条文・判例・学説を体系的に整理
中止犯の主観説と反省・悔悟
中止行為の任意性を、やろうと思えばできたが中止したか、やろうと思ってもできなかったかで判断する見解(主観説)の立場からは、中止の動機が反省・悔悟等の自己の行為に対する否定的な感情であることは要件とならない。
中止犯の主観説と他の機会を待つ中止
中止行為の任意性を、やろうと思えばできたが中止したか否かで判断する見解(主観説)の立場からは、犯罪を完全に放棄していなくても、遂行可能であったのに他の機会を待つことが得策と考えて中止した場合には、任意性が認められ得る。
中止犯の客観説と発覚を恐れた中止
社会通念に照らして犯罪続行の障害と考えられる事情かどうかによって任意性を判断する見解(客観説)と、犯行の発覚を恐れることが一般に犯罪の遂行を妨げる事情たり得るとして中止犯の成立を否定する考え方は、親和的である。
中止犯の客観説と刑の減免の根拠
社会通念に照らして犯罪続行の障害と考えられる事情かどうかによって任意性を判断する見解(客観説)は、中止犯の刑の減免の根拠を責任の減少に求める見解からも支持することができる。
中止犯の客観説への批判
社会通念に照らして犯罪続行の障害と考えられる事情かどうかによって任意性を判断する見解(客観説)に対しては、任意性は行為者の主観を問題とするのに、客観的な基準で判断するのは妥当でないとの批判がある。
共同正犯と中止犯
強盗の共謀者の一人が犯行途中で犯行をやめるよう共犯者に告げてその場を立ち去ったが、共犯者が被害者の反抗抑圧状態を利用して財物を奪取した場合、立ち去った者には中止犯は成立しない。
殺害の共謀と中止犯の成否
共同正犯者の一人が自己の意思により犯行をやめ、他の共犯者の実行を阻止して結果の発生を防止した場合、中止犯は自己の意思により中止した者についてのみ成立し、阻止されて犯行を継続できなかった他の共犯者には成立しない。
既遂と中止未遂の関係
既遂犯が成立する場合には、結果発生防止のための真摯な努力をしていても、中止未遂は成立しない。
科刑上一罪と中止未遂
窃盗目的の住居侵入が窃盗罪と牽連犯となる場合、窃盗を中止しても住居侵入罪は既遂であるため、住居侵入罪について中止未遂は成立しない。
通行人による発覚のおそれと中止の任意性
殺意をもって包丁で切り付けたが被害者に傷害を負わせたにとどまり、更に切り付けようとしたところ、通行人が近づいてくるのを認めて犯行の発覚をおそれて逃走した場合には、中止犯は成立しない。
大正2年11月18日大審院刑録19巻1212頁(殺人未遂ノ件)
結果防止の真摯な努力と中止犯
致命傷を与えたと思いつつ、通行人に「あそこに怪我人がいるから、あとはよろしく」とだけ告げて立ち去った場合、被害者がその通行人の手配した救急車で救命されても、行為者自身が結果の発生を防止するための真摯な努力をしたものに当たらず、中止犯は成立しない。
軽微な傷害と結果防止行為なき中止犯
被害者の傷害が軽微であったが、行為者が致命傷を与えたものと信じ込んでその場を立ち去った場合には、結果の発生を防止するための行為をしておらず、中止犯は成立しない。
憐憫による追撃中止の任意性
殺意をもって切り付けた被害者の傷害が軽微で生命に危険がなく、更に切り付けようとしたが、被害者の懇願により憐憫の情を催して立ち去った場合には、自己の意思による中止(着手未遂の中止)として、中止犯が成立する。
大正2年11月18日大審院刑録19巻1212頁(殺人未遂ノ件)
結果発生による中止犯の否定
殺意をもって切り付けた被害者に出血性ショックによる死亡の危険があるときに、憐憫の情から病院に搬送して治療を受けさせたが、被害者が死亡した場合には、殺人既遂となり、中止犯は成立しない。
遺棄既遂後の救助と中止犯の否定
幼児を山中に置き去りにして遺棄罪が既遂に達した後に、後悔して救助した場合でも、中止犯(刑法43条ただし書)は成立しない。
中止犯の対象犯罪
中止犯の規定は未遂犯について適用されるものであり、予備罪について中止犯は成立しない。
昭和29年1月20日最高裁大法廷刑集8巻1号41頁(強盗、同予備、窃盗)
中止犯の結果防止の単独実行の不要
中止犯が成立するには、必ずしも行為者が単独で結果発生を防止する必要はなく、他人の協力を得て結果を防止した場合でも、行為者が結果防止のため真摯な努力をしたと評価できれば成立し得る。
中止犯の法的効果
中止犯が成立する場合、その刑は減軽又は免除されるのであり、必ず免除されるわけではない。
中止犯の政策説
中止犯の刑の減免の根拠を、行為者及び将来犯罪を実行するかもしれない国民一般に対して犯罪の中止を奨励することによって法益を侵害から守ることに求める見解(政策説)があり、この見解には、刑法が中止犯を犯罪の成立を妨げる事由とせず刑の減免にとどめていることや、一般人は中止犯の規定の存在を知らないことから、中止を奨励する効果に乏しく説得力を欠くとの批判がある。
中止犯の責任減少説
中止犯の刑の減免の根拠を、障害未遂と比べて行為者に対する非難が減少することに求める見解(責任減少説)があり、この見解には、真剣な中止行為があれば結果が発生した場合にも刑の減免を認めるべきことになって既遂に中止犯を認めない刑法43条と整合しない、また中止の動機を倫理的に是認し得るものに限定するのが自然であるのに43条ただし書にその限定がない、との批判がある。