条文・判例・学説を体系的に整理
法人の人権と自然人への還元の非現実性
憲法の人権規定が性質上可能な限り法人(団体)にも適用されるとする見解(性質説)は、高度に組織された現代社会においては法人(団体)の活動を構成する自然人の行為に分解・還元することは非現実的であるということを根拠にすることができる。
天皇・皇族の人権と財産権の制約
天皇・皇族も人権の享有主体としての「国民」に含まれると考える立場も、皇位の世襲と職務の特殊性を理由に、天皇・皇族の財産権に対して一定の制約がなされること(憲法8条・88条)を排除するものではない。
在留外国人の指紋押なつ強制拒否の自由
最高裁判所は、指紋押なつ拒否事件判決において、みだりに指紋の押なつを強制されない自由は憲法13条により保障され、この自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく及ぶとした。
平成7年12月15日最高裁第三小法廷刑集49巻10号842頁(外国人登録法違反)
パブリシティ権の侵害の判断基準
肖像等を無断で使用する行為は、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして不法行為法上違法となる。
平成24年2月2日最高裁第一小法廷民集66巻2号89頁(損害賠償請求事件)
逮捕事実を伝えるSNS投稿の削除請求
逮捕された事実は他人にみだりに知られたくないプライバシーに属し、当該事実を記載した投稿を一般の閲覧に供し続けるSNSの運営会社に対しては、事実を公表されない法的利益と投稿を一般の閲覧に供し続ける理由とを比較衡量して、前者が後者に優越する場合に、投稿の削除を求めることができる。
令和4年6月24日最高裁第二小法廷民集76巻5号1170頁(投稿記事削除請求事件)
夫婦同氏制と婚姻前の氏による利益
婚姻前に築いた個人の信用、評価、名誉感情等を婚姻後も維持する利益等は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容であるとまではいえないが、氏を含めた婚姻及び家族に関する法制度の在り方を検討するに当たって考慮すべき人格的利益であるとはいえる。
平成27年12月16日最高裁大法廷民集69巻8号2586頁(夫婦別姓訴訟)
不法残留者の生活保護除外と平等原則
生活保護法が不法残留者を保護の対象としていないことは、憲法25条に違反せず、何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いにも当たらないから、憲法14条1項に違反しない。
平成13年9月25日最高裁第三小法廷集民203号1頁(生活保護申請却下処分取消請求事件)
尊属を被害者とする犯罪と量刑
被害者が尊属であることを犯情のひとつとして具体的事件の量刑上重視することは許され、憲法14条1項に違反しない。
昭和48年4月4日最高裁大法廷刑集27巻3号265頁(尊属殺人)
天皇の人権制約と他の国民への波及批判
天皇も国民に含まれ憲法第3章の権利の享有主体であるが、憲法自体が規定する皇位の世襲と職務の性質との関係で特別に広範な人権制約が認められるとする見解に対しては、公務員を全体の奉仕者とする憲法15条2項のような憲法の文言上の手掛かりがあれば、他の国民についても天皇と同様に広範な人権制約が認められることになるとの批判がある。
外国人の政治活動の自由の限界
判例によれば、外国人の政治活動の自由の保障は、我が国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位に鑑みこれを保障することが相当でないと解されるものには及ばないが、この立場に立っても、外国人には参加の態様にかかわらず政治的な主張を行うデモや集会に参加する自由が保障されなくなるわけではない。
法人の政治献金の自由と規制の困難
会社は自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、自然人たる国民と同様に政治献金をする自由を有し、会社による政治献金について自然人による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請はないとする判例の立場に対しては、法人に自然人と同様の政治献金の自由を保障すると、政治腐敗への対応策として企業・団体献金を法律で禁止することが困難になるとの批判がある。
天皇・皇族の人権
天皇及び皇族は日本国籍を有する日本国民であるが、世襲の天皇制(憲法1条・2条)を維持するのに必要な範囲で、憲法上の権利の保障が国民一般と同一にはならず、言論の自由等について制約を受ける。
未成年者の選挙権と憲法15条3項
未成年者は心身ともに発達途上にあり成熟した判断能力を持たないことから人権の保障について成年者と異なる考慮が必要となり、憲法15条3項も、公務員の選挙については成年者による普通選挙を保障するものであって、未成年者に選挙権を保障してはいない。
法人の精神的自由権
法人は、性質上可能な限りで人権享有主体となり、経済的自由権のみならず精神的自由権についても保障が及び得る。
昭和45年6月24日最高裁大法廷民集24巻6号625頁(取締役の責任追及請求)
候補者届出政党の政見放送
衆議院の小選挙区選挙について、候補者届出政党にのみ政見放送を認め候補者を含むそれ以外の者には政見放送を認めないものとする公職選挙法の規定は、選挙運動をする上で候補者間に単なる程度の違いを超える差異を設ける結果となるが、国会に与えられた合理的裁量の限界を超えるものではなく、憲法14条1項に違反しない。
平成11年11月10日最高裁大法廷民集53巻8号1704頁(選挙無効請求事件)
憲法の私人間効力
憲法の人権規定(自由権的基本権)は、もっぱら国又は公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定しておらず、私人間における自由・平等の侵害は、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条・90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって調整される(いわゆる間接適用の考え方)。
被拘禁者の人権制限
多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設においては、施設内の規律及び秩序を維持し正常な状態を保持する必要があるから、未決拘禁者についても身体の自由やその他の行為の自由に一定の制限が加えられることはやむを得ない。
昭和45年9月16日最高裁大法廷民集24巻10号1410頁(国家賠償請求)
施設内喫煙禁止の合憲性
喫煙の自由は、憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではなく、未決勾留により拘禁された者に対する喫煙の禁止は、制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられる具体的制限の態様を総合的に考慮すると、必要かつ合理的な制限であり、憲法13条に違反しない。
昭和45年9月16日最高裁大法廷民集24巻10号1410頁(国家賠償請求)
指紋押なつの自由
何人も個人の私生活上の自由の一つとしてみだりに指紋の押なつを強制されない自由を有する(指紋はそれ自体では個人の内心に関する情報ではないが、利用方法次第で私生活やプライバシーが侵害される危険性がある)が、この自由も公共の福祉のため必要がある場合には相当の制限を受け、在留外国人について指紋押なつ制度を定めた外国人登録法の規定は、立法目的に十分な合理性と必要性があり、方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反しない。
平成7年12月15日最高裁第三小法廷刑集49巻10号842頁(外国人登録法違反)
幸福追求権の意義
憲法13条は、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利について、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とすると定めており、判例は、これを国民の私生活上の自由が国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定したものとして、個人の私生活上の自由の一つに、みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由(最大判昭44.12.24)やみだりに指紋の押なつを強制されない自由(最判平7.12.15)を認めている。
昭和44年12月24日最高裁大法廷刑集23巻12号1625頁(公務執行妨害、傷害)