条文・判例・学説を体系的に整理
放火罪の建造物の物理的一体性説
現住建造物等放火罪における建造物の一体性について、物理的一体性(構造上の接続性及び延焼可能性)の存在を必要不可欠とする見解によれば、非現住部分と現住部分が構造上接続していない場合には、機能的一体性が認められても一体性は認められない。
延焼可能性なき建造物の機能的一体性
非現住部分と現住部分に機能的一体性が認められるが延焼可能性が否定された場合、物理的一体性又は機能的一体性のいずれかで足りるとする見解では建造物の一体性が認められるが、物理的一体性を必要不可欠とする見解では認められない。
構造的接続と放火罪の建造物の一体性
非現住部分と現住部分が構造上接続し、機能的一体性及び延焼可能性が認められるときは、物理的一体性を必要とする見解からも、機能的一体性で足りるとする見解からも、建造物の一体性が認められる。
機能・延焼可能性なき建造物の一体性
非現住部分と現住部分の機能的一体性が否定され、かつ延焼可能性も否定された場合には、物理的一体性又は機能的一体性のいずれかで足りるとする見解からも、建造物の一体性は認められない。
延焼が容易でない建物の機能的一体性
延焼可能性が完全には否定できないが容易には延焼しない場合(物理的一体性が弱い場合)で、機能的一体性が認められるときは、機能的一体性で足りるとする見解からも、機能的一体性が物理的一体性の弱さを補う限度で考慮されるとする見解からも、建造物の一体性が認められる。
自己所有非現住建造物等放火の未遂
刑法112条は108条及び109条1項の罪の未遂を罰すると定めており、109条2項の自己所有非現住建造物等放火罪の未遂は処罰されない。
自動車への放火予備の処罰
刑法113条は108条又は109条1項の罪を犯す目的の予備を処罰するにとどまり、110条の建造物等以外放火罪(自動車への放火)の予備は処罰されない。
保険に付した自己所有家屋への放火
自己の所有に係る家屋であっても、保険に付したものを焼損して公共の危険を生じさせたときは、他人の物を焼損した者の例による(刑法115条)ので、自己所有の家屋に一人で居住していた者が、保険金をだまし取るため放火して全焼させ公共の危険を生じさせたときは、他人所有非現住建造物等放火罪が成立する。
自己所有非現住建造物の失火罪
失火により、109条に規定する物であって自己の所有に係るもの(自己所有の非現住建造物)を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、失火罪(116条2項)として50万円以下の罰金に処される。
放火罪の公共の危険の性質と認識
刑法109条2項の「公共の危険」の発生を客観的処罰条件、同法110条の「公共の危険」の発生を結果的加重犯の加重的結果と解する見解は、「公共の危険」の認識を不要とするが、これに対しては、110条1項の客体の焼損の認識のみでは器物損壊罪の責任しか基礎付けられないとの批判がある。
渡り廊下で接続した建物の現住性
人が居住する建物と居住しない建物が渡り廊下で接合され、全体が物理的にも機能的にも一個の現住建造物と認められる場合には、居住しない建物に放火して焼損させれば、居住建物に延焼しなくても、現住建造物等放火既遂罪が成立する。
平成元年7月14日最高裁第三小法廷刑集43巻7号641頁(爆発物取締罰則違反、傷害、現住建造物等放火)
カレンダーの焼損と独立燃焼説
放火罪の既遂(焼損)は、火が放火の媒介物を離れて目的物(家屋)が独立して燃焼を継続し得る状態に達したときに成立し、壁に掛けたカレンダーが燃えただけで他に燃え移らず消し止められた場合には、既遂とならない。
昭和23年11月2日最高裁第三小法廷刑集2巻12号1443頁(放火)
犯人のみが居住する建物の現住性
刑法108条の「人」とは犯人以外の者を指すから、犯人が単独で居住し、かつ誰も現在しない家屋に放火しても、現住建造物等放火罪は成立せず、非現住建造物等放火罪(刑法109条)の成否が問題となる。
昭和32年6月21日最高裁第二小法廷刑集11巻6号1700頁(放火、詐欺、横領)
床板の独立燃焼と放火罪の既遂
居住家屋の押入れの床板が、火が媒介物を離れて独立して燃焼する程度に達すれば、建物の効用を失うに至っていなくても、現住建造物等放火罪は既遂となる。
昭和25年5月25日最高裁第一小法廷刑集4巻5号854頁(放火)
放火罪の「焼損」の意義(効用喪失説)
放火罪にいう「焼損」とは目的物の重要部分が燃焼し本来の効用を喪失した状態を意味するとする見解がある。
放火罪の既遂と建造物の焼損程度
効用喪失説によれば、建造物の場合全焼又は半焼に至らない限り放火罪が既遂に達しない可能性があり、その場合には既遂時期が遅きに失するとの批判がありうる。
不燃性建造物と放火罪の既遂
いずれの見解によっても、不燃性の建造物に放火した場合において内装の融解により有毒ガスが発生して人の生命・身体に危険を生じさせたとしても建造物自体が燃焼しない限り放火罪の既遂は成立しないため処罰範囲が狭すぎるとの批判がありうる。
効用喪失説からの独立燃焼説批判
独立燃焼説に対して、効用喪失説の立場から、放火罪が公共危険罪であることを軽視しているとの批判を向けることはできない。
独立燃焼説と中止犯の範囲への批判
独立燃焼説に対しては、効用喪失説よりも既遂時期が早く、中止犯が成立する範囲が狭くなるため、刑事政策的に望ましくないとの批判が可能である。
自己所有建造物への放火と処罰
刑法109条2項・110条2項が自己所有物に対する放火も処罰していることから、焼損の意義(既遂時期)を目的物の効用喪失という財産犯的側面から決する効用喪失説に対しては、妥当でないとの批判が可能である。