条文・判例・学説を体系的に整理
延焼危険なき建物の消防破壊と損失補償
消防長等が、消火若しくは延焼の防止又は人命の救助のために緊急の必要があるときに、延焼のおそれがある消防対象物及びその土地以外の消防対象物及び土地を使用し、処分し又はその使用を制限したときは、損害を受けた者から損失の補償の要求があれば、時価によりその損失を補償する。
正当な補償の意義
損失補償に際しては「正当な補償」が必要であると解されているが、最高裁判所の判例では、農地改革をめぐる事案において、この「正当な補償」の額は、その当時の経済状態において成立すると考えられる価格と完全に一致することを要しないとされた。
昭和28年12月23日最高裁大法廷民集7巻13号1523頁(農地買収に対する不服申立(特別上告))
鉱業法64条の制限と損失補償
鉱業法64条の定める制限は公共施設等の管理運営上支障ある事態の発生を未然に防止するための一般的な最小限度の制限であり何人も当然受忍しなければならないものであって特定の人に対し特別の財産上の犠牲を強いるものではないから憲法29条3項を根拠に補償請求をすることはできない。
昭和57年2月5日最高裁第二小法廷民集36巻2号127頁(損害賠償)
奈良県ため池条例と損失補償
奈良県ため池の保全に関する条例4条2号はため池の堤とうを使用する財産上の権利の行使を著しく制限するものであるが災害を防止し公共の福祉を保持する上に社会生活上やむを得ないものであり当然受忍しなければならない責務というべきものであって憲法29条3項の損失補償を必要としない。
昭和38年6月26日最高裁大法廷刑集17巻5号521頁(ため池の保全に関する条例違反)
行政財産使用許可の取消しと補償
都有行政財産である土地について建物所有を目的とし期間の定めなくされた使用許可が当該行政財産本来の用途又は目的上の必要に基づき将来に向かって取り消された場合使用権者は特別の事情のない限りその取消しによる土地使用権喪失についての補償を求めることはできない。
昭和49年2月5日最高裁第三小法廷民集28巻1号1頁(借地権確認土地引渡等請求)
損失補償の内在的制約と外的制限の区別
都有行政財産の使用許可が本来の用途又は目的上の必要により取り消された場合の補償の要否は、使用権自体に本来の用途目的上の必要が生じたときは消滅するという制約が内在していたかによって判断され、外から課される制限が公共の福祉のための一般的な制限として受忍すべきものか(鉱業法64条・ため池条例)や、警察規制に基づく損失がたまたま現実化したにすぎないか(道路法70条1項)を理由に補償を否定した判例とは、判断の主要な要素が異なる。
道路法70条1項の補償対象
道路法70条1項による補償の対象は道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした工作物の新築等に起因する損失に限られ警察規制に基づく損失がたまたま現実化したにすぎないものは含まれない。
昭和58年2月18日最高裁第二小法廷民集37巻1号59頁(損失補償裁決取消等)
行政財産使用許可撤回の補償
期間の定めのない行政財産の使用許可が当該財産本来の用途又は目的上の必要により撤回された場合、使用権者がなお使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情がない限り、使用権の消滅自体による損失について補償を要しない。
昭和49年2月5日最高裁第三小法廷民集28巻1号1頁(借地権確認土地引渡等請求)
技術基準違反による施設移転の損失補償
既存の適法な施設が、後発的な事情により警察法規の定める技術上の基準に適合しなくなって警察違反の状態を生じたため、移設等を余儀なくされたことによる損失は、警察規制に基づく損失であって、損失補償を要しない。
昭和58年2月18日最高裁第二小法廷民集37巻1号59頁(損失補償裁決取消等)
現状維持のための土地利用規制と補償
自然公園法の特別地域内の建築物の新築の不許可による損失について補償を不要とする理由としては、地域一帯において土地及び土地利用の現状を維持することの公共性が高く、現状維持のための規制による損失であることが挙げられる。
消防活動と損失補償
消防活動において、延焼のおそれはないが消火のために緊急の必要があるとして建築物を破壊した場合、損害を受けた建築物の所有者は損失補償を請求することができる。
道路供用の騒音被害と営造物責任
収用事業として整備された道路の供用による沿道住民の騒音・振動等の被害は、最高裁判例では国家賠償法2条1項の営造物の瑕疵(受忍限度)の問題として判断され、損失補償の問題とはされていない。
平成7年7月7日最高裁第二小法廷民集49巻7号1870頁(国道四三号・阪神高速道路騒音排気ガス規制等)
予防接種禍の国家賠償による救済
予防接種による重篤な後遺障害について、最高裁判所は損失補償による救済を認めておらず、国家賠償法に基づく請求として判断している。
平成3年4月19日最高裁第二小法廷民集45巻4号367頁(損害賠償)
用途地域指定の土地規制と補償規定の欠缺
都市計画に用途地域が定められたことにより土地利用規制を受けることになった者が、地方公共団体に対して損失補償を請求することができる旨を定めた規定は、法律上置かれていない。