条文・判例・学説を体系的に整理
監護者への欺罔と未成年者誘拐
未成年者の監護者を欺いて、未成年者の利害に関する判断を誤らせて自己の支配内に移すことを監護者に承諾させた上で、未成年者を自己の支配下に移した場合にも、監護者の承諾は欺罔により得たもので有効でなく、未成年者誘拐罪の「誘拐」に当たる。
共同親権者による子の略取と違法性阻却
共同親権者の一方が、もう一方の共同親権者の監護下にある別居中の子を略取した場合も未成年者略取罪の構成要件に該当し得るが、監護養育上それが現に必要とされる特段の事情があるときは違法性が阻却される余地があり、そのような特段の事情がなく行為態様が粗暴で強引なものであるときは違法性は阻却されない。
平成17年12月6日最高裁第二小法廷刑集59巻10号1901頁(未成年者略取被告事件)
身代金誘拐罪と身代金要求罪の罪数
みのしろ金取得の目的で人を拐取した者が更にみのしろ金を要求した場合には、みのしろ金目的拐取罪とみのしろ金要求罪(拐取者身の代金要求罪)とは牽連犯の関係に立つ。
昭和58年9月27日最高裁第三小法廷刑集37巻7号1078頁(身代金目的拐取と監禁の罪数)
拐取者の解放による刑の減軽の対象
刑法228条の2の解放による刑の必要的減軽は、225条の2又は227条2項若しくは4項の罪の犯人が公訴提起前に被拐取者を安全な場所に解放した場合に適用され、224条の未成年者誘拐罪のみの犯人には適用されない。
住居権者の同意に基づく立入り
住居権者の同意に基づいてその者の住居に立ち入った場合は、「侵入」に当たらず、住居侵入罪の構成要件に該当しない。
昭和58年4月8日最高裁第二小法廷刑集37巻3号215頁(建造物侵入被告事件(大槌郵便局事件))
脅迫罪の成立と相手方の畏怖
脅迫罪は、相手方又はその親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫したことによって成立し、相手方が現実に畏怖したことは要件ではない。
脅迫罪の害悪告知の本人・親族の範囲
脅迫罪は、相手方本人に対する害悪の告知(222条1項)のほか、相手方の親族に対する害悪の告知(同条2項)によって成立するが、親族以外の第三者に対して加害を告知しても、相手方に対する脅迫罪は成立しない。
告訴する旨の告知と脅迫罪
告訴する意思がないのに、相手方を畏怖させるために「告訴してやる」と告げたときは、正当な権利行使の範囲を逸脱するものとして、脅迫罪が成立する。
大正3年12月1日大審院刑録20巻2303頁(脅迫ノ件)
未了知の迷惑メールと脅迫罪
殺害を予告する電子メールを送信しても、そのメールが迷惑メールに振り分けられて相手方が存在に気付かなかったときは、相手方が了知し得る状態に置かれていないから、脅迫罪は成立しない。
告訴断念の脅迫と強要未遂罪
告訴を思いとどまらせようとして脅迫し、相手方に義務のないことを行わせ又は権利の行使を妨害しようとした場合は、強要未遂罪(刑法223条3項)が成立し、脅迫罪は強要未遂罪に吸収される。
不意打ちと不同意わいせつ罪
不同意わいせつ罪(刑法176条1項)は、暴行又は脅迫を用いた場合に限らず、同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと(同項5号)その他同項各号に掲げる行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じてわいせつな行為をした場合に成立するから、不意をついて相手方の陰部に触れた場合にも、同罪が成立し得る。
不同意わいせつ罪と性的意図
不同意わいせつ罪(刑法176条1項)の成立に故意以外の行為者の性的意図は一律には必要とされないから、自己の性欲を刺激興奮させる意図がなく専ら報復目的で被害者を脅迫して裸にして撮影した場合であっても、性的意図がないことを理由に同罪の成立が否定されることはない。
平成29年11月29日最高裁大法廷刑集71巻9号467頁(児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件)
欺罔による同意と監禁罪
わいせつな行為をする目的を隠して被害者を自動車に乗せた場合、偽計によって被害者の錯誤を利用して脱出できないようにして自由を拘束するもので、乗車の時点から監禁罪が成立し得る。
昭和33年3月19日最高裁第二小法廷刑集12巻4号636頁(職業安定法違反、婦女に売淫をさせた者等の処罰に関する勅令違反)
未成年者略取誘拐罪の客体
自ら移動する意思も能力も有していない生後間もない乳児であっても、未成年者略取誘拐罪の客体に当たる。
親権者による未成年者略取罪
未成年者略取罪の保護法益には親権者の監護権も含まれるが、親権者が他の共同親権者の監護下にある未成年の子を略取した場合でも未成年者略取罪が成立しうる。
平成17年12月6日最高裁第二小法廷刑集59巻10号1901頁(未成年者略取被告事件)
未成年者誘拐罪の手段としての欺罔
未成年者誘拐罪の手段である欺罔は、被誘拐者本人に対して用いられる場合のみならず、監護者に対して用いられる場合も含まれる。
略取罪の故意と客観的構成要件
未成年者と誤信して略取した者が客観的には成年者を略取した場合には未成年者略取罪は成立せず、その客観的事実に対応して生命・身体加害目的略取罪等の他の略取罪の成否が問題となる。
解放による刑の減軽と「安全な場所」
刑法228条の2(解放による刑の減軽)が適用されるために必要な「安全な場所」とは、被拐取者が救出されるまでの間におよそ危険が生じないことを意味するのではなく、漠然とした不安感を伴うものであっても安全な場所に当たりうる。
強盗目的での居住者の錯誤による立入り
強盗の目的で面識のない居住者の住居に行き、意図を隠しながら玄関前で挨拶し、知人の来訪と勘違いした居住者に招き入れられて立ち入った場合、住居侵入罪が成立する。
昭和23年5月20日最高裁第一小法廷刑集2巻5号489頁(強盗殺人、強盗、住居侵入)
建造物侵入既遂と塀への侵入
警察署の敷地内に駐車中の捜査用車両のナンバーを把握しようと考え、外部からのぞき見ることができない構造の塀をよじ登りその上に立った場合、建造物侵入罪の既遂が成立する。
平成21年7月13日最高裁第一小法廷刑集63巻6号590頁(建造物侵入,危険運転致傷,窃盗被告事件)