条文・判例・学説を体系的に整理
誤った言論の保護と名誉毀損の限界
誤った言論についても自由な討論に有益な面があり、真実に反する言論を表現する自由を保障する必要性や有益性があることは否定できないが、全ての言論が同程度の保護を受けるわけではないとの理解は、表現内容が真実に反して他人の名誉を毀損する場合には人格権の保護の観点から表現の自由に限界が付されるとの見解の根拠となる。
文面審査と典型的規制行為への適用
罰則規定が不明確・広汎で表現に対する萎縮効果が生じる場合に法令の文面のみで憲法適合性が審査されなければならないとの見解に対し、被告人の行為が当該法令の典型的な規制対象である場合に不明確性・広汎性を理由に無罪とすることは国民の理解を得られにくいとの指摘は、その見解の根拠とはならず、むしろ文面審査に対する批判にあたる。
出版差止めの非検閲性と事前抑制の要件
出版物の販売等の仮処分による事前差止めが、司法裁判所が当事者の申請に基づいて被保全権利と保全の必要性を審理判断して発するものであって憲法21条2項の「検閲」に当たらないとの指摘は、表現行為に対する事前抑制は厳格かつ明確な要件の下でのみ許容されるとの見解の根拠とはならない。
拘束名簿の除名と繰上補充の当選決定
拘束名簿式比例代表制の下で、名簿届出政党等から名簿登載者の除名届が適法にされている限り、その除名が不存在又は無効であることは、当選訴訟における当選無効の原因とはならず、除名届に基づき被除名者より下位の名簿登載者を当選人とした選挙会の決定は、除名が不存在又は無効であっても効力を妨げられない。
平成7年5月25日最高裁第一小法廷民集49巻5号1279頁(選挙無効)
番組編集と取材対象者の期待の法的保護
放送事業者から取材を受けた者が、取材で得られた素材が一定の内容、方法により放送に使用されると期待し、あるいは信頼したとしても、その期待や信頼は原則として法的保護の対象とはならない(ただし、取材に応ずることにより格段の負担が生ずる場合などは例外がある)。
平成20年6月12日最高裁第一小法廷民集62巻6号1656頁(損害賠償請求上告,同附帯上告事件)
暴走族追放条例の文言と限定解釈
広島市暴走族追放条例は、暴走族の定義や禁止行為・命令の対象が文言上は社会通念上の暴走族以外にも及び、そのまま適用されると規制の対象が広範囲に及んで憲法21条1項・31条との関係で問題があるが、条例全体の趣旨等から規制対象を限定して解釈でき、限定的に解釈すれば憲法21条1項・31条に違反しない。
平成19年9月18日最高裁第三小法廷刑集61巻6号601頁(広島市暴走族追放条例事件)
税関検査と検閲・事前規制
表現物に対する税関検査は、検査対象となる表現物が国外で既に発表済みであり、輸入が禁止されるだけで発表の機会が全面的に奪われるわけでもなく、税関は特に思想内容等を対象として規制することを独自の使命とするものでもないから、憲法21条2項前段にいう「検閲」には当たらない。
昭和59年12月12日最高裁大法廷民集38巻12号1308頁(輸入禁制品該当通知処分等取消)
施術の適応症の広告制限と表現の自由
あん摩師、はり師、きゆう師等の業務に関し、施術の適応症の広告を制限する規定は、虚偽・誇大な広告に限らず、適応症に関する広告を禁止するものであっても、公共の福祉のために設けられたものであり、憲法21条に違反しない。
昭和36年2月15日最高裁大法廷刑集15巻2号347頁(あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反)
有害図書の自販機収納禁止と表現の自由
有害図書の自動販売機への収納の禁止は、青少年に対する関係において憲法21条1項に違反しないことはもとより、成人に対する関係においても、有害環境を浄化するための規制に伴う必要やむをえない制約であるから、同項に違反しない。
平成元年9月19日最高裁第三小法廷刑集43巻8号785頁(岐阜県青少年保護育成条例違反)
電話傍受と憲法
電話傍受は通信の秘密を侵害し、ひいては個人のプライバシーを侵害する強制処分であるが、一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではなく、法律の定める手続に従って行うことも憲法上許される。
平成11年12月16日最高裁第三小法廷刑集53巻9号1327頁(覚せい剤取締法違反、詐欺、同未遂被告事件)
公的機関・私人の前科公表と私生活保護
前科等に関わる事実は、その者の名誉・信用に直接関わる事項であり、みだりに公表されないことについて法的保護に値する利益を有する、この点は、前科等の公表が公的機関によるものであっても、私人又は私的団体によるものであっても違いはない。
昭和56年4月14日最高裁第三小法廷民集35巻3号620頁(損害賠償等)
意見論評による名誉毀損と相当な理由
公共性・公益目的を備え、意見・論評の域を逸脱しない表現では、その前提事実の重要部分の真実の証明がなくても、真実と信じた相当の理由があれば故意・過失が否定され、名誉毀損の不法行為責任を負わない。
平成9年9月9日最高裁第三小法廷民集51巻8号3804頁(損害賠償)
道路使用許可と集団行進の不許可
道路における集団行進に対する道路使用の許可を拒むことができるのは、これが行われることにより一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するものと認められ、かつ、警察署長が条件を付与することによってもかかる事態の発生を阻止することができないと予測される場合に限られ、そのような場合の不許可は憲法21条に反しない。
昭和57年11月16日最高裁第三小法廷刑集36巻11号908頁(道路交通法違反、公務執行妨害、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法違反、傷害)
新潟県公安条例事件と集団行進の許可制
公共の秩序を保持し又は公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき合理的かつ明確な基準の下に集団行進についてあらかじめ許可を受けることを必要とする規定を設けたとしても憲法21条に反しない。
昭和29年11月24日最高裁大法廷刑集8巻11号1866頁(昭和二四年新潟県条令第四号違反)
皇居外苑事件と公物の使用許可
皇居外苑などの国民公園は国が直接公共の用に供した財産であり、その利用の許否は、公共の用に供せられる目的に副う限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、公園としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきである。
昭和28年12月23日最高裁大法廷民集7巻13号1561頁(皇居外苑使用不許可処分取消等請求)
内容規制と内容中立規制
表現の内容に着目した内容規制には厳格な審査基準が妥当し、表現の時・場所・方法等の規制に関わる内容中立的規制にはより緩やかな審査基準が妥当するとする見解に対しては、審査基準の枠組みの設定の仕方が図式的に過ぎ、表現の時・場所・方法等の規制の危険性・問題性を軽視しているという指摘が批判となる。
営利広告と表現の自由
商品知識の啓蒙や意見の伝達等何らかの表現行為に関わる広告は表現の自由の保護の対象となるが、純然たる営利広告は経済的自由の保護の対象となるとする見解に対しては、消費者の側から見ると純然たる営利広告も重要な生活情報としての意味を持ち得るから、それを表現の自由の保障の対象外とすると消費者の知る権利を害するという指摘が批判となる。
パブリックフォーラム論
所有権や管理権に基づく集会の規制について、集会の場所が一般公衆が自由に出入りできるものであるときは集会の自由の保障に可能な限り配慮する必要があるとする見解の根拠として、表現の自由の行使が行動を伴うときは表現のための物理的な場所が提供されなければ意見を受け手に伝えられないという表現の場の確保の重要性が挙げられる。
集会の事前許可制と過大な制約
集会や集団行動について、公共の秩序維持等のため、その時間・場所・方法を問わず事前の許可を要すると条例で定めることもやむを得ないとする見解に対しては、集会等が他人の権利と衝突する程度は具体的態様によって大きく異なるから、一律に事前の許可にかからしめることは集会の自由に対する過大な制約であるという指摘が批判となる。
昭和35年7月20日最高裁大法廷刑集14巻9号1243頁(昭和二五年東京都条例第四四号集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例違反)
公の施設の利用と管理権
公の施設の管理者は正当な理由なく住民の利用を拒んではならず、集会用公共施設で「公の秩序をみだすおそれ」を理由に利用を拒否するには、人の生命・身体・財産が侵害され公共の安全が損なわれる明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である。
平成7年3月7日最高裁第三小法廷民集49巻3号687頁(損害賠償)