条文・判例・学説を体系的に整理
授益的処分の撤回と法令の根拠の要否
行政庁は、相手方に利益を与える行政処分をした場合であっても、公益上その撤回の必要性が高いときは、法令上その撤回について直接明文の規定がなくても、処分の権限を付与されている者がその権限において撤回することができる。
昭和63年6月17日最高裁第二小法廷集民154号201頁(優生保護法指定医の指定取消処分取消等請求事件)
重大明白な違法処分の当然無効
行政処分に重大かつ明白な違法(瑕疵)があるときは、当該処分は取り消されなくても当然に無効である。
昭和34年9月22日最高裁第三小法廷民集13巻11号1426頁(土地所有権確認請求)
出訴期間経過後の職権取消し
処分庁は、自らした行政処分に成立当初から取り消し得べき瑕疵があった場合には、取消訴訟の出訴期間経過後に判明し、訴訟手続によって取り消される余地がなくなったときでも、当該処分を自ら職権で取り消すことができる。
昭和43年11月7日最高裁第一小法廷民集22巻12号2421頁(所有権確認等請求)
授益的処分の職権取消しと法律の根拠
処分庁は、授益的処分であっても、処分成立時からの瑕疵を理由として職権で取り消すことができ、その取消しを認める旨の法律上の明文の規定は必要でない(ただし、名宛人の利益との比較衡量による制約がある)。
昭和43年11月7日最高裁第一小法廷民集22巻12号2421頁(所有権確認等請求)
指定医師の指定取消しと撤回の区別
人工妊娠中絶を行う指定医師について、指定後に虚偽の出生証明書作成等による罰金刑が確定して適格性の欠如が明らかとなり、指定を存続させることが公益に適合しない状態が生じたことを理由に指定を取り消す行為は、後発的事情に基づいて将来に向かい効力を失わせる学問上の撤回に当たる。
昭和63年6月17日最高裁第二小法廷集民154号201頁(優生保護法指定医の指定取消処分取消等請求事件)
適法な行政行為の将来的撤回
行政庁が適法に行った行政行為をその後の事情の変化に伴って将来に向かって撤回することは、法令上直接明文の規定がなくとも可能であり、損失補償の実施が撤回の効力発生の前提条件となるわけではない。
昭和63年6月17日最高裁第二小法廷集民154号201頁(優生保護法指定医の指定取消処分取消等請求事件)
違法性の承継と課税処分
課税処分の違法性は滞納処分に承継されないことから、滞納処分の取消訴訟において課税処分の違法を滞納処分の違法事由として主張することは許されないが、課税処分に重大かつ明白な違法があって無効であるときは、その主張は許される。
昭和50年8月27日最高裁第二小法廷民集29巻7号1226頁(課税処分取消請求)
違法な行政行為の職権取消し
行政行為が成立時から違法であった場合、処分庁は自らその違法を認めてこれを取り消すことができるが、取消しによって生ずる不利益と、取り消さないことによって処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し、その処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当と認められるときに限られ、取消しにより相手方に生ずる不利益の大きさにかかわらず常に取り消せるわけではない。
昭和43年11月7日最高裁第一小法廷民集22巻12号2421頁(所有権確認等請求)
違法処分の職権取消の可否
行政庁が定めた農地買収計画について法定の不服申立て期間が徒過し争訟手続によってその効力を争い得なくなった後であっても、当該農地買収計画の内容が違法又は不当であると判断した行政庁は、これによって生ずる不利益等を比較考量して放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当と認められるときに限り、これを自ら職権で取り消すことができる。
昭和43年11月7日最高裁
重大かつ明白な瑕疵による当然無効
行政処分の違法が重大かつ明白で当然無効ならしめるものと認められる場合には、権限ある機関による取消しを待たずにその効力を有しないものと解される。
附記理由不備の瑕疵の治癒
青色申告に係る法人税の更正処分における附記理由不備の瑕疵は後日これについての審査請求に対する裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしてもそれにより治癒されるものではない。
昭和47年12月5日最高裁第三小法廷民集26巻10号1795頁(法人税課税処分取消請求)
行政処分の職権取消しの原則
行政庁は、自らのした行政処分が当初から違法であったことを後日認識したときは、取消しを認める旨の明文規定がなくても、取消しによる不利益と取り消さない不利益とを比較考量し、放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当と認められるときは、自ら取り消すことができるが、争訟を裁断する行政処分についてはこの限りでない。
昭和43年11月7日最高裁第一小法廷民集22巻12号2421頁(所有権確認等請求)
争訟裁断処分の不可変更力
争訟を裁断する行政処分については、当該処分をした行政庁が自らこれを取り消すことは原則として許されない。
昭和29年1月21日最高裁第一小法廷民集8巻1号102頁(行政処分取消請求)
授益的行政行為の職権取消し
行政行為が名宛人にとって利益なものであった場合でも、当該行政行為を行った行政庁自身が後にこれが当初から違法であったと認識した場合には、取消しを認める旨の明文の規定がなくても、取消しによる不利益と取消しをしないことによる不利益とを比較考量し、処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときは、職権をもって当該行政行為を取り消すことができる。
行政行為の撤回権限者
行政庁が適法に行った行政行為をその後の事情の変化に伴い将来に向かって撤回することができるのは、当該行政行為を行う権限のある行政庁であり、指揮監督権を有する上級行政庁であっても原則として当該行政行為の撤回をすることはできない。
行政行為の撤回と損失補償
適法に行った行政行為を事情の変化に伴い将来に向かって撤回することが許される場合でも、撤回により相手方に生じた損失は、相手方が受忍すべきものでない限り損失補償の対象となるから、撤回に伴う財産的損害の補償が当然に不要となるとは限らない。
昭和49年2月5日最高裁第三小法廷民集28巻1号1頁(借地権確認土地引渡等請求)
行政行為の撤回
処分庁は、成立時には瑕疵がなかったが後発的な事情の変化により存続させることが妥当でなくなった行政行為について、法令上明文の規定がなくても、その効力を将来にわたり消滅させることができる。
昭和63年6月17日最高裁第二小法廷集民154号201頁(優生保護法指定医の指定取消処分取消等請求事件)
違法性の承継と代執行戒告
除却命令が無効である場合、無効な行政行為には公定力が生じないため、代執行法3条1項に基づく戒告の取消訴訟においても、前提となる除却命令が無効であることを主張して戒告の取消しを求めることができる。
昭和30年12月26日最高裁第三小法廷民集9巻14号2070頁(耕作権確認並耕地引渡請求)
課税処分の当然無効
課税処分のように第三者の保護を考慮する必要のない処分は、明白な瑕疵を有していなくても、当然無効となる場合がある。
昭和48年4月26日最高裁第一小法廷民集27巻3号629頁(所得税賦課処分無効確認等請求)
運転免許の取消しの撤回としての性質
道路交通法に基づく運転免許を受けた者が違反行為をしたことを理由に運転免許を取り消す処分は、免許付与後に生じた事由に基づくものであり、学問上の「撤回」に当たり、「職権取消し」ではない。
昭和63年6月17日最高裁第二小法廷集民154号201頁(優生保護法指定医の指定取消処分取消等請求事件)