条文・判例・学説を体系的に整理
国民主権の正当性原理と独裁制の可否
国民主権を、国家権力の正当性の根拠は国民にあるとする原理と捉える見解(正当性の原理)は、国民主権に基づく憲法で独裁制を規定することが可能であるとする見解と矛盾せず、後者の批判にはならない。
全国民の統一体と直接民主制の要請
国民主権原理にいう「国民」を観念的抽象的な全国民という統一体と捉える見解(ナシオン主権)に対し、国民主権は代表民主制の下でも直接民主制的制度をできる限り求める原理と捉えるべきとする見解(プープル主権)は、その捉え方に対する批判となっている。
八月革命説と憲法改正の限界
ポツダム宣言の受諾により主権の所在が天皇から国民へ変更され法的な意味での革命があったとみる見解(八月革命説)に対し、憲法改正には限界があり主権の所在等の基本原理は憲法改正手続では変更できないと解釈すべきとする見解は、その見解への批判とはなっていない。
国民主権の意義
憲法前文は「主権が国民に存することを宣言し」、1条は天皇の地位が「主権の存する日本国民の総意に基く」と定め、国民主権を宣言しており、判例は、国民主権の原理に基づき、国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであるとする。
平成17年1月26日最高裁大法廷民集59巻1号128頁(管理職選考受験資格確認等請求事件)
主権の三つの意味
「主権」の語は、①国家の統治権(国家権力そのもの)、②国家権力の最高独立性(対外的独立)、③国政の最高決定権(国民主権)の三つの意味で用いられる。
憲法前文1項における主権
「日本国民は、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」(憲法前文1項)における「主権」は、国政に関する最高の決定権という意味で用いられている。
憲法前文3項における主権
「自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務」(憲法前文3項)における「主権」は、国家の独立性の意味で用いられている。
憲法1条における主権
「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」(憲法1条)における「主権」は、国政に関する最高の決定権という意味で用いられている。
主権の三つの意味
主権には国家の統治権としての意味、国家権力の最高独立性としての意味、及び国政の最終決定権としての意味の三つの用法がある。
絶対王政期における主権概念
絶対王政の時代には国家の主権と国王の主権を区別することに意味がなく、現に両者は一体的に捉えられていた。
ポツダム宣言と統治権としての主権
ポツダム宣言第8項の「日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」にいう主権は、国家の統治権としての意味の主権である。
連邦国家と主権の帰属
連邦国家においても、主権は連邦に帰属すると解するのが一般的であり、連邦国家も主権国家である。
国家法人説と主権
統治権という意味での主権は国家に属すると考える国家法人説は、君主主権と国民主権のどちらにも結び付き得る考え方である。
天皇の人権制約と学問の自由
天皇は国民に含まれるとされるが、象徴たる地位と憲法4条1項の趣旨から基本的人権の享有に制限があり表現・言論にも制約があるため、学問の自由についても、政治的中立性が問われる場面(政治問題にからむ研究成果の発表など)では制約があり得る。
天皇に対する民事裁判権の否定
最高裁は、天皇が日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることに鑑み、天皇には民事裁判権が及ばないとした。
平成元年11月20日最高裁第二小法廷民集43巻10号1160頁(住民訴訟による損害賠償)
皇位の世襲と皇室典範による具体化
憲法2条は皇位が世襲のものであることを定め、皇位継承に関する事項は皇室典範で定めるとしているが、継承順位の具体的な在り方は皇室典範に委ねられており、皇長子の長子より皇次子を優先させることとしても憲法に反しない。
天皇の政治的行為の禁止
天皇は、象徴たる地位と憲法4条1項(国政に関する権能を有しない)の趣旨から、重大な政治的論争の対象となっている事項について是非を明らかにするような行為はされるべきでないとされ、特定の政党への加入のような政治的色彩の強い行為も許されないと解される。
摂政に対する民事裁判権の判例上の扱い
最判平成元年11月20日は、天皇には民事裁判権が及ばないとしたが、その判決文は摂政に言及しておらず、摂政に民事裁判権が及ぶかどうかを判示していない。
天皇の無答責
憲法は天皇の無答責を明文で規定していないが、内閣の助言と承認のもとで行われた天皇の国事行為について、天皇が責任を負うことはない。
国事行為の限定列挙
国政に関する権能を天皇に付与しないとしても、憲法が定める国事行為以外の行為を新たな国事行為として法律で定めることは許されない。