条文・判例・学説を体系的に整理
人権の私人間効力の間接適用説の手法
間接適用説は、民法90条の公序良俗や民法709条の不法行為等の私法の一般条項の解釈に憲法の趣旨を取り込むことで、私人間の人権侵害に対する救済を図る。
自衛隊用地売買と憲法9条の直接適用
国が自衛隊の用地取得のために私人と締結した土地売買契約は、当該契約が実質的にみて公権力の発動たる行為と何ら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず私法の適用を受けるにすぎない。
平成元年6月20日最高裁第三小法廷民集43巻6号385頁(不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加)
間接効力説の特徴
間接効力説は、私法の一般条項に人権価値を充塡しようとするものであるから、充塡の程度により結論が大きく異なり得る。
間接効力説と国家権力
間接効力説は、私人による人権侵害の危険性が増大していることに対応しようとするものであるが、国家権力がなお人権にとっての最大の脅威であることを無視しているわけではない。
国の私法上の契約と公権力発動の例外
国が私人と対等の立場で締結する私法上の契約は、成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為と変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私法の適用を受けるにすぎない。
平成元年6月20日最高裁第三小法廷民集43巻6号385頁(不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加)
私人間の人権非適用説と国家社会二元論
人権規定は特段の定めのある場合を除いて私人間に適用されないとする説は、憲法は国家対国民の関係を規律するという考え方を根拠とし、人権がすべての法秩序に妥当すべき価値であるとの考え方は、この説への批判として挙げられる。
人権の直接適用説への批判
憲法の人権規定を私人間に直接適用する説に対しては、私的自治の原則(契約自由の原則)が害されること、基本的人権の対国家的性質が変質ないし希薄化するおそれがあることが批判として挙げられる。
私人間の人権非適用説と間接適用説
社会的権力による人権侵害の危険性の増大を看過しているという批判は、人権規定は私人間に適用されないとする非適用説に向けられるものであり、私法の一般条項を通じて憲法の趣旨を取り込む間接適用説はこれに応える通説・判例の立場である。
社会的権力と国家支配の性質の区別
私人間の社会的力関係の優劣は、法的裏付けないし基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣にすぎず、国又は公共団体の支配が権力の法的独占に基づいて行われる場合とは性質上の相違があるとして、人権規定の適用ないし類推適用を認める見解は採用できないとされる(最大判昭48.12.12)。
昭和48年12月12日最高裁大法廷民集27巻11号1536頁(三菱樹脂事件)
三菱樹脂事件の秘匿と本採用拒否
三菱樹脂事件判決は、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも当然に違法となるものではないとしたが、本採用の拒否(留保解約権の行使)は客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるとしており、入社試験の際に学生運動歴を秘匿していたことを理由に本採用を拒否できるとはしていない。
昭和48年12月12日最高裁大法廷民集27巻11号1536頁(三菱樹脂事件)
私立大学の学生規律権能の限界
憲法の自由権的基本権の保障規定は私人相互間の関係について当然に適用ないし類推適用されるものではなく、私立大学の学生を規律する包括的権能は、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認される。
昭和49年7月19日最高裁第三小法廷民集28巻5号790頁(身分確認請求)
男女別定年制と公序良俗
女子の定年年齢を男子より低く定めた就業規則の部分は、企業経営上の観点から女子を差別しなければならない合理的理由が認められず、専ら女子であることのみを理由とした性別のみによる不合理な差別を定めたものとして、民法90条の規定により無効であり、この判断に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等を定める民法の規定とともに憲法14条1項が参照される。
昭和56年3月24日最高裁第三小法廷民集35巻2号300頁(雇傭関係存続確認等)