条文・判例・学説を体系的に整理
逃走罪の既遂時期と実力的支配の離脱
逃走罪(刑法97条)は、看守者の実力的支配を脱したときに既遂となり、刑事施設の敷地外に脱出しても、看守者から姿を見失われずに追跡を受け続け、その実力的支配から脱したとは認められないときは、既遂とはならない。
昭和29年1月12日福岡高等裁判所高刑集7巻1号1頁(逃走窃盗被告事件)
加重逃走罪の通謀と主体の人数
刑法98条の加重逃走罪における「二人以上通謀して」とは、同罪の主体(法令により拘禁された者)が二人以上通謀することをいうから、法令により拘禁された者が、拘禁された者でない面会者と通謀して逃走した場合を含まない。
合鍵による解錠と加重逃走罪の器具損壊
刑法98条にいう「拘束のための器具を損壊し」とは、拘束のための器具を物理的に損壊することをいい、手錠を合鍵で外す行為は、器具の損壊に当たらない。
拘禁場の損壊による加重逃走の着手時期
拘禁場の損壊による加重逃走罪については、逃走の手段として拘禁場内の換気孔周辺の壁を削り取って損壊した時に、逃走行為自体に着手した事実がなくても、実行の着手が認められる。
逃走援助罪の逃走させる目的
逃走援助罪(刑法100条1項)は、法令により拘禁された者を逃走させる目的で、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為をした場合に成立し、逃走させる目的が必要である。
押収物の損壊と公務執行妨害の間接暴行
公務執行妨害罪の「暴行」は、公務員の身体に対する直接の有形力の行使に限られず、公務員の面前でその差し押さえた物を破壊する行為など、公務員に対し間接的に物理的な影響を及ぼす行為も含まれ得る。
昭和33年10月14日最高裁第三小法廷刑集12巻14号3264頁(爆発物取締罰則違反、放火未遂、公務執行妨害、傷害)
偽証罪の「虚偽」の意義(主観説)
偽証罪における「虚偽」とは証人の記憶に反することをいうとする主観説によれば、客観的真実に合致していても自己の記憶に反する証言をしたときは「虚偽」に当たり、証人の記憶に反する陳述をしたことを認識していれば故意が認められて偽証罪が成立する。
偽証罪の「虚偽」の意義(客観説)
偽証罪における「虚偽」とは客観的真実に反することをいうとする客観説によれば、客観的真実に反する証言は「虚偽」に当たるが、証人がその証言を真実であると認識しているときは、自己の記憶に反していても故意が認められず、偽証罪は成立しない。
偽証罪の虚偽の解釈と判例の主観説
判例は、偽証罪の「虚偽」を、証人の記憶に反する陳述をいうものと解する主観説に立っている。
参考人の虚偽供述と証拠偽造罪
他人の刑事事件に関し、被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べを受けた際、虚偽の供述をし、その虚偽の供述内容が供述調書に録取されたとしても、そのことだけをもって刑法104条の証拠を偽造した罪に当たるということはできない。
平成28年3月31日最高裁第一小法廷刑集70巻3号58頁(詐欺,証拠隠滅被告事件)
証言後の報復脅迫と証人威迫罪
刑事事件の公判に証人として出廷した者が証言を終えた後であっても、その事件の公判が係属している間に、証言に対する報復の趣旨で面会を強請し又は強談威迫の行為をしたときは、証人等威迫罪が成立し得る。
退職して民間企業に就職した後の賄賂の収受
公務員が退職して民間企業に就職した後に前の公務に関して賄賂を収受した場合は、収受の当時に公務員でない以上、単純収賄罪、受託収賄罪及び加重収賄罪のいずれも成立せず、事後収賄罪の成否が問題となる。
公務転職後の収賄罪肯定説と職務の解釈
他の公務に転じた後に前の公務に関して賄賂を収受した場合にも収賄罪が成立し得るとする見解に対しては、賄賂が公務員の担当する「その職務」に関するものでなければならないとしている刑法の趣旨をゆがめるとの批判がある。
事後収賄罪と元公務員の解釈
他の公務に転じた後に前の公務に関して賄賂を収受した場合に事後収賄罪のみが成立するとする見解の立場からは、事後収賄罪にいう「公務員であった者」に、前の公務との関係で一般的職務権限を喪失した後の公務員も含むと解釈することになる。
転職後の事後収賄罪限定説と処罰の間隙
他の公務に転じた後に前の公務に関して賄賂を収受した場合に事後収賄罪のみが成立し得るとする見解に対しては、賄賂の収受の時期を遅らせて他の公務に転じた後に収受すれば、請託や職務違反行為がない限り不可罰となってしまい不合理であるとの批判がある。
証言拒絶権を行使しない虚偽証言と偽証
証人が証言拒絶権(刑訴法146条)を持っていたとしても、これを行使せずに宣誓の上で虚偽の陳述をすれば偽証罪が成立する。
昭和32年4月30日最高裁第三小法廷刑集11巻4号1502頁(自転車競技法違反、偽証、同教唆)
宣誓の趣旨を理解できない者と偽証罪
刑訴法155条1項により宣誓をさせてはならない「宣誓の趣旨を理解することができない者」に誤って宣誓させても、その宣誓は偽証罪の「法律により宣誓した」ものに当たらず、その者が虚偽の陳述をしても偽証罪は成立しない。
教員への金品供与と社交儀礼
公立学校の教員が担任する生徒の保護者から商品券等を受け取った場合でも、それが慣行的社交儀礼の範囲にとどまり職務行為の対価と認められないときは賄賂に当たらず、常に賄賂に当たるわけではない。
昭和50年4月24日最高裁第一小法廷集刑196号175頁(収賄)
賄賂の対価関係と一般的職務権限
賄賂罪において賄賂と対価関係に立つ行為は、法令上公務員の一般的職務権限に属する行為であれば足り、公務員が具体的事情の下においてその行為を適法に行うことができたかどうかは問わない。
平成7年2月22日最高裁大法廷刑集49巻2号1頁(外国為替及び外国貿易管理法違反、贈賄、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反被告事件)
共同収受した賄賂の追徴
収賄の共同正犯者が共同して収受した賄賂について、裁判所は、共犯者各自に対し、公務員の身分の有無にかかわらず、それぞれその価額全部の追徴を命じることができ、相当と認められる場合には、裁量により、各自に一部の額の追徴を命じ、あるいは一部の者にのみ追徴を科することも許される。
平成16年11月8日最高裁第三小法廷刑集58巻8号905頁(収賄被告事件)