条文・判例・学説を体系的に整理
同時傷害の特例の適用の前提
共犯関係にない二人以上が暴行を加えて傷害を生じさせた場合において、各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況(同一の機会)において行われたことが証明されたときは、各行為者は、自己の関与した暴行が傷害を生じさせていないことを立証しない限り、傷害についての責任を免れず、同傷害から発生した死亡の結果についても責任を負う。
平成28年3月24日最高裁第三小法廷刑集70巻3号1頁(傷害,傷害致死被告事件)
因果関係判明時の同時傷害特例否定説
第2暴行と死亡との間に因果関係が認められる以上、死亡させた結果について責任を負うべき者がいなくなる不都合を回避するための特例である刑法207条を適用する前提が欠けるから、同条を適用することはできないとする見解がある。
同時傷害の特例の適用否定説への批判
同時傷害の特例の適用を否定する見解に対しては、暴行と実際に発生した傷害との因果関係を検討しないで、直ちに死亡との因果関係を問題にしている点で、暴行と傷害との因果関係が不明であることを要件とする刑法207条の規定内容に反するとの批判がある。
因果関係の錯誤と概括的故意
殺意をもって首を絞めて被害者が動かなくなったので死亡したものと誤信し発覚を防ぐ目的で砂浜に運んで放置した結果砂を吸引して窒息死した場合、殺人罪が成立する。
誤った治療指示と因果関係
医師資格のない柔道整復師が、風邪の患者に対し、食事や水分補給を控えるなどの医学的に明らかに誤った治療法を繰り返し指示し、患者がこれに忠実に従って脱水症状に陥り死亡した場合は、指示行為がそれ自体として患者の病状を悪化させ死亡の結果を引き起こしかねない危険性を有しており、患者側にも落度(医師の診察治療を受けず指示にのみ依存した点)があっても、指示行為と死亡との間に因果関係が認められる。
昭和63年5月11日最高裁第一小法廷刑集42巻5号807頁(業務上過失致死)
相当因果関係説(折衷説)
折衷的相当因果関係説は、一般人が認識・予見できたであろう事情及び行為者が認識・予見していた事情を判断の基礎として、その行為から結果が発生することが相当かどうかを判断する。
被害者の特殊事情と因果関係
被害者に特殊な病気等の事情があり、行為者がその事情を知らず予測もできなかった場合でも、その事情と相まって致死の結果を生じさせたときは、行為と死亡との間の因果関係が認められる。
昭和25年3月31日最高裁第二小法廷刑集4巻3号469頁
客観的相当因果関係説
客観的相当因果関係説は、行為当時に客観的に存在した全ての事情及び行為後に生じた事情のうち一般人が予見できた事情を基礎として、その行為から結果が発生することが相当であるかを判断する見解である。
折衷的相当因果関係説
折衷的相当因果関係説は一般人が認識可能な事情及び行為者が特に認識していた事情を基礎として因果関係の相当性を判断する見解である。
危険の現実化説
危険の現実化説は実行行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に因果関係を肯定する見解である。
平成22年10月26日最高裁第一小法廷刑集64巻7号1019頁
被害者の特殊事情と因果関係
被害者に行為時から存在した特殊な病気は、行為時の客観的な全事情を基礎とする客観的相当因果関係説や危険の現実化説では判断の基礎に含まれるが、折衷的相当因果関係説では一般人が認識できず行為者も現に認識していなかった限り判断の基礎から除外され、行為者が認識し得たにとどまる場合も同様である。
第三者の介入行為と因果関係
行為後に、一般人が予見できず行為者も予見していなかった第三者の異常な介入行為が新たな死因を形成して被害者が死亡した場合、相当因果関係説ではその介入行為が判断の基礎から除かれ、危険の現実化説でも実行行為の危険が結果に現実化していないから、因果関係は否定される。
因果関係の錯誤と故意
因果関係の錯誤があっても、認識した因果経過と実際の因果経過が食い違うにとどまり、一連の殺害行為に着手してその目的を遂げたといえる場合には、殺人の故意は阻却されない。
平成16年3月22日最高裁第一小法廷刑集58巻3号187頁(殺人,詐欺被告事件)
危険の現実化説
因果関係の存否は行為の危険性が結果に現実化したものと評価できるかどうかで判断すべきであり、介在事情の異常性と結果への寄与度を考慮すべきである。
平成2年11月20日最高裁第三小法廷刑集44巻8号837頁(大阪南港事件)
因果関係と介在事情の異常性
介在事情が通常予想し得る範囲内のものであれば行為と結果との因果関係は肯定されやすく、介在事情が異常であれば因果関係は否定されやすい。
第三者の故意行為の介在と因果関係
第三者が被害者の死亡を意図して故意に行為した場合、その介在事情は異常性が高く行為者の行為と結果との因果関係が否定されやすい。
暴行による瀕死状態と因果関係
行為者の暴行により被害者が瀕死の状態に陥っていた場合、その後の追突事故により死期が早まったとしても暴行と死亡との因果関係は認められ得る。
暴行から逃走中の転倒死と因果関係
暴行に耐えかねて逃走した被害者が逃走中に転倒して死亡した場合、暴行と死亡との間に因果関係が認められる。
昭和59年7月6日最高裁第三小法廷刑集38巻8号2793頁
治療行為介在と因果関係
暴行により傷害を負わせたところ、その治療のため医師が投与した薬剤の作用で被害者の体内にあった未知の結核性病巣が変化して炎症を起こし、これに起因する心機能不全で被害者が死亡した場合にも、暴行と死亡との間の因果関係は認められる。
昭和49年7月5日最高裁第三小法廷刑集28巻5号194頁
複数行為と死因の因果関係
先行する行為で被害者に瀕死の重傷を負わせた後、行為者が殺意をもって後行の行為で被害者を殺害した場合、後行の行為と死亡との間にも因果関係が認められる。
昭和53年3月22日最高裁第一小法廷刑集32巻2号381頁(業務上過失傷害、殺人、死体遺棄)