条文・判例・学説を体系的に整理
共謀の範囲と逸脱行為
虚偽公文書作成罪(刑法156条)の教唆を共謀した者の一人が、共謀に基づき、他の共謀者に無断で私人に公文書偽造(同155条)を教唆して実行させた場合、他の共謀者には、虚偽公文書作成罪の教唆犯ではなく、公文書偽造罪の教唆犯が成立する。
昭和23年10月23日最高裁第二小法廷刑集2巻11号1386頁(公文書偽造、教唆、偽造公文書行使幇助、収賄)
過失共同正犯と共同の注意義務違反
過失犯の共同正犯を肯定する見解は、注意義務に違反する行為が実行行為であり、その実行行為を共同して行う意思がある以上、過失犯にも共同実行の意思は認められると説明する。
昭和28年1月23日最高裁第二小法廷刑集7巻1号30頁(有毒飲食物等取締令違反)
共同注意義務違反の過失同時犯構成
複数の行為者が共同の注意義務に共同して違反した場合には、過失の共同正犯を認めなくても、過失の競合の問題として過失同時犯と構成すれば足りるとの見解があるが、過失同時犯とする場合には、各人の過失行為と結果との間に因果関係を立証できないと不可罰になり、処罰に間隙が生じる。
落下瓦の不明と過失共同正犯の必要性
二人が共同して屋根から瓦を落下させる作業をしていて、落下させた瓦が通行人に当たって死亡させたが、いずれが落下させた瓦が当たったのか不明であった場合には、過失同時犯と構成すると因果関係を立証できず不可罰になるから、過失犯の共同正犯を認める必要があるとされる。
犯罪共同説と罪名・科刑の分離
共同正犯の本質について犯罪共同説に立ち、共同正犯の成立を同一罪名に限ると、傷害の故意にとどまる者と殺意ある者との間でも殺人罪の共同正犯が成立し、傷害致死罪の限度で科刑されることとなるが、罪名と科刑が分離するという問題があり、殺人の故意がない者に殺人罪の共同正犯の成立を認めることにも疑問がある。
行為共同説と異なる罪名の共同正犯
共同正犯の本質について行為共同説に立つと、異なる罪名でも共同正犯の成立が認められ、殺意ある者に殺人罪の共同正犯、傷害の故意にとどまる者に傷害致死罪の共同正犯が成立するが、共同正犯の成立範囲が広がりすぎるとの問題がある。
部分的犯罪共同説と共同正犯の成立範囲
共同正犯の本質について、構成要件が同質的で重なり合う限度で共同正犯の成立を認める部分的犯罪共同説によれば、殺意ある者と傷害の故意にとどまる者が共同して人を死亡させた場合、両者に傷害致死罪の共同正犯が成立し、殺意ある者には殺人罪の単独犯も成立する。
部分的犯罪共同説と殺人未遂単独犯批判
部分的犯罪共同説に対しては、傷害の故意にとどまる共同者の行為から死亡結果が生じた場合、殺意ある者に成立する殺人罪の単独犯は未遂にとどまってしまうとの批判がある。
共謀の範囲を超えた強取と共犯責任
窃盗を共謀した者のうち実行を担当した者が共謀に反して財物を強取した場合、実行を分担しなかった共謀者は共謀の範囲を超えた部分について責任を負わず、強盗罪ではなく窃盗罪の共同正犯が成立するにとどまる。
共謀共同正犯と実行行為の細目の認識
共謀共同正犯の成立には、実行行為の日時・場所・方法の詳細な認識は要求されず、共謀した犯罪についての概括的な認識があれば足りる。
昭和33年5月28日最高裁大法廷刑集12巻8号1718頁(傷害致死、暴行、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、窃盜)
過失犯の共同正犯の成立要件
業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するためには、共同の業務上の注意義務に共同して違反したことが必要であり、結果の発生についての共謀(故意の意思連絡)があることは要しない。
昭和28年1月23日最高裁第二小法廷刑集7巻1号30頁(有毒飲食物等取締令違反)
承継的共同正犯をめぐる見解の対立
承継的共同正犯については、後行者が因果的影響を与えた行為・結果のみを独立に評価して成立範囲を限る見解(全面的否定)、一定の場合に限って肯定する見解(限定的肯定)、全面的に肯定する見解が対立する。
承継的共同正犯と先行事実の積極的利用
先行事実を積極的に利用する場合に限って承継的共同正犯を認めるべきとする見解によれば、先行者の暴行による傷害を積極的に利用する意思で後行者が共謀加担した場合には、共謀加担前に生じた傷害結果を含む、生じた結果全てについての傷害罪の共同正犯が成立する。
殺人予備の共同正犯と不使用の毒物
殺人予備罪には共同正犯が成立し得るから、他人の殺害のために毒物を入手して渡した者について、渡した毒物が結局使用されなかったとしても、殺人予備罪の共同正犯の成立は妨げられない。
昭和37年11月8日最高裁第一小法廷刑集16巻11号1522頁(殺人予備)
共謀共同正犯と教唆・幇助の区別
共謀共同正犯について、実行行為の分担を要せず、共同意思の下での謀議と他人の行為の利用があれば足りるとする立場に対しては、共同正犯を教唆犯及び幇助犯と区別することが困難になるとの批判が成り立つ。
共同正犯の成立と実行行為の分担
共謀共同正犯においては、共謀に参加した事実が認められる以上、直接実行行為に関与しない者も、他人の行為をいわば自己の手段として犯罪を行ったという意味で共同正犯としての刑責を負い、実行行為の一部を分担することは必要でない。
昭和33年5月28日最高裁大法廷刑集12巻8号1718頁(傷害致死、暴行、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、窃盜)
共謀共同正犯と客観的謀議行為
共謀共同正犯の成立に、特定の犯罪を行うため共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議を要求する判例の立場は、単なる内心の意思の合致では足りないとする考え方と矛盾しない。
昭和33年5月28日最高裁大法廷刑集12巻8号1718頁(傷害致死、暴行、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、窃盜)
共謀共同正犯と指揮命令の要否
共謀共同正犯の成立には、実行行為を行わない者が実行行為者に対して指揮命令をすることは必要でない。
昭和33年5月28日最高裁大法廷刑集12巻8号1718頁(傷害致死、暴行、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、窃盜)
共同正犯と幇助犯の区別基準
共同正犯と幇助犯の区別について、行為者の主観的事情を重視する見解からは、自己の犯罪を遂行する意思があれば共同正犯、他人の犯罪に加担する意思であれば幇助犯となる。
行為者の役割の重要性と共犯形式
自己の犯罪を遂行する意思かどうかの判断において、行為者が果たした役割の重要性も踏まえて判断すべきとする見解がある。