条文・判例・学説を体系的に整理
殺人罪と死体損壊等罪の罪数
殺人罪と死体損壊等罪の両罪が成立する場合には、両罪は併合罪となる(一個の行為によるものではなく、手段・結果の関係にもない)。
死体損壊等罪の保護法益と人格権説批判
死体損壊等罪の保護法益を死者の人格権や生前の自己決定と解する見解に対しては、死者は権利主体であり得ない以上、死者本人の法益侵害を観念するのは妥当でなく、死者本人の意思を絶対視するのは結論的にも妥当でないとの批判があり、保護法益は死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情であると解するのが判例の立場と整合的である。
葬祭義務者の不作為と死体遺棄罪
死体損壊等罪にいう「遺棄」には不作為が含まれ、葬祭義務のある者が死体を放置する不作為も遺棄に当たるから、出産した子を殺害してそのまま立ち去った母親には死体遺棄罪が成立する。
放火と殺人の観念的競合
住宅内の人を殺害する目的で放火して住宅を焼損し、その者を死亡させた場合、現住建造物等放火罪のほか殺人罪も成立し、殺人罪が現住建造物等放火罪に吸収されることはない。
自己所有非現住建造物放火罪
自己の所有する非現住建造物に放火した場合、公共の危険が生じなければ不可罰であり、非現住建造物等放火未遂罪は成立しない。
権限なき公務員の文書作成
公務員が公文書の作成権限を有しないのに、行使の目的で公務所又は公務員の印章・署名を使用し、又はその偽造した印章・署名を使用して権限者名義の公文書を偽造した場合、有印公文書偽造罪が成立する。
死体遺棄罪と不作為
死体遺棄罪は不作為によっても成立し得る。
大正6年11月24日大審院刑録23巻1302頁
不正指令電磁的記録作成罪
正当な理由がないのに人の電子計算機における実行の用に供する目的でコンピュータウイルスを作成した場合、不正指令電磁的記録作成罪が成立するが、自己のパソコンで効果を試しただけで他人の業務に使用する電子計算機に対する加害行為に着手していなければ、電子計算機損壊等業務妨害罪の未遂罪は成立しない。
放火罪の建造物の物理的一体性説
現住建造物等放火罪における建造物の一体性について、物理的一体性(構造上の接続性及び延焼可能性)の存在を必要不可欠とする見解によれば、非現住部分と現住部分が構造上接続していない場合には、機能的一体性が認められても一体性は認められない。
延焼可能性なき建造物の機能的一体性
非現住部分と現住部分に機能的一体性が認められるが延焼可能性が否定された場合、物理的一体性又は機能的一体性のいずれかで足りるとする見解では建造物の一体性が認められるが、物理的一体性を必要不可欠とする見解では認められない。
構造的接続と放火罪の建造物の一体性
非現住部分と現住部分が構造上接続し、機能的一体性及び延焼可能性が認められるときは、物理的一体性を必要とする見解からも、機能的一体性で足りるとする見解からも、建造物の一体性が認められる。
機能・延焼可能性なき建造物の一体性
非現住部分と現住部分の機能的一体性が否定され、かつ延焼可能性も否定された場合には、物理的一体性又は機能的一体性のいずれかで足りるとする見解からも、建造物の一体性は認められない。
延焼が容易でない建物の機能的一体性
延焼可能性が完全には否定できないが容易には延焼しない場合(物理的一体性が弱い場合)で、機能的一体性が認められるときは、機能的一体性で足りるとする見解からも、機能的一体性が物理的一体性の弱さを補う限度で考慮されるとする見解からも、建造物の一体性が認められる。
自己所有非現住建造物等放火の未遂
刑法112条は108条及び109条1項の罪の未遂を罰すると定めており、109条2項の自己所有非現住建造物等放火罪の未遂は処罰されない。
自動車への放火予備の処罰
刑法113条は108条又は109条1項の罪を犯す目的の予備を処罰するにとどまり、110条の建造物等以外放火罪(自動車への放火)の予備は処罰されない。
保険に付した自己所有家屋への放火
自己の所有に係る家屋であっても、保険に付したものを焼損して公共の危険を生じさせたときは、他人の物を焼損した者の例による(刑法115条)ので、自己所有の家屋に一人で居住していた者が、保険金をだまし取るため放火して全焼させ公共の危険を生じさせたときは、他人所有非現住建造物等放火罪が成立する。
自己所有非現住建造物の失火罪
失火により、109条に規定する物であって自己の所有に係るもの(自己所有の非現住建造物)を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、失火罪(116条2項)として50万円以下の罰金に処される。
放火罪の公共の危険の性質と認識
刑法109条2項の「公共の危険」の発生を客観的処罰条件、同法110条の「公共の危険」の発生を結果的加重犯の加重的結果と解する見解は、「公共の危険」の認識を不要とするが、これに対しては、110条1項の客体の焼損の認識のみでは器物損壊罪の責任しか基礎付けられないとの批判がある。
渡り廊下で接続した建物の現住性
人が居住する建物と居住しない建物が渡り廊下で接合され、全体が物理的にも機能的にも一個の現住建造物と認められる場合には、居住しない建物に放火して焼損させれば、居住建物に延焼しなくても、現住建造物等放火既遂罪が成立する。
平成元年7月14日最高裁第三小法廷刑集43巻7号641頁(爆発物取締罰則違反、傷害、現住建造物等放火)
カレンダーの焼損と独立燃焼説
放火罪の既遂(焼損)は、火が放火の媒介物を離れて目的物(家屋)が独立して燃焼を継続し得る状態に達したときに成立し、壁に掛けたカレンダーが燃えただけで他に燃え移らず消し止められた場合には、既遂とならない。
昭和23年11月2日最高裁第三小法廷刑集2巻12号1443頁(放火)