条文・判例・学説を体系的に整理
時効完成前の不法行為と時効取得者請求
建物の所有権を時効により取得した者は、時効の効力が占有の開始の時に遡る(民法144条)から、占有開始後時効完成までの間に第三者が建物の一部を損傷させたときも、その第三者に対し不法行為に基づく損害賠償を請求することができる。
相続回復請求の時効完成前の取得時効
最判令和6年3月19日は、相続回復請求の相手方である表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるとした。
令和6年3月19日最高裁第三小法廷民集78巻1号63頁(遺言無効確認等請求事件)
公共用財産の黙示的公用廃止と取得時効
公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、実際上公の目的が害されることもなく、もはや公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の成立は妨げられない。
昭和51年12月24日最高裁第二小法廷民集30巻11号1104頁(公共用財産時効取得事件)
取得時効期間の計算(初日不算入)
所有権の取得時効期間の計算においては、占有の開始の時が午前零時でなかったときは、民法140条により、占有開始の日は算入されない。
明渡拒否による占有継続の平穏性
占有者が所有者からの明渡請求を拒否して占有を継続しても、それだけでは取得時効の要件である占有の平穏性は失われない。
土地の賃借権の時効取得の要件
土地の賃借権の取得時効が成立するためには、土地の継続的な用益という外形的事実が存在するだけでなく、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されていることが必要である。
昭和43年10月8日最高裁第三小法廷民集22巻10号2154頁(借地権確認等請求)
所有権以外の財産権の取得時効
所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、20年又は10年を経過した後、その権利を取得する。
自己の所有物についての取得時効の援用
不動産を買い受け所有権に基づいてこれを占有する買主は、売主との関係においても、自己の占有を理由として、その不動産につき時効による所有権の取得を主張することができる。
昭和44年12月18日最高裁第一小法廷民集23巻12号2467頁(所有権移転登記手続請求)
短期取得時効の無過失の立証責任
民法162条2項の10年の取得時効を主張する者は、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であったことの立証責任を負う。
昭和46年11月11日最高裁第一小法廷集民104号227頁(所有権確認等請求)
地上権の取得時効期間と善意無過失
地上権の取得時効期間は、時効取得を主張する者が、占有の開始の時に善意であり、かつ過失がなかった場合は10年、そうでない場合は20年である。
所有の意思の判断(外形的客観的基準)
占有における所有の意思は、占有者の内心の意思ではなく、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものであり、外形的客観的に所有の意思がないとされる場合には、占有者が内心で他人の所有権を排斥する意思を有していても所有の意思は認められない。
昭和58年3月24日最高裁第一小法廷民集37巻2号131頁(土地所有権移転登記手続)
地役権の時効取得の要件
地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り、時効によって取得することができる。
建物賃借人の敷地取得時効援用
建物の賃借人は、賃貸人が敷地所有権を時効取得しなければ建物賃借権を失うときであっても、賃貸人による敷地所有権の取得時効を援用することができない。
昭和44年7月15日最高裁第三小法廷民集23巻8号1520頁(家屋退去請求事件)
時効完成前の譲受人と完成後の登記
取得時効の完成前に原所有者から目的不動産を譲り受けた者は、その登記を時効完成後に備えたとしても時効取得者にとって当事者の地位に立つから、時効取得者は登記を備えなくても当該第三者に対して時効取得を対抗することができる。
昭和42年7月21日最高裁第二小法廷民集21巻6号1653頁(時効完成前の譲受人と完成後の登記)
時効期間の初日不算入
時効期間を計算する際には、その期間が午前零時から始まるときを除き、期間の初日は算入しない。
所有の意思の否定
外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったと解される事情を証明すれば、所有の意思を否定することができる。
昭和58年3月24日最高裁第一小法廷民集37巻2号131頁(土地所有権移転登記手続)
財産権としての債権の時効取得
所有権以外の財産権(債権を含む)も、自己のためにする意思をもって平穏かつ公然と行使する者は、民法163条により時効取得することができる。
昭和43年10月8日最高裁第三小法廷民集22巻10号2154頁(借地権確認等請求)
10年取得時効の立証責任
10年の取得時効を援用して所有権の取得を主張する者は、占有の開始時点と10年経過時点の占有を主張立証すれば足り、所有の意思・平穏・公然・善意は民法186条1項により推定されるが、無過失は推定されないため別途立証が必要である。
昭和46年11月11日最高裁第一小法廷集民104号227頁(所有権確認等請求)
時効完成後の第三者と登記
不動産について取得時効が完成しても、時効取得者はその登記をしなければ、時効完成後に当該不動産を取得して登記を備えた第三者に対して、時効による権利の取得を対抗することができない。
昭和33年8月28日最高裁第一小法廷民集12巻12号1936頁(土地明渡請求)
他人物賃貸と代理占有による取得時効
他人が所有する土地を自己所有の土地として第三者に賃貸した者は、その第三者が20年間その土地を占有したとき、取得時効によりその土地の所有権を取得することができる。