条文・判例・学説を体系的に整理
国家賠償法1条と公務員の行為
国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずると規定している。
平成9年9月9日最高裁第三小法廷民集51巻8号3850頁(損害賠償)
国家賠償の公務員の不法行為の範囲
憲法17条が定める「公務員の不法行為」には、権力作用によるものばかりでなく非権力作用によるものも含まれる。
平成14年9月11日最高裁大法廷民集56巻7号1439頁(損害賠償請求事件)
国等の私的経済取引と賠償責任
国や公共団体が行う純粋な私的経済取引に基づく私法関係については、民法等の私法の規律に従って賠償責任の有無が判断される。
不起訴事実の拘束と実質的無罪の刑事補償
不起訴となった被疑事実に基づく抑留又は拘禁そのものは憲法40条の補償の問題とならないが、そのうちに実質上無罪となった事実についての抑留又は拘禁と認められるものがあるときは、その部分は刑事補償の対象となる。
昭和31年12月24日最高裁大法廷刑集10巻12号1692頁(刑事補償請求棄却決定に対する抗告棄却の決定に対する特別抗告)
少年審判の不処分と無罪の裁判の区別
少年審判手続における不処分決定は、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、刑事補償法1条1項の「無罪の裁判」に当たらず、このように解しても憲法40条に違反しない。
平成3年3月29日最高裁第三小法廷刑集45巻3号158頁(刑事補償及び費用補償請求事件についてした即時抗告棄却決定に対する特別抗告)
刑事補償と国家賠償の要件の違い
抑留又は拘禁の上、起訴された者が無罪となった場合、刑事補償に加えて国家賠償も請求することができるが、刑事補償は公務員の故意・過失を要件としないのに対して、国家賠償はそれらを要件とする。
憲法17条と故意に限定する賠償立法
憲法17条にいう「不法行為」を民法上の不法行為(故意又は過失による加害)と同義と解する見解によれば、国家賠償法1条を改正して公務員に故意がある場合にのみ賠償請求権が発生すると定めることは、憲法17条に違反すると解される。
国会の組織的行為と免責特権
国家賠償法1条1項の適用上、国会議員個々人ではなく国会自体の組織的行為を評価すれば足りると解する立場では、議員個人の院外での責任を免除する憲法51条の免責特権は、国会の不法行為を理由とする国家賠償責任追及の法的障害とはならない。
違憲立法と国家賠償法上の違法性
国会議員の立法行為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは立法内容の違憲性の問題とは区別され、立法の内容が違憲であっても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
昭和60年11月21日最高裁第一小法廷民集39巻7号1512頁(損害賠償)
国家賠償の代位責任説と公務員個人責任
国家賠償法1条の責任を公務員自身が負う責任を国等が代位するもの(代位責任)と解する立場では、被害者は加害公務員個人に直接損害賠償を請求することはできないとされ、判例も公務員個人は被害者に対して責任を負わないとしている。
昭和30年4月19日最高裁第三小法廷民集9巻5号534頁(農地委員会解散命令無効確認並に慰藉料請求)
経済政策による預貯金目減りと国賠責任
物価の安定等の政策目標を実現するために政府がいかなる措置をとるべきかは政府の裁量的な政策判断に委ねられており、その判断を誤り目標を達成できなかったとしても、政府の政治的責任が問われることがあるのは格別、法律上の義務違反ないし違法行為として国家賠償法上の損害賠償責任の問題を生ずるものではない。
昭和57年7月15日最高裁第一小法廷集民136号571頁(庶民貯金減価損害賠償)