条文・判例・学説を体系的に整理
懲戒処分における効果裁量
国家公務員法82条1項は、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかについて、懲戒権者に裁量(効果裁量)を認める趣旨の規定である。
昭和52年12月20日最高裁第三小法廷民集31巻7号1101頁(行政処分無効確認等、附帯)
マクリーン事件と裁量の性質
外国人の在留期間の更新の許可に関し、法務大臣の判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り裁量権の逸脱濫用として違法となるとした最高裁判決は、効果裁量を承認する趣旨であると解されているわけではなく、在留許可要件の判断に係る要件裁量を承認したものと解されている。
昭和53年10月4日最高裁大法廷民集32巻7号1223頁(在留期間更新不許可処分取消)
裁量処分の理由提示不備と取消事由
行政裁量が認められた処分についても、処分の理由提示が不備であることが当該処分の取消事由となることがある。
平成23年6月7日最高裁第三小法廷民集65巻4号2081頁(一級建築士免許取消処分等取消請求事件)
在留期間更新不許可の司法審査の基準
在留期間の更新不許可処分に関する法務大臣の判断は、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により全く事実の基礎を欠くか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法となり、判断の基礎となる事実認定は、社会通念に照らし著しく不合理な場合に限らず、重要な事実の誤認の有無について司法審査を受ける。
昭和53年10月4日最高裁大法廷民集32巻7号1223頁(在留期間更新不許可処分取消)
懲戒処分量定の内部基準の裁量基準性
いかなる場合にいかなる処分を行うかを行政法規が行政庁の判断にゆだねている場合において、当該裁量権の行使の仕方を定めるものが裁量基準であり、職員の非違行為の類型と懲戒処分の種別及び程度を定めた内部基準はこれに当たる。
裁量基準より厳しい処分と逸脱濫用
裁判所は行政規則には拘束されないが、処分が裁量基準より厳しいという事情は、平等原則や信頼保護の観点から、裁量権の逸脱濫用の判断において考慮要素となりうる。
再入国許可と広範な裁量
判決当時の出入国管理及び難民認定法26条1項が外国人の再入国許可に関して許可の判断基準を特に規定していないのは、再入国の許否の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨である。
平成10年4月10日最高裁第二小法廷民集52巻3号776頁(再入国不許可処分取消等)
分限免職と降任の裁量の広狭
地方公務員法28条1項3号の分限処分における適格性の有無の判断について、免職の場合には特に厳密、慎重であることが要求されるのに対し、降任の場合には裁量的判断を加える余地を比較的広く認めても差支えない。
昭和48年9月14日最高裁第二小法廷民集27巻8号925頁(行政処分取消請求)
伊方原発訴訟の専門技術的裁量と効果裁量
伊方原発訴訟判決は、原子炉設置許可の要件(安全性)の認定判断に専門技術的な裁量を認めたが、処分要件を満たした場合に処分をするかどうか、どのような内容の処分をするかという効果裁量を認めたものではない。
平成4年10月29日最高裁第一小法廷民集46巻7号1174頁(伊方発電所原子炉設置許可処分取消)
具体的勧誘を伴う施策変更と信頼保護
特定の者に対する具体的勧誘を伴い、長期の施策継続を前提とする活動を求めた場合に、代償的措置を講ずることなく、やむを得ない客観的事情によらずに施策を変更することは、信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、不法行為責任を生ずる(最判昭56.1.27)。
昭和56年1月27日最高裁第三小法廷民集35巻1号35頁(損害賠償)
条例制定前の関与と事業者への配慮義務
町が条例制定前から事業者の産業廃棄物処理施設設置許可の申請手続に関与して計画を知り、施設設置と水源保護を調和させる措置を検討する機会を得た後に水源保護条例を制定した事情の下では、町長は規制対象事業場の認定に当たり、事業者と十分協議し適切に指導してその地位を不当に害しないよう配慮する義務を負い、違反した処分は違法となる。
平成16年12月24日最高裁第二小法廷民集58巻9号2536頁(規制対象事業場認定処分取消請求事件)
効果裁量と「できる」規定
法律の条文において、行政処分をすることが「できる」と規定されている場合、当該条文上の要件が満たされているときに、当該処分をするかしないかの裁量を行政庁に認める趣旨であるとは限らない。
昭和53年10月4日最高裁大法廷民集32巻7号1223頁(在留期間更新不許可処分取消)
裁量基準違反と違法性
行政庁が裁量の基準を設けている場合、その基準に従わないでした行政処分であっても、当然に違法ということにはならない。
昭和53年10月4日最高裁大法廷民集32巻7号1223頁(在留期間更新不許可処分取消)
処分の選択裁量
法律の条文上、行政庁において数種類の不利益処分をすることができると規定されている場合、特定の者に対しどの処分を行うかについて、行政庁に裁量が認められることがある。
昭和52年12月20日最高裁第三小法廷民集31巻7号1101頁(行政処分無効確認等、附帯)
懲戒処分の要否の判断と具体的基準
最判昭和52年12月20日は、国家公務員法は懲戒権者が懲戒処分をすべきかどうかについて具体的な基準を設けていないので、懲戒権者は、行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうかを決定することができるとした。
昭和52年12月20日最高裁第三小法廷民集31巻7号1101頁(行政処分無効確認等、附帯)
懲戒処分の種類選択と具体的基準
最判昭和52年12月20日は、国家公務員法は懲戒権者がいかなる懲戒処分を選択すべきかについても具体的な基準を設けていないので、懲戒権者は、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定することができるとした。
昭和52年12月20日最高裁第三小法廷民集31巻7号1101頁(行政処分無効確認等、附帯)
収用委員会の補償額の決定と裁量
土地収用法に基づく損失補償の範囲及びその額の決定につき、収用委員会に裁量権が認められるものと解することはできず、裁判所は、証拠に基づき裁決時点における正当な補償額を客観的に認定し、裁決に定められた補償額が認定額と異なるときは、これを違法とし、正当な補償額を確定すべきである。
平成9年1月28日最高裁第三小法廷民集51巻1号147頁(収用補償金増額)
生活保護の老齢加算改定と大臣の裁量
生活保護法に基づく保護の基準中の老齢加算に係る部分を改定するに際し、最低限度の生活を維持する上で老齢であることに起因する特別な需要が存在するといえるか否か等を判断するに当たっては、厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められる。
平成24年2月28日最高裁第三小法廷民集66巻3号1240頁(生活保護変更決定取消請求事件)
公有水面埋立の国土利用要件と司法審査
公有水面埋立法4条1項1号(国土利用上適正かつ合理的であること)の要件については、諸般の事情を総合的に考慮した都道府県知事の判断が、事実の基礎を欠いたり社会通念に照らし明らかに妥当性を欠いたりするものでない限り、要件に適合するとの判断に瑕疵があるとはいい難い。
平成28年12月20日最高裁第二小法廷民集70巻9号2281頁(地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件)
公有水面埋立の環境配慮要件と司法審査
公有水面埋立法4条1項2号(環境保全及び災害防止についての十分な配慮)の要件に適合するとした都道府県知事の判断に違法等があるか否かの裁判所の審査は、専門技術的な知見に基づいてされた知事の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきである。
平成28年12月20日最高裁第二小法廷民集70巻9号2281頁(地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件)