条文・判例・学説を体系的に整理
合憲限定解釈と明確性
関税法により輸入が禁止されている「風俗を害すべき書籍、図画」等について、合理的に解釈すれば「風俗」とは専ら性的風俗を意味し輸入禁止の対象とされるのはわいせつな書籍、図画等に限られるとする判例に対し、表現の自由を規制する法律の規定には明確性が求められるとの批判がある。
昭和59年12月12日最高裁大法廷民集38巻12号1308頁(輸入禁制品該当通知処分等取消)
争議行為と煽動罪の限定解釈
地方公務員の争議行為の遂行を共謀し、そそのかし、あおる等の行為を刑事罰の対象とするには、あおり行為等が争議行為に通常随伴する以上のものであることを要するとする見解に対し、争議行為を成り立たせるのは正にあおり行為等であって争議行為の原動力をなすとの批判がある。
昭和44年4月2日最高裁大法廷刑集23巻5号305頁(地方公務員法違反)
暴走族条例と合憲限定解釈
暴走族による集会を規制する条例における「暴走族」の定義が社会通念上の暴走族以外の集団を含む文言であっても、条例全体や施行規則等を総合して解釈すれば規制対象となる「暴走族」は暴走行為を目的として結成された暴走族及びその類似集団に限られるとする合憲限定解釈が可能であり、「暴走族」の社会通念上の理解が国民の間で定着していることはその根拠の一つとなり得る。
平成19年9月18日最高裁第三小法廷刑集61巻6号601頁(広島市暴走族追放条例事件)
裁判官の罷免事由
裁判官は裁判により心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されず、最高裁判所の裁判官については国民審査によることもできる。
裁判官の「心身の故障」の意義
裁判官の罷免事由である「心身の故障」による免官は、一時的な心身の故障を指すものではなく、回復の困難な心身の故障のために職務を執ることができない場合に限られる。
裁判官の懲戒と行政機関
憲法78条は裁判官の懲戒処分は行政機関が行うことはできないと規定しており、裁判官の懲戒処分は裁判所が行うべきことを定めたものであって、その手続は法律上裁判により行うこととされている。
大学の単位認定・専攻科修了と司法審査
大学における単位の授与(認定)に係る係争は、一般市民法秩序と直接の関係を有することを肯認するに足りる特段の事情がない限り大学内部の問題として司法審査の対象とならないが、専攻科修了の認定に係る係争は、学生が一般市民として有する公の施設を利用する権利に関係するものとして、司法審査の対象となる。
昭和52年3月15日最高裁第三小法廷民集31巻2号234頁(単位不認定等違法確認請求)
共産党袴田事件と政党の自律
政党の処分が党員の一般市民としての権利利益への侵害となり得る場合においても、その処分の当否の司法審査は、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り、その規範に照らし適正な手続にのっとってされたかどうかの範囲で行われる。
昭和63年12月20日最高裁第三小法廷集民155号405頁(家屋明渡等請求事件)
地方議会の出席停止処分
地方議会の議員への出席停止懲罰は、議員の中核的活動を制約するため、現行判例では司法審査の対象となる。
令和2年11月25日最高裁大法廷民集74巻8号2229頁(出席停止処分取消等請求事件)
裁判官の政治運動禁止
裁判官による積極的な政治運動の禁止の目的は、裁判官の独立及び中立・公正の確保に対する国民の信頼の維持、そして司法と立法・行政とのあるべき関係を規律することであるので、その要請は一般職の国家公務員に対する政治的行為の禁止の要請よりも強いものというべきである。
平成10年12月1日最高裁大法廷民集52巻9号1761頁(裁判官分限事件の決定に対する即時抗告)
審級制度と二審制
審級制度は、憲法81条が最高裁判所を終審裁判所とする以外は立法によって定めるべきものであるから、最高裁判所を頂点とする二審制の審級制度を導入しても、それだけで違憲となるものではない。
昭和23年3月10日最高裁大法廷刑集2巻3号175頁(強盗、建造物侵入)
司法行政権の所在
憲法上の直接的な明文の規定はないが、司法権の独立の観点から、最高裁判所及び下級裁判所が司法行政権を担っていると解されている。
特別裁判所の禁止と弾劾裁判所
日本国憲法は特別裁判所の設置を明文で禁止しているが、弾劾裁判所は憲法上の例外である。
最高裁裁判官国民審査の法的性質
最高裁判所裁判官の国民審査は、最高裁判所の判例の趣旨に照らせば、内閣の任命を国民が確認する意味ではなく、実質において解職の制度であり、積極的に罷免を可とする票以外の白票は、罷免を可としないものとして扱われる。
昭和27年2月20日最高裁大法廷民集6巻2号122頁(最高裁判所裁判官国民審査の効力に関する異議)
政党除名処分への適正手続の司法審査
法律上の権利義務をめぐる争訟において政党の除名処分の有効性が前提問題となる場合、裁判所の審査権は全く及ばないのではなく、除名処分は適正な手続を履践したか否かの観点から審理判断される(共産党袴田事件)。
昭和63年12月20日最高裁第三小法廷集民155号405頁(家屋明渡等請求事件)
司法権の範囲と英米法的観念
憲法76条1項の「司法権」には、民事・刑事事件の裁判権のほか、行政庁の公権力の行使に対する不服の争訟などの行政事件の裁判権も含まれると解されているが、これは行政事件を通常裁判所の管轄に含める英米法に由来する考え方であり、行政裁判所を別系統に置いたフランス、ドイツなどヨーロッパ大陸諸国の制度に由来するものではない。
特別裁判所の意義と裁判官弾劾裁判所
憲法76条2項前段の「特別裁判所」とは、特別の事件について裁判するために通常の裁判所の系列から独立して設けられる裁判機関をいい、裁判官弾劾裁判所(憲法64条)は特別裁判所に当たるが、憲法自身が設置を認める例外である。
法律上の争訟の意義(裁判所法3条)
裁判所がその固有の権限に基づいて審判することのできる対象は裁判所法3条にいう「法律上の争訟」すなわち当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であってかつそれが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる。
昭和56年4月7日最高裁第三小法廷民集35巻3号443頁(寄附金返還)
宗教法人の内部紛争と司法権の限界
特定の者の宗教活動上の地位の存否を審理・判断するにつき宗教団体の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理・判断することが必要不可欠である場合には、裁判所はその者が宗教活動上の地位にあるか否かを審理・判断することができず、その結果宗教活動上の地位に基づく宗教法人の代表役員の地位の存否についても審理・判断することができないから、その代表役員の地位の存否の確認を求める訴えは、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらない。
平成5年9月7日最高裁第三小法廷民集47巻7号4667頁(代表役員等地位不存在確認)
裁判員制度と国民主権
裁判員制度は国民主権の理念に沿って司法の国民的基盤の強化を図るものであり、裁判員の職務等が司法権の行使に対する国民の参加という点で参政権と同様の権限を国民に付与するものであることからすると、裁判員の職務等を憲法18条後段が禁ずる「苦役」に当たるというのは必ずしも適切ではない。
平成23年11月16日最高裁大法廷刑集65巻8号1285頁(覚せい剤取締法違反,関税法違反被告事件)