裁第三小法廷刑集57巻3号293頁(信用毀損,業務妨害,窃盗被告事件)
威力業務妨害罪の「威力」の意義
威力業務妨害罪における「威力」とは、客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足りる勢力であればよく、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要しない。
昭和28年1月30日最高裁第二小法廷刑集7巻1号128頁(住居侵入、業務妨害)
電子計算機損壊等業務妨害罪の既遂時期
人の業務に使用する電子計算機に対して不正な指令を入力した場合、その指令の内容が人の業務を妨害するおそれのあるものであっても、当該電子計算機の動作に影響を及ぼしていなければ電子計算機損壊等業務妨害罪の既遂犯は成立しない。
公務と業務妨害罪
強制力を行使する権力的公務は威力業務妨害罪の対象とならないが、選挙長の候補者届出受理事務のように強制力を付与されていない公務は業務妨害罪の保護対象となる。
平成12年2月17日最高裁第二小法廷刑集54巻2号38頁(業務妨害被告事件)
偽計と威力の区別
偽計と威力の区別は、妨害の手段が人を欺く態様であるか人の意思を制圧する態様であるかによって判断される。
ATM占拠と偽計業務妨害
銀行ATMの利用客を装って長時間ATMを占拠する行為は、銀行の錯誤を利用する手段であり、偽計業務妨害罪に該当する。
平成19年7月2日最高裁第一小法廷刑集61巻5号379頁(建造物侵入,業務妨害被告事件)
偽計業務妨害罪の意義
偽計業務妨害罪(刑法233条後段)における「偽計」とは、人を欺罔し、または人の錯誤・不知を利用する行為をいう。
平成19年7月2日最高裁第一小法廷刑集61巻5号379頁(建造物侵入,業務妨害被告事件)
かばんの奪取と偽計・威力の区別
弁護士の活動を困難にさせる目的で、同人が携行する訴訟記録等入りのかばんを奪い取った上自宅に保管する行為は、人を欺き又は人の錯誤・不知を利用する手段によるものではないから、偽計業務妨害罪を構成しない。
威力業務妨害罪の意義
威力業務妨害罪(刑法234条)における「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいう。
昭和28年1月30日最高裁第二小法廷刑集7巻1号128頁(住居侵入、業務妨害)
放火予告の書き込みと威力業務妨害罪
講演会の主催者が閲覧する可能性を認識した上で、インターネット上の掲示板に講演会の会場に放火するという趣旨の書き込みをし、主催者に閲覧させて講演会を中止させた場合、威力業務妨害罪が成立する。
公務と業務妨害罪の適用関係
判例は、強制力を行使する権力的公務ではない公務(国鉄の現業業務、県議会委員会の条例案採決等の事務、選挙長の立候補届出受理事務など)は、業務妨害罪の「業務」に当たるとする。
昭和62年3月12日最高裁第一小法廷刑集41巻2号140頁(建造物侵入、威力業務妨害)
公務の業務性をめぐる学説
公務の性質を問わず公務が業務妨害罪の「業務」に含まれるとする見解では、威力・偽計による公務の妨害にも233条・234条が適用されるから、公務が業務に比して軽い保護しか受けられないという批判は当たらない。