条文・判例・学説を体系的に整理
損失補償の同時履行不要
憲法29条3項は「正当な補償」と規定しているだけで補償の時期については規定していないから、損失補償が私有財産の供与と交換的に同時履行されなくても憲法に違反するものではない。
昭和24年7月13日最高裁大法廷刑集3巻8号1286頁(食糧管理法違反)
在外資産喪失と憲法29条3項
日本国民が平和条約の締結に伴い在外資産を喪失した損害は、戦争損害として国民が等しく受忍すべきものであり、憲法29条3項に基づく損失補償を求めることはできない。
昭和43年11月27日最高裁大法廷民集22巻12号2808頁(補償金請求)
憲法29条3項による損失補償直接請求
個別法に損失補償の規定がなくても、財産上の犠牲が一般的に当然受忍すべき制限の範囲を超え、特別の犠牲に当たり得る場合には、損失を具体的に主張立証し、憲法29条3項を直接の根拠として補償を請求する余地がある。
昭和43年11月27日最高裁大法廷刑集22巻12号1402頁(河川附近地制限令違反)
予防接種による副作用被害と損失補償
予防接種による副作用被害が問題となった事案では、生命や身体に対する損害であっても損失補償の対象になり得るとの主張がなされたが、このような損失補償による救済を明示的に認めた最高裁判所の判例はない。
損失補償における特別の犠牲の範囲
損失補償における特別の犠牲とは財産上の損害に限られるのかについては議論があり、生命や身体に対する損害も損失補償の対象になり得るとの主張がある。
損失補償と損害賠償の谷間
損失補償請求権として法律構成することが考えられる事案であっても、補償規定がない場合に、信頼保護違反に基づく不法行為責任や、予防接種事故における禁忌者該当の推定(特段の事情がない限り)を前提とする損害賠償責任が認められて被害者の救済が図られることがある。
昭和56年1月27日最高裁第三小法廷民集35巻1号35頁(損害賠償)
土地収用の事業認定時価格と修正率
収用する土地に対する補償金の額は、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とされ、権利取得裁決の時点の土地取引価格を基準に代替地取得が可能な額を算定するものではない。
一部土地収用による残地の価格減少補償
同一の土地所有者に属する一団の土地の一部を収用することにより、残地の価格が減じ、その他残地に関して損失が生ずるときは、起業者は、その損失を補償しなければならない。
非収用隣接地の通路等設置費用の補償
土地を収用し、その土地を事業の用に供することにより、当該土地及び残地以外の土地について、通路、溝、垣、さくその他の工作物を新築し、改築し、増築し、若しくは修繕し、又は盛土若しくは切土をする必要が生ずるときは、起業者は、これらの工事をすることを必要とする者の請求により、これに要する費用の全部又は一部を補償しなければならない。
補償増額訴訟の勝訴差額の法定利率相当額
収用された土地の被収用者が、権利取得裁決に定められた補償額を不服として補償金増額請求訴訟を提起して勝訴した場合には、正当な補償額と裁決で定められた補償額との差額のみならず、その差額に対する権利取得の時期から支払済みに至るまでの民法所定の法定利率に相当する金員を請求することができる。
平成9年1月28日最高裁第三小法廷民集51巻1号147頁(収用補償金増額)
土地収用の完全補償と財産価値の等価
土地収用法71条による補償金の額の決定に十分な合理性があり、被収用者は、収用の前後を通じて被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償を受けられるから、同条は憲法29条3項に違反しない(最判平14.6.11)。
平成14年6月11日最高裁第三小法廷民集56巻5号958頁(土地収用補償金請求事件)
営業補償の対象
土地収用に伴い営業を一時休止せざるを得なくなった場合、営業の休止がなければ得られていたはずの収益は、土地収用法上損失補償の対象になる。
長期の都市計画制限と特別の犠牲
都市計画決定に基づく建築制限を長期間受けてきた場合でも、一般的に当然に受忍すべきものとされる制限の範囲を超えて特別の犠牲を課せられたものということはいまだ困難であるから、直接憲法29条3項を根拠として損失補償を請求することはできない(最判平17.11.1)。
平成17年11月1日最高裁第三小法廷集民218号187頁(市道区域決定処分取消等請求事件)
土地収用の完全補償と客観的評価
土地収用法71条の補償金額は「相当な価格」という不確定概念で定められていても、完全な補償をなすべきものであって、補償の範囲及び額の決定が収用委員会の合理的な裁量にゆだねられているわけではない。
昭和48年10月18日最高裁第一小法廷民集27巻9号1210頁(土地収用補償金請求)
通常受ける損失の意義
土地収用法が補償を義務付けている「通常受ける損失」とは、客観的社会的にみて収用に基づき被収用者が当然に受けるであろうと考えられる経済的・財産的な損失をいい、経済的価値でない特殊な価値については補償の対象とはならない。
昭和63年1月21日最高裁第一小法廷集民153号101頁(補償金増額請求事件)
収用補償額の増額訴訟と裁決取消の区別
収用委員会の裁決のうち損失の補償に不服がある被収用者は、起業者を被告として補償額の増額を求める訴え(土地収用法133条2項・3項)を提起すれば足り、収用委員会を被告として裁決の取消しを求める訴えを提起する必要はない。
行政財産使用許可の撤回と損失補償
行政財産の使用許可が必要を生じたことを理由に撤回される場合、原則として補償は不要であるが、使用権者が対価を支払っており償却に足りない期間内に必要を生じた等、使用権を保有する実質的理由を認めるに足りる特別の事情がある場合には、補償が必要となりうる。
昭和49年2月5日最高裁第三小法廷民集28巻1号1頁(借地権確認土地引渡等請求)
補償規定の欠缺と憲法に基づく直接請求
財産権に対し一般的に当然に受忍すべき範囲を超えて制限を加える法令に損失補償の規定がなくても、制限を受けた者は、その損失を具体的に主張立証して、直接憲法29条3項を根拠にして補償請求をする余地が全くないわけではないから、損失補償の規定を欠く河川附近地制限令の規定を直ちに違憲無効と解すべきではない(最大判昭43.11.27)。
昭和43年11月27日最高裁大法廷刑集22巻12号1402頁(河川附近地制限令違反)
道路工事による危険物施設移転の補償
道路工事の結果、警察法規の技術上の基準に適合しなくなった危険物の地下貯蔵タンクの移転費用は、警察規制に基づく損失がたまたま現実化したにすぎず、道路法70条1項の補償の対象にはならない(最判昭58.2.18)。
昭和58年2月18日最高裁第二小法廷民集37巻1号59頁(損失補償裁決取消等)
土地収用における完全補償の原則
土地収用法における損失の補償は、特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、その収用によって当該土地の所有者等が被る特別な犠牲の回復を図ることを目的とするものであるから、被収用者は収用の前後を通じて被収用者の保持する財産価値を等しくさせるような補償を求めることができる。
昭和48年10月18日最高裁第一小法廷民集27巻9号1210頁(土地収用補償金請求)