条文・判例・学説を体系的に整理
代理権の濫用(相手方の善意無過失)
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合でも、相手方がその目的を知らず、知ることもできなかったときは、その行為は有効であり、効力は本人に帰属する。
権限外の表見代理の正当理由と過失
代理人が権限外の行為をした場合の表見代理(民法110条)は、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときに成立し、第三者に過失があって権限外であることを知らなかったときは正当な理由が認められず、契約の効力は本人に帰属しない。
昭和44年12月19日最高裁第二小法廷民集23巻12号2539頁(所有権確認請求および所有権移転登記手続等反訴請求)
登記申請の委託と表見代理の基本代理権
贈与契約上の義務の履行のための登記申請行為の委任は、私法上の作用を有する行為の代理権として民法110条の基本代理権となり得るから、受任者が無断で連帯保証契約を締結した場合にも、権限外の行為の表見代理が成立する余地がある。
昭和46年6月3日最高裁第一小法廷民集25巻4号455頁(約束手形金請求)
登記申請の代理権と表見代理の基本権限
売買契約に基づく所有権移転登記手続の義務を履行するための登記申請行為の代理権は、私法上の契約による義務の履行のための行為であり、民法110条の基本代理権になり得て、代理人がその権限外の行為をし、相手方に権限があると信ずべき正当な理由があるときは、本人は責任を負う。
昭和46年6月3日最高裁第一小法廷民集25巻4号455頁(約束手形金請求)
代理権授与の表示による表見代理
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その他人がその代理権の範囲内においてした行為について責任を負うが、第三者が代理権がないことを知り又は過失によって知らなかったときは責任を負わない。
権限外の行為の表見代理
権限外の行為の表見代理が成立するためには相手方が代理人に当該行為をする権限があると信ずべき正当な理由があることが必要であり、本人の過失は要件とされていない。
代理権消滅後の表見代理
代理権消滅後の表見代理(民法112条1項)は、代理権の消滅の事実を知らず、かつ知らなかったことに過失がない第三者との間で成立し、その第三者が代理権の消滅前に代理人として行為をした者と取引をしたことがあることは要件とされていない。
基本代理権なしの表見代理
何らの代理権も与えられておらず本人による代理権授与の表示もない者が代理人として行為した場合、相手方に正当な理由があっても、109条・110条の表見代理は成立しない。
権限外の行為の表見代理
代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときは、本人はその行為についての責任を負う。
表見代理と転得者
表見代理は直接の相手方についてのみ判断され、相手方が悪意または有過失であれば、転得者が善意無過失であっても表見代理は成立しない。
昭和36年12月12日最高裁第三小法廷民集15巻11号2756頁(約束手形金請求)
日常家事代理権と表見代理
夫婦の一方が日常家事の範囲を超えて他方を代理して法律行為をした場合、相手方がその行為が日常家事に属すると信ずるにつき正当な理由があるときは、110条の趣旨が類推適用される。
昭和44年12月18日最高裁第一小法廷民集23巻12号2476頁(土地建物所有権移転登記抹消登記手続請求)
本人無関与の偽造委任状と表見代理
本人が代理権を与えた旨の表示に全く関与せず、他人が印章や書類を盗み出して委任状を偽造した場合には、相手方が代理権のないことについて善意無過失であっても、民法109条の表見代理は成立しない。
名称使用許諾と外観信頼者の取引保護
他人に自己の名称や商号等の使用を許し、その他人がする取引が自己の取引であるかのように見える外形を作り出した者は、その外形を信頼して取引した第三者に対し、民法109条、商法23条の法理に照らして責任を負う。
昭和35年10月21日最高裁第二小法廷民集14巻12号2661頁(売掛代金請求)
代理権消滅後の権限外行為
代理権消滅後の権限外行為にも、第三者の善意無過失と代理権があると信じる正当な理由等の要件を満たせば、表見代理が成立する。
昭和32年11月29日最高裁第二小法廷民集11巻12号1994頁(契約金返還請求)
日常家事と表見代理
夫婦の日常家事に関する相互の代理権を基礎として権限外の行為の表見代理は成立しないが、相手方がその夫婦の日常の家事に関する法律行為と信ずるにつき正当の理由のあるときに限り、民法110条の趣旨が類推適用される。
昭和44年12月18日最高裁第一小法廷民集23巻12号2476頁(土地建物所有権移転登記抹消登記手続請求)
代理権授与表示の相手方の悪意過失の立証
代理権授与の表示による表見代理(民法109条)において、相手方が悪意又は過失であったことは本人が主張立証すべき事実であり、相手方が自己の善意無過失を主張立証する必要はない。
昭和41年4月22日最高裁第二小法廷民集20巻4号752頁(根抵当権設定登記抹消請求)
基本代理権の不存在と表見代理の否定
民法110条の表見代理は基本代理権の存在を前提とするので、何らの代理権もない者が代理人と称してした契約は、相手方が代理権があると信じたことに正当な理由があっても、本人に対して効力を生じない。
代理権授与表示と免責
代理権授与表示による表見代理において、本人は第三者が代理権のないことを知り又は過失により知らなかったことを証明して責任を免れることができる。
本人と称する権限外行為と表見代理
代理権を授与された者が本人自身であると称して権限外の法律行為をした場合、民法110条を類推適用できる。
昭和44年12月19日最高裁第二小法廷民集23巻12号2539頁(所有権確認請求および所有権移転登記手続等反訴請求)
公法上の行為の代理権と基本代理権
公法上の行為の代理権であっても、私法上の契約による義務の履行のためのもの(贈与に基づく所有権移転登記の申請など)であるときは、民法110条の基本代理権に当たり、権限外の行為の表見代理の規定を適用することができる。
昭和46年6月3日最高裁第一小法廷民集25巻4号455頁(約束手形金請求)