条文・判例・学説を体系的に整理
景観利益の侵害と不法行為
良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者が有する景観利益は法律上保護に値し、これが違法に侵害されたときは不法行為による損害賠償を請求することができるが、違法な侵害といえるには、侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められる。
平成18年3月30日最高裁第一小法廷民集60巻3号948頁(建築物撤去等請求事件)
相当程度の可能性の侵害と不法行為責任
医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったことと患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないが、医療水準にかなった医療が行われていれば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、その可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う(死亡との間の因果関係が肯定されるわけではない)。
平成12年9月22日最高裁第二小法廷民集54巻7号2574頁(損害賠償請求事件)
意見論評による名誉毀損と真実性の証明
ある事実を基礎とする意見ないし論評の表明による名誉毀損は、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、違法性を欠く。
平成9年9月9日最高裁第三小法廷民集51巻8号3804頁(損害賠償)
第三者行為災害の過失相殺と労災給付
労働者がいわゆる第三者行為災害により被害を受け、第三者が損害賠償責任を負う場合において、賠償額の算定に当たり労働者の過失を斟酌すべきときは、損害の額から過失割合による減額をし、その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価額を控除する。
平成元年4月11日最高裁第三小法廷民集43巻4号209頁(損害賠償請求事件)
プライバシー侵害と謝罪広告
民法723条は、名誉を毀損した者に対して、裁判所が、損害賠償に代えて又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができると定めるにとどまり、プライバシーの侵害を理由として謝罪広告を命ずることを定めていない。
身体侵害の不法行為賠償請求権の時効
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。
後遺障害による逸失利益の定期金賠償
不法行為の被害者は、後遺障害による逸失利益について、定期金による賠償を求めることができる。
令和2年7月9日最高裁第一小法廷民集74巻4号1204頁(損害賠償請求事件)
第三者の権利防衛と正当防衛
他人の不法行為に対し第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するためやむを得ず加害行為をした者は、正当防衛として損害賠償の責任を負わない。
名誉感情の侵害と救済
名誉感情は民法723条にいう「名誉」に含まれず、名誉感情を侵害された被害者は、これを理由として、名誉を回復するのに適当な処分(723条)を請求することができない。
昭和45年12月18日最高裁第二小法廷民集24巻13号2151頁(委嘱状不法発送謝罪請求)
生命・身体侵害と消滅時効
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者等が損害及び加害者を知った時から5年間(民法724条の2)又は不法行為の時から20年間(民法724条2号)の経過によって時効消滅する。
不法行為に基づく損害賠償債権の相殺
金銭債権を有する者が、その債務者を負傷させたことにより不法行為に基づく損害賠償債務を負った場合、当該金銭債権を自働債権、損害賠償債権を受働債権とする相殺をもって債務者に対抗することはできない。
報道機関の名誉毀損と真実性の証明
報道により他人の名誉を毀損した報道機関は、その報道が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図ることに出たものであって、摘示した事実が真実であると信ずるにつき相当な理由があったときは、その事実が真実であると証明されなかったとしても、不法行為責任を負わない(最判昭41.6.23)。
昭和41年6月23日最高裁第一小法廷民集20巻5号1118頁(名誉および信用毀損による損害賠償請求)
不法行為の過失相殺と被害者側の過失
内縁の夫が運転する自動車に同乗していた者が、内縁の夫と第三者の双方の過失による交通事故で負傷し、第三者に対し損害賠償を請求する場合において、裁判所は損害賠償の額を定めるに当たり、内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮することができる。
昭和51年3月25日最高裁第一小法廷民集30巻2号160頁(損害賠償請求)
責任能力ある未成年者の不法行為責任
未成年者が他人に損害を与えた場合、責任を弁識するに足りる知能を備えていれば、未成年者自身が不法行為責任を負う(民法712条)。
被害者側の過失と過失相殺
不法行為による損害賠償の額を定めるに当たっては、被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられる関係にある者の過失を被害者側の過失として考慮することができ、内縁の夫が運転する自動車に同乗中の内縁の妻が第三者に損害賠償を請求する場合の内縁の夫の過失もこれに当たる。
昭和51年3月25日最高裁第一小法廷民集30巻2号160頁(損害賠償請求)
被害者の素因斟酌
被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、過失相殺の規定を類推適用して被害者の疾患を考慮することができる。
平成4年6月25日最高裁第一小法廷民集46巻4号400頁(損害賠償)
共同不法行為と医師の過失
交通事故により傷害を受けた者が搬送先の医師の診療上の過失により死亡した場合、交通事故の加害者と医師は被害者の被った損害について連帯して賠償する責任を負う。
平成13年3月13日最高裁第三小法廷民集55巻2号328頁(損害賠償請求事件)
後遺障害と死亡後の生活費控除
交通事故により後遺障害を負った被害者が事故と無関係の原因で死亡した場合、労働能力喪失による逸失利益の算定において死亡後の生活費を控除することはできない。
平成8年4月25日最高裁第一小法廷民集50巻5号1221頁
原因において自由な行為と不法行為責任
故意又は過失によって一時的に自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態を招いた者は、その状態の間に他人に加えた損害について賠償責任を負う。
プライバシー侵害の差止めと削除請求
プライバシーを侵害された者は、人格権に基づき、現に行われている侵害の排除又は将来の侵害の予防のため差止め・削除等を請求できる。