条文・判例・学説を体系的に整理
憲法17条の意義
国又は公共団体の行為が非権力的な管理作用に属する場合は、大日本帝国憲法下でも判例上民法709条以下の規定による不法行為責任がある程度まで認められていたため、日本国憲法17条の意義は権力作用に属する不法行為との関係で国家無答責の原則を否定し国家の賠償責任を明記した点にある。
国家賠償法の立法裁量
憲法17条が「法律の定めるところにより」としているのは、公務員のどのような行為によりいかなる要件で賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであるが、立法府に無制限の裁量権を付与する白紙委任を認めたものではなく、免責・責任制限の規定が同条に適合するかは、目的の正当性とその手段の合理性・必要性を総合的に考慮して判断される。
平成14年9月11日最高裁大法廷民集56巻7号1439頁(損害賠償請求事件)
納税義務の法律による具体化
憲法30条は、国民の納税の義務を定めるが、その義務は法律の定めるところにより負うもの(法律による具体化が必要)である。
不妊手術強制と身体侵襲を受けない自由
最大判令和6年7月3日は、憲法13条は人格的生存に関わる重要な権利として自己の意思に反して身体への侵襲を受けない自由を保障しているところ、生殖を不能にする手術(不妊手術)は生殖能力の喪失という重大な結果をもたらす身体への侵襲であるから、これを受けることを強制することは上記自由に対する重大な制約に当たり、正当な理由に基づかずに不妊手術を受けることを強制することは同条に反し許されないとした。
令和6年7月3日最高裁大法廷民集78巻3号382頁(国家賠償請求事件)
マイナンバーと個人情報の開示公表の自由
最判令和5年3月9日は、憲法13条により何人も個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有すると解されるとし、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律に基づく特定個人情報の利用、提供等の行為は、この自由を侵害するものではないとした。
令和5年3月9日最高裁第一小法廷民集77巻3号627頁(マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件)
私立大学の退学処分と補導の経由義務
私立大学の学生に対する退学処分に当たり、あらかじめ本人に反省を促すための補導を行うことが教育上必要かつ適切か、その方法と程度は、学校当局の具体的かつ専門的・自律的判断に委ねられ、学則等に格別の定めがない限り、補導の過程を経由することが常に学校当局の法的義務であるとまでは解されない。
昭和49年7月19日最高裁第三小法廷民集28巻5号790頁(身分確認請求)
旧監獄法の受刑者の非親族との信書発受
旧監獄法46条2項の下で、受刑者の親族以外との信書の発受は、監獄内の規律・秩序の維持、受刑者の身柄の確保又は改善・更生の点で放置できない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合に限り、その防止のため必要かつ合理的な範囲で制限でき、具体的事情を考慮せず発信を不許可とした措置は違法である。
平成18年3月23日最高裁第一小法廷集民219号947頁(損害賠償請求事件)
京都府学連事件と13条の私生活上の自由
憲法13条は、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しており、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する。
昭和44年12月24日最高裁大法廷刑集23巻12号1625頁(公務執行妨害、傷害)
自家消費用の酒類製造と幸福追求権
自己消費を目的とする酒類製造を処罰する酒税法の規定は、自己消費目的の酒類製造の自由を制約するとしても、立法府の裁量権を逸脱し著しく不合理であることが明白なものではないから、憲法13条に違反しない。
平成元年12月14日最高裁第一小法廷刑集43巻13号841頁(酒税法違反)
商業宣伝放送と聞きたくない音の自由
最高裁判所は、市営地下鉄内の商業宣伝放送を違法ということはできないとしたにとどまり、聞きたくない音を聞かない自由が精神的自由として憲法13条により保障されるか否かについては、多数意見は判断を示していない。
昭和63年12月20日最高裁第三小法廷集民155号377頁(商業宣伝放送差止等請求事件)
再婚禁止期間違憲判決と婚姻の自由
憲法24条1項は婚姻をするかどうかいつ誰と婚姻をするかについては当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものであり、婚姻の自由は十分尊重に値するものと解することができる。
平成27年12月16日最高裁大法廷民集69巻8号2427頁(損害賠償請求事件)
再婚禁止期間の立法目的とDNA検査
再婚禁止期間違憲判決は、民法733条1項の立法目的を、女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあるとしたが、DNA検査技術の進歩によって立法目的が合理性を欠くに至ったとはせず、100日を超える部分について、立法目的との関連で合理性を欠くとした。
平成27年12月16日最高裁大法廷民集69巻8号2427頁(損害賠償請求事件)
夫婦同氏制と通称使用の広がり
夫婦同氏を定める民法750条が憲法24条に違反しないという見解は婚姻前の氏を通称として使用することが近時社会的に広まっていることを論拠とすることができる。
平成27年12月16日最高裁大法廷民集69巻8号2586頁(夫婦別姓訴訟)
人格的利益説と一般的自由説
憲法13条で保障される幸福追求権の内容について、個人の人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利の総体をいうと理解する見解(人格的利益説)を採ったとしても、これに含まれない生活領域に関する行為の自由が憲法上全く保護されなくなるわけではない。
プライバシー権の請求権的側面
プライバシー権を「自己に関する情報をコントロールする権利」と理解する立場は、その保障範囲が個人の私的領域に他者を無断で立ち入らせないという自由権的側面にとどまらず、プライバシーの保護を公権力に対して求めるという請求権的側面も想定している。
嫡出性の有無による法定相続分の区別
嫡出性の有無による法定相続分の区別は、立法府に与えられた裁量権を考慮してもこうした区別をすることについて合理的な根拠が認められないから、合理的理由のない差別として憲法14条1項に違反する。
平成25年9月4日最高裁大法廷民集67巻6号1320頁(遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)
会社の政治献金と参政権の侵害
最高裁判所は、株式会社による政党への政治資金の寄付について、会社にも政治活動の自由が保障されるとし、当該寄付は国民個々の選挙権その他の参政権の行使そのものに直接影響を及ぼすものではなく、選挙権の自由なる行使を直接に侵害するものとはなしがたいとして、公序良俗に違反しないとした。
昭和45年6月24日最高裁大法廷民集24巻6号625頁(取締役の責任追及請求)
逮捕歴とプライバシー
個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益が法的保護の対象となるとした上で、過去に犯した罪の逮捕歴に係る事実は個人のプライバシーに属する事実に当たると判断した最高裁決定がある。
平成29年1月31日最高裁第三小法廷民集71巻1号63頁(投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件)
検索結果削除の比較衡量の枠組み
最決平29.1.31は、プライバシーに属する事実を公表されない法的利益と、URL等の情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量し、前者の法的利益が優越することが明らかな場合には、その情報の削除を求めることができるという判断の枠組みを示した。
平成29年1月31日最高裁第三小法廷民集71巻1号63頁(投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件)
投票価値の平等と選挙区割り
投票価値の平等は、国民の意思を公正かつ効果的に代表するために国会が正当に考慮することのできる他の政策的な目的との関連において調和的に実現されるべきものであって、常にその絶対的な形における実現を必要とするものではないから、この考え方は、選挙区間の較差が1対1を超えることは憲法上正当化されないとする見解の根拠とはならない。
昭和51年4月14日最高裁大法廷民集30巻3号223頁(選挙無効請求)