条文・判例・学説を体系的に整理
被害者に自殺を強いた行為と殺人未遂罪
自殺させて保険金を取得する目的で、被告人を極度に畏怖して服従していた被害者に暴行・脅迫を加えて、車ごと海中に転落して自殺することを執ように要求し、他の行為を選択できない精神状態に陥らせて転落させた行為は、被害者が生き延びたとしても、殺人未遂罪に当たる。
平成16年1月20日最高裁第三小法廷刑集58巻1号1頁(公正証書原本不実記載,同行使,殺人未遂被告事件)
私人による現行犯逮捕と傷害
私人が現行犯人を逮捕しようとする場合に社会通念上必要かつ相当と認められる限度内の実力を行使して犯人に傷害を負わせたときは、法令による行為に当たり傷害罪は成立しない。
昭和50年4月3日最高裁第一小法廷刑集29巻4号132頁(傷害)
争議行為と建造物侵入罪
勤労者の争議行為に際し人の看守する建造物に看守者の意思に反して侵入した場合、法令による行為として違法性が阻却されるものではなく、建造物侵入罪が成立し得る。
昭和48年4月25日最高裁大法廷刑集27巻3号418頁(住居侵入、公務執行妨害)
虚偽告訴の被告人と名誉毀損の防御
虚偽告訴罪で起訴された者が公判廷において被告訴人の名誉を毀損する虚偽の事実を公然と摘示した場合、防御権の行使の限度を超えており名誉毀損罪が成立しうる。
被害者の承諾の一般的効果
被害者の承諾は個人的法益に対する罪において違法性を阻却する事由となりうるが、承諾があっても、承諾を得た動機・目的、行為の手段・方法、損傷の部位・程度など諸般の事情に照らして違法性が阻却されないことがある。
昭和55年11月13日最高裁第二小法廷刑集34巻6号396頁(再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告)
承諾と保護法益の処分可能性
被害者の承諾による違法性阻却は個人的法益に対する罪に限られ、国家的法益又は社会的法益に対する罪には原則として適用されず、個人の権利を侵害すると同時に官憲の職務を誤らせる危険があるために処罰される虚偽告訴罪は、被告訴者の承諾があっても成立する。
大正元年12月20日大審院刑録18巻1566頁(誣告ノ件)
同意傷害に関する学説対立
同意傷害について、有効な同意があれば傷害罪の構成要件該当性を欠くとする見解と、同意があっても違法性阻却の問題であり一定の場合には傷害罪が成立するとする見解がある。
自救行為と建造物損壊罪
借地人が自己所有の店舗を増築する必要から、借地内に突き出ている隣家の玄関の軒先(屋根)をその所有者の承諾なく切除した場合、増築が経営の危機を打開するため遷延を許さない事情にあり、放置した場合の自己の損害が甚大であるとしても、自救行為として違法性が阻却されることはなく、建造物損壊罪が成立し得る。
昭和30年11月11日最高裁第二小法廷刑集9巻12号2438頁
取材目的の秘密漏示教唆と違法性
取材目的で国家公務員に秘密漏示を唆した場合、取材の自由が憲法上保障されるとしても直ちに正当業務行為として違法性が阻却されるわけではない。
昭和53年5月31日最高裁第一小法廷刑集32巻3号457頁(国家公務員法違反)
正当業務行為の意義
法令又は正当な業務による行為は違法性が阻却され罰しない。
現行犯逮捕の際の有形力行使
現行犯人を逮捕しようとする私人が犯人から抵抗を受け社会通念上必要かつ相当な範囲で実力を行使し傷害を負わせた場合、法令による行為として違法性が阻却されうる。
昭和50年4月3日最高裁第一小法廷刑集29巻4号132頁(傷害)
弁護活動と正当業務行為
弁護活動の一環としての記者会見であっても、その内容が名誉毀損に当たる場合には直ちに正当業務行為として違法性が阻却されるわけではない。
昭和51年3月23日最高裁第一小法廷刑集30巻2号229頁(名誉毀損)
被害者の同意による構成要件該当性阻却
被害者の意思に反することが構成要件要素となっている犯罪では、被害者の同意により構成要件該当性が阻却される。
被害者の同意の四類型
被害者の同意は構成要件該当性阻却型、犯罪成立に無影響な型、同意により軽い罪となる型、違法性阻却型の四つに分類される。
住居侵入罪と被害者の同意
住居侵入罪の「侵入」を住居権者・管理権者の意思に反する立入りと解した場合、住居権者の同意は構成要件該当性を阻却するのであって違法性阻却の類型には入らない。
業務上堕胎罪と同意堕胎罪
業務上堕胎罪は被害者の同意がある場合とない場合が分けて規定され同意があると軽い罪が成立する類型に入る。
窃盗罪と被害者の意思
窃盗罪は被害者の意思に反する占有移転を要件とするため、被害者の同意がある場合には構成要件該当性が阻却される類型に入る。
平成19年4月13日最高裁第二小法廷刑集61巻3号340頁(建造物侵入,窃盗被告事件)
医療行為と承諾による傷害
医師免許を有しない者が医学的に必要な措置を取らずに行った手術は、被害者の承諾があっても傷害罪が成立し得る。
昭和55年11月13日最高裁第二小法廷刑集34巻6号396頁(再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告)
公然わいせつ罪と被害者の同意
公然わいせつ罪は社会的法益に対する罪であり、わいせつな行為をする者の承諾があっても、違法性は阻却されず、共同正犯が成立し得る。
保険金騙取目的の傷害と被害者の承諾
保険金を騙取する目的で被害者の承諾を得てその身体に傷害を負わせた場合、承諾は違法な目的に利用するために得られた違法なものであり、傷害行為の違法性を阻却せず、傷害罪が成立する。
昭和55年11月13日最高裁第二小法廷刑集34巻6号396頁(再審請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告)