条文・判例・学説を体系的に整理
憲法35条の保障対象と私的領域
憲法35条は住居、書類及び所持品について侵入、捜索及び押収を受けることのない権利を規定しているが、この規定の保障対象には住居、書類及び所持品に準ずる私的領域に侵入されることのない権利が含まれる。
平成29年3月15日最高裁大法廷刑集71巻3号13頁(GPS捜査事件)
黙秘権と氏名の供述
憲法38条1項は自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障しているが、氏名の供述はこれによって刑事上の責任を問われるおそれがある場合を除き、原則として同項の保障の対象とはならない。
昭和32年2月20日最高裁大法廷刑集11巻2号802頁(威力業務妨害、公務執行妨害、傷害)
憲法31条と条例
憲法31条を、刑罰を科する場合には法律で定める手続によらなければならないという要求のみを規定したものと解する見解は、条例で刑罰を科する手続を定めることの可否について述べるものではない。
手続の適正と罪刑法定主義
憲法31条が、刑罰を科する場合の手続が法律で定められなければならないことと手続が適正なものでなければならないことを規定したものであるとする見解からは、同条は罪刑法定主義を定めた規定ではなく、その根拠は憲法の別の条文に求めなければならないという結論が導き出せる。
実体の法定適正と罪刑の均衡
憲法31条が刑罰を科する場合の手続の法定とその適正のみならず実体の法定とその適正をも要求する規定であると解する場合、処罰の必要性及び合理性、罪刑の均衡を要求する根拠は憲法31条に求められる。
適正手続規定の文理と行政手続の適用
憲法31条の文言は生命・自由の剥奪や刑罰に関するものであり、行政手続に触れていないから、文理解釈によれば、行政手続への同条の適用あるいは準用を否定する見解を導くことができる。
平成4年7月1日最高裁大法廷民集46巻5号437頁(工作物等使用禁止命令取消等)
緊急逮捕前の捜索押収と憲法35条
緊急逮捕のため被疑者方に赴いたところ被疑者がたまたま他出不在であっても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押えがなされ、かつ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押えは緊急逮捕する場合その現場でなされたものとして、令状なくしても憲法35条に反しない。
昭和36年6月7日最高裁大法廷刑集15巻6号915頁(麻薬取締法違反)
麻薬帳簿の記入義務と不利益供述拒否権
麻薬取扱者として麻薬を取り扱った以上、その麻薬が正規の手続を経ていないものであっても帳簿記入の義務を免れず、その記入が違反行為の発覚の端緒となるとしても、記帳義務違反の罪の成立は妨げられない。
昭和47年11月22日最高裁大法廷刑集26巻9号554頁(所得税法違反)
少年の不処分決定と刑事補償
非行事実が認められないことを理由とする少年法上の不処分決定は、刑訴法上の手続における無罪の確定裁判ではなく、刑事補償法1条1項にいう「無罪の裁判」には当たらない。
平成3年3月29日最高裁第三小法廷刑集45巻3号158頁(刑事補償及び費用補償請求事件についてした即時抗告棄却決定に対する特別抗告)
弁護人依頼権の趣旨と接見交通権
憲法34条前段の弁護人依頼権の規定は単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障しているものと解すべきであり、刑事訴訟法39条1項の接見交通権は34条の趣旨にのっとり設けられたものである。
平成11年3月24日最高裁大法廷民集53巻3号514頁(損害賠償)
事故報告義務と不利益供述拒否権
交通事故を起こした運転者に事故発生の日時・場所・死傷者の数等の報告を義務付ける法律は、刑事責任を問われるおそれのある事故の原因等の報告まで義務付けるものではなく、交通の安全を図るためのものであるから憲法38条1項に違反しない。
昭和37年5月2日最高裁大法廷刑集16巻5号495頁(重過失致死、道路交通取締法違反)
刑事手続における人権保障
憲法31条から40条は刑事手続における人権保障を規定しており、適正手続の保障、令状主義、黙秘権、弁護人依頼権、自白法則、拷問の禁止、刑事補償請求権等を含む。
憲法40条の趣旨
憲法40条は、抑留又は拘禁された後に無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより国に補償を求めることができると定めており、補償の要件は無罪の裁判を受けたことで、その手続が憲法31条以下の諸権利の保障に反していたことは要件とされていないから、手続に違法がなかった場合でも、多大な犠牲を被った者に金銭による事後的救済を与える趣旨の規定である。
刑事補償請求権の要件
憲法40条の刑事補償請求権は、抑留又は拘禁された後に無罪の裁判を受けたことを要件とし、その補償の内容は法律で定めるところによる。
余罪と実質的処罰の禁止
起訴されていない犯罪事実を余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮し、被告人を重く処罰することは、不告不理の原則に反し憲法31条に違反するのみならず、自白に補強証拠を必要とする憲法38条3項の制約を免れることとなるおそれがあって許されない。
昭和42年7月5日最高裁大法廷刑集21巻6号748頁
迅速な裁判を受ける権利の裁判規範性
憲法37条1項の迅速な裁判を受ける権利の保障条項は、個々の刑事事件について、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害せられたと認められる異常な事態が生じた場合には、これに対処すべき具体的規定がなくても、その審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めている趣旨の規定であり、高田事件では免訴の言渡しにより審理が打ち切られた。
昭和47年12月20日最高裁大法廷(高田事件)
ビデオリンク方式と裁判の公開
ビデオリンク方式による証人尋問が行われても、さらに傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られても、審理が公開されていることに変わりはないから、これらを定める刑事訴訟法の規定は憲法82条1項、37条1項に違反せず、ビデオリンク方式は裁判の公開原則の例外として位置づけられているものではない。
平成17年4月14日最高裁第一小法廷
意に反する苦役の禁止
憲法18条は何人もいかなる奴隷的拘束も受けず、犯罪による処罰の場合を除いてはその意に反する苦役に服させられないと定める。
迅速な裁判と公開裁判の保障
憲法37条1項はすべて刑事事件においては被告人は公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有すると定める。
憲法35条と行政手続への準用
憲法35条1項は本来主として刑事責任追及の手続における強制について司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であり、判例は、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで一切の強制が当然に同項の保障の枠外にあると判断することは相当ではないとしたにとどまり、それ以外の手続にも同項の保障が等しく及ぶとはしていない。
昭和47年11月22日最高裁大法廷刑集26巻9号554頁(所得税法違反)