条文・判例・学説を体系的に整理
不能犯の具体的危険説
具体的危険説は、行為当時に一般人が認識し得た事情及び行為者が特に認識した事情を基礎とし、一般人を基準に結果発生の危険性があるか否かを判断する。
不能犯の客観的危険説
客観的危険説は、実際に存在した事実のほかにどのような事実が存在すれば結果が発生し得たかを事後的見地から検討し、そのような事実が行為時に存在し得る可能性の程度を考慮して判断する。
具体的危険説と行為者の特別認識
具体的危険説では、行為者が特に認識した事情も判断の基礎とされるので、結果を引き起こす特別な事情を認識している行為者による行為には結果発生の危険性が認められ、その事情を認識していない行為者による行為には結果発生の危険性が認められない場合がある。
具体的危険説と毒薬の誤信
具体的危険説によれば、一般人ならば明らかに砂糖と分かる黒糖を毒薬と思い込んで飲ませた場合、行為者の誤認した事情は判断基礎に含めず、一般人の認識を基準に危険性を判断する。
具体的危険説と科学的説明
具体的危険説によれば、結果が発生しなかった原因が科学的に説明できる場合であっても、行為時に一般人の認識を基準に危険性があれば未遂犯となりうる。
空気注射と殺人未遂罪
具体的危険説によれば、人を殺そうとして客観的には死の結果を引き起こさない量の空気を血管内に注射した場合でも、一般人の認識を基準に死の危険性が認められれば殺人未遂罪が成立しうる。
昭和37年3月23日最高裁第二小法廷刑集16巻3号305頁(殺人未遂)
不能犯の意義
その行為によっては絶対に行為者の予見する結果を惹起することができない場合(不能犯)は、未遂罪としても処罰されず、殺人罪は既遂にも未遂にもならない。
昭和23年9月18日最高裁第二小法廷集刑4号111頁
不能犯の具体的危険説の判断基礎
具体的危険説(行為当時に一般人が認識し得た事情を基礎とし、一般人を基準に具体的危険性を判断する見解)によれば、毒薬のラベルが付いた容器の粉が実はブドウ糖であっても、一般人が認識し得た毒薬の水溶液を注射する行為として危険性を判断して殺人未遂罪の成立を認め、また、行為者が特に認識していた事情も考慮するので、一般人が認識し得なかったアレルギー体質を行為者が知っていた場合にも未遂犯の成立を認めることができる。
客観的危険説の徹底と不能犯の拡大
行為当時に存在したすべての客観的事情を基礎として危険性を判断する見解(客観的危険説)を理論的に徹底すると、結果が不発生に終わった事案は、ほとんど常に不能犯となってしまう。
修正客観的危険説と誤った薬剤の希少性
修正された客観的危険説では、実際に存在したブドウ糖を健康な者に注射することの危険性を判断するだけでなく、毒薬のラベルのある容器にブドウ糖が入っていた原因・経緯も考慮し、その原因・経緯が極めてまれで異常であったという事情は、毒薬が入っていた可能性が高かったことを意味し、不能犯を否定する(未遂犯を認める)方向に働く。
不能犯と未遂犯の具体的危険性の区別
不能犯と未遂犯は、結果発生の具体的危険性の有無によって区別され、危険性の判断の基礎とする事情と判断方法は、見解(具体的危険説・客観的危険説等)によって異なる。