条文・判例・学説を体系的に整理
錯誤取消しと重過失の例外
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合において、相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときは、表意者は意思表示の取消しをすることができる。
錯誤取消しと期間制限
錯誤による意思表示は民法95条の要件を満たすときに取り消すことができ、その取消権は、追認をすることができる時から5年間又は行為の時から20年間行使しないときは消滅する。
連帯保証人の動機の錯誤
他にも連帯保証人がいることが契約の基礎とされて表示され、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要であるときは、保証人は民法95条の要件を満たす限り、その意思表示を取り消すことができる。
昭和32年12月19日最高裁第一小法廷民集11巻13号2299頁(約束手形金請求)
保証契約と主契約不存在の錯誤
立替払契約上の債務を保証する場合、商品の売買契約の成否は原則として保証契約の重要な内容であるから、売買契約が存在しないことを知らずに連帯保証をした保証人は、錯誤を理由に保証の意思表示の効力を否定することができる(現行法では民法95条の要件の下での取消し)。
平成14年7月11日最高裁第一小法廷判時1805号56頁
重大な過失による錯誤と相手方の重過失
表意者に重大な過失がある場合でも、相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、表意者は、錯誤を理由にその意思表示を取り消すことができる。
詐欺と錯誤の競合
相手方に欺罔された結果、錯誤に陥り、その錯誤により意思表示をした場合において、その錯誤が民法95条の要件を満たすときは、表意者は、錯誤による意思表示の取消しをすることも、詐欺による意思表示の取消しをすることもできる。
錯誤と制限行為能力の関係
被保佐人が保佐人の同意を得て契約を締結した場合でも、保佐人の同意の有無は錯誤取消しの要件と関係がないから、民法95条の要件(法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤であること、基礎事情の錯誤ではその事情が法律行為の基礎とされていることの表示、錯誤が表意者の重大な過失によるものでないこと等)を満たすときは、被保佐人は錯誤を理由にその意思表示を取り消すことができる。
錯誤による取消しの取消権者
錯誤は現行民法では取消事由であり、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り取り消すことができる。
昭和40年9月10日最高裁第二小法廷民集19巻6号1512頁(建物収去土地明渡請求)
相手方悪意時の錯誤と表意者の重過失
相手方が表意者に錯誤があることを知っていたときは、錯誤が表意者の重大な過失によるものであっても、表意者は錯誤を理由として意思表示を取り消すことができる。
契約不適合責任と錯誤取消しの関係
売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合に、買主が契約不適合責任(民法562条〜564条)とは別に錯誤(同法95条)による取消しを主張できるかについて、両者の関係を定める規定はなく、解釈に委ねられている。
昭和33年6月14日最高裁第一小法廷民集12巻9号1492頁(商品代金請求)
裁判上の和解の意思表示の錯誤取消し
裁判上の和解であっても、その意思表示が民法95条1項の要件を満たす錯誤に基づくときは、錯誤を理由として取り消すことができる。
昭和33年6月14日最高裁第一小法廷民集12巻9号1492頁(商品代金請求)
表意者の債権者と錯誤取消権の行使
錯誤によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り取り消すことができ(民法120条2項)、表意者の債権者が債権者代位権(同法423条)により表意者の錯誤による取消権を行使できるか、その要件として表意者が錯誤を認めていることを要するかは、条文上明示されていない。
昭和45年3月26日最高裁第一小法廷民集24巻3号151頁(油絵代金返還請求)
基礎事情の錯誤による取消要件
表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる(民法95条1項2号・2項)。
平成元年9月14日最高裁第一小法廷集民157号555頁(建物所有権移転登記抹消登記手続請求事件)
重過失ある表意者と相手方の錯誤取消し
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、相手方が表意者に錯誤があることを知り若しくは重大な過失によって知らなかったとき又は相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときを除き、表意者は錯誤による意思表示の取消しをすることができず(民法95条3項)、相手方も、錯誤による取消権を有しないから、取り消すことはできない(民法120条2項)。
昭和40年6月4日最高裁第二小法廷民集19巻4号924頁(土地賃借権不存在確認等請求)
錯誤による取消権者と表意者の債権者
錯誤によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り取り消すことができるから(民法120条2項)、表意者に対する債権者は、表意者が錯誤を認めている場合であっても、自己の取消権として表意者の意思表示を錯誤を理由に取り消すことはできない。
昭和45年3月26日最高裁第一小法廷民集24巻3号151頁(油絵代金返還請求)
重過失ある錯誤と相手方第三者の取消し
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、相手方が表意者に錯誤があることを知り若しくは重大な過失によって知らなかったとき又は相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときを除き、表意者は錯誤による意思表示の取消しをすることができず(民法95条3項)、相手方又は第三者(表意者の代理人・承継人を除く)は、錯誤による取消権を有しないから、取り消すことはできない(民法120条2項)。
昭和40年6月4日最高裁第二小法廷民集19巻4号924頁(土地賃借権不存在確認等請求)
動機の錯誤の黙示表示と財産分与の課税
離婚に伴う財産分与契約において、分与者が自己に譲渡所得税が課されないことを法律行為の基礎とし、その事情が法律行為の基礎とされていることが黙示的に表示されていた場合にも、民法95条2項の表示があったといえ、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、分与者は、同条3項により取消しが制限される場合を除き、錯誤を理由に財産分与契約を取り消すことができる。
平成元年9月14日最高裁第一小法廷集民157号555頁(建物所有権移転登記抹消登記手続請求事件)
他の連帯保証人の存在の誤信と錯誤
他に連帯保証人があるとの債務者の説明を誤信して連帯保証契約を結んだ者は、他に連帯保証人があるという事情が保証契約の基礎とされていることが表示されていたのでなければ、錯誤を理由に保証契約を取り消すことができない(民法95条1項2号・2項)。
昭和32年12月19日最高裁第一小法廷民集11巻13号2299頁(約束手形金請求)
和解の前提事項の錯誤と確定効の限界
和解契約において、争いの目的とされず当事者が和解の前提とした事項(代物弁済の目的物の品質など)に錯誤がある場合には、和解の確定効(民法696条)に妨げられず、95条の要件を満たせば錯誤による取消しを主張することができる。
昭和33年6月14日最高裁第一小法廷民集12巻9号1492頁(商品代金請求)
動機の錯誤取消しと表意者の重過失
表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)による意思表示は、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されており、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは取り消すことができ、錯誤が表意者の重大な過失によるものであったときは相手方の悪意・重過失又は共通錯誤の場合を除き取り消すことができないが、表意者に単なる過失があるにとどまるときは取消しは妨げられない(民法95条1項2号・2項・3項)。
昭和29年11月26日最高裁第二小法廷民集8巻11号2087頁(売買代金返還請求)