条文・判例・学説を体系的に整理
付随的違憲審査制と判例の射程
裁判所の違憲審査権は具体的な争訟事件を前提としてその手続の中で行使されるべきであるとする見解(付随的違憲審査制)の根拠として、判例となり得るのは結論に至る上で決定的な理由付け部分に限られるとの主張は、直接の根拠とはならない。
憲法判断回避と民主政の過程
付随的違憲審査制の下で、違憲の争点が適法に提出されていても事案の解決が可能ならばあえて憲法判断をする必要がないとする憲法判断回避の準則は、議会制民主主義の下では法律に問題がある場合にまず民主政の過程で法改正を求めるのが原則であるとの考え方を根拠とする。
合憲限定解釈と国法秩序の統一性
複数の解釈が成り立ち得る法令の条項について、ある解釈をとれば合憲性について重大な疑いが生じる場合に裁判所はその解釈をとるべきでないとする考え方(合憲限定解釈)は、国法秩序はできる限り統一的であるべきであるとの考え方を根拠とする。
警察予備隊違憲訴訟と付随的審査制
警察予備隊違憲訴訟判決は出訴等に関する手続を法律で定めれば最高裁判所には法令等の合憲性を抽象的・一般的に審査・決定する権限を付与することもできるという考え方を否定するものではないと見る余地もある。
昭和27年10月8日最高裁大法廷民集6巻9号783頁(日本国憲法に違反する行政処分取消請求)
選挙無効訴訟と第三者の権利主張
公職選挙法上の選挙無効訴訟において、選挙人である原告は、同法の規定により一定の者の選挙権が制限されていることに関し、他者の選挙権の制限に係る同規定の違憲を主張して争うことはできないとする見解にとって、選挙権の制限を受ける者は自己の選挙権侵害を理由に救済を求める訴訟において同規定の違憲を主張することができるということは、その根拠となる。
平成26年7月9日最高裁第二小法廷集民247号39頁(選挙無効請求事件)
合憲限定解釈
規制範囲が過度に広範である疑いのある法律の規定であっても、これを合理的に解釈することによりその規制対象を合憲的に規制し得る行為に限定でき、違憲の疑いを除去することができる場合には裁判所は同規定を違憲と判断すべきではないとする見解(合憲限定解釈)にとって、法律の違憲判断を回避することにより立法府への干渉を最小限に抑えるとともに基本的人権の保障を果たすことができるということは、その根拠となる。
違憲判断の効力
最高裁判所が法令を違憲無効とする判決をした場合、その判決の効力が及ぶのは当該事件限りであり、違憲と判断された法律は当該事件の訴訟当事者との関係においてのみその適用を排除されるとする見解(個別的効力説)にとって、法的安定性を確保するため最高裁判所は自らの法令違憲の判断の効力が及ぶ範囲を制限する旨説示できるという考え方は、その根拠とはならない。
法令違憲と適用違憲
違憲判断の方法には、法令の規定それ自体を違憲とする法令違憲と、法令の規定が当該事件に適用される限りにおいて違憲とする適用違憲とがあり、適用違憲は、法令を全面的かつ明瞭に違憲とする判断を避けることにより、裁判所が立法府に対する干渉を最小限にとどめようとするものである。
条約と違憲審査
憲法が条約に優位すると考える見解によっても、裁判所による違憲審査について定めた憲法81条に条約が列挙されていないことなどを理由として、条約が裁判所の違憲審査の対象に含まれないと解することは可能である。
昭和34年12月16日最高裁大法廷刑集13巻13号3225頁(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)
付随的違憲審査制
憲法81条は最高裁判所を違憲審査の終審裁判所と定めるが、日本の違憲審査制は具体的な争訟事件の解決に付随して行使される付随的審査制であり、最高裁判所に具体的な争訟事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限は認められていない。
昭和27年10月8日最高裁大法廷民集6巻9号783頁(日本国憲法に違反する行政処分取消請求)
違憲審査権の根拠規定
憲法81条は最高裁判所が一切の法律・命令・規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所であると定め、違憲審査権の根拠規定とされている。
事情判決の法理
一般的な法の基本原則に基づくものとして事情判決の法理を適用して選挙を無効とせず違法の宣言にとどめるのは、当該選挙を無効とすることによって憲法が所期していない結果を生じることを回避するためである。
昭和51年4月14日最高裁大法廷民集30巻3号223頁(選挙無効請求)
選挙区選挙のみの無効の問題点
定数配分規定の違憲判断を選挙の効力と結び付け、訴訟が提起された選挙区の選挙だけを無効とする手法は、投票価値が不平等であるとされた選挙区からの代表者がいない状態で定数配分規定の是正が行われるという問題がある。
昭和51年4月14日最高裁大法廷民集30巻3号223頁(選挙無効請求)
将来効判決の法理
定数配分規定の違憲判断を選挙の効力と結び付けない判決の将来効の法理は、再選挙を執行することが事実上不可能であることや、事情判決を繰り返すことによって生じる司法審査制自体への弊害という問題にも対処しようとするものである。
昭和51年4月14日最高裁大法廷民集30巻3号223頁(選挙無効請求)
付随的審査制と客観訴訟
憲法81条は具体的な争訟事件を解決するのに必要な限度で裁判所に違憲審査権を付与した規定であるが、裁判所は客観訴訟においても違憲審査を行うことができる。
昭和51年4月14日最高裁大法廷民集30巻3号223頁(選挙無効請求)
付随的違憲審査の第三者権利侵害の主張
付随的違憲審査制は個人の権利保護を主たる目的とするが、訴訟当事者は、自己の権利に関わる限度で第三者の権利侵害を主張することも認められる場合がある(第三者所有物没収事件)。
昭和37年11月28日最高裁大法廷刑集16巻11号1593頁(第三者所有物没収事件)
違憲審査権の根拠と最高裁の終審性
最高裁判所の判例によれば、憲法81条の規定がなくても、憲法の最高法規性(98条)と裁判官の憲法尊重擁護義務等から、具体的訴訟事件において法令の憲法適合性を判断する違憲審査権は裁判官に認められる。
昭和25年2月1日最高裁大法廷刑集4巻2号73頁(食糧管理法違反)