条文・判例・学説を体系的に整理
財産権規制の目的の多様性と森林法判決
財産権に対し規制を要求する社会的理由ないし目的は、社会政策・経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消極的なものまで多岐にわたるとしたのは、最大判昭和62年4月22日(森林法違憲判決)である。
昭和62年4月22日最高裁大法廷民集41巻3号408頁(共有物分割等)
区分所有法の建替え決議の合憲性判断
最判平成21年4月23日は、団地内全建物一括建替え決議の要件を定める区分所有法70条1項が憲法29条に違反するかどうかについて、規制の目的、必要性、内容、その規制によって制限される財産権の種類、性質及び制限の程度等を比較考量して判断し、同条に違反しないとした。
平成21年4月23日最高裁第一小法廷集民230号435頁(所有権移転登記手続等請求事件)
区分所有権に内在する集会決議の制限
区分所有権の行使は、他の区分所有権の行使との調整が不可欠であり、区分所有者の集会の決議等による他の区分所有者の意思を反映した行使の制限は、区分所有権自体に内在するものであって、区分所有権の性質というべきものである。
平成21年4月23日最高裁第一小法廷集民230号435頁(所有権移転登記手続等請求事件)
財産権保障と立法府の規制の合憲性
憲法29条は私有財産制度を保障しているのみでなく、社会的経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権を基本的人権として保障するとともに、社会全体の利益を考慮して財産権に対し制約を加える必要性が増大したため、立法府は公共の福祉に適合する限り財産権について規制を加えることができるとしている。
昭和62年4月22日最高裁大法廷民集41巻3号408頁(共有物分割等)
森林法の共有林分割制限の立法目的
森林法186条(共有森林の分割請求権の制限)の立法目的は、森林の細分化を防止して森林経営の安定を図り、ひいては森林の保続培養と森林生産力の増進を図り、もって国民経済の発展に資することにあり、最高裁は、この目的自体は是認しつつ、規制手段が目的を達成するための必要性・合理性に欠けるとして同条を違憲とした。
昭和62年4月22日最高裁大法廷民集41巻3号408頁(共有物分割等)
法律による財産権保障説への批判
憲法29条1項は法律で定める財産権の不可侵を規定したものであるとする見解に対しては、同項が法律で定める財産権を保障するにすぎないというのでは憲法規範としての意義が著しく減殺されるとの批判がある。
私有財産制度による資本主義保障説
憲法29条1項の私有財産制度の保障は生産手段の私有を内容とする資本主義体制の保障を意味するとする見解は、単に個人の生存に不可欠の物的手段のみを保障する趣旨ならばその点を明示したはずであることや、22条1項が営業の自由を保障していることを論拠とする。
生活手段としての財産権と産業国有化
憲法29条1項の財産権を人間としての価値ある生活を営む上に必要な物的手段の享有と解する見解は、基幹産業の国有化は同条3項の正当な補償を条件として同条2項の公共の福祉を実現する立法府の裁量に委ねられているとする考え方と両立する。
災害防止目的の財産権制限と補償
法律の規定により財産上の権利の行使が制限される場合であっても、災害を未然に防止するという社会生活上のやむを得ない必要からその制限が当然受忍すべきものであるときは、憲法29条3項による損失補償を要しない。
昭和38年6月26日最高裁大法廷刑集17巻5号521頁(ため池の保全に関する条例違反)
特別の犠牲と損失補償
公共の福祉のためにする一般的な財産権の制限は原則として何人も受忍すべきものであり損失補償を要しないが、財産上の権利の制限が一般的に当然に受忍すべきものとされる範囲を超えて特別の犠牲を課すものであるときは、憲法29条3項の趣旨に照らし、同項を根拠として補償を請求する余地がある。
昭和43年11月27日最高裁大法廷刑集22巻12号1402頁(河川附近地制限令違反)
補償規定なき法律と29条3項
財産上の権利の行使を制限する法律が補償規定を欠いている場合であっても、相当の資本を投入してきた者が一般的に当然受忍すべきものとされる範囲を超えて制限を受けるときは、憲法29条3項を根拠として補償請求をする余地がある。
昭和43年11月27日最高裁大法廷刑集22巻12号1402頁(河川附近地制限令違反)
損失補償の内容の合憲性審査
財産上の権利の行使を制限する法律に補償規定が置かれている場合であっても、その法律は、補償の内容が憲法29条3項の要求する水準(正当な補償)にあるか否かについて、憲法適合性の審査の対象となる。
昭和28年12月23日最高裁大法廷民集7巻13号1523頁(農地買収に対する不服申立(特別上告))
森林法共有林分割制限と財産権
最大判昭62.4.22は、財産権を規制する立法は、規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、規制手段が目的達成の手段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかであって立法府の判断が合理的裁量の範囲を超える場合に限り29条2項に違反するとした上で、森林法186条の共有林分割制限は立法目的との関係で合理性と必要性のいずれも肯定できないことが明らかであるとして、29条2項に違反し無効とした。
昭和62年4月22日最高裁大法廷民集41巻3号408頁(共有物分割等)
財産権の保障と公共の福祉
財産権は憲法29条1項により保障されるが、同条2項により公共の福祉に適合するよう法律で内容を定めることができる。
昭和62年4月22日最高裁大法廷民集41巻3号408頁(共有物分割等)
事後法による財産権の内容変更
法律で一旦定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福祉に適合するようにされたものである限り、憲法29条に違反しない。
昭和53年7月12日最高裁大法廷民集32巻5号946頁(国有財産買受申込拒否処分取消)
第三者所有物没収事件と所有権剥奪
最大判昭和37年11月28日(第三者所有物没収事件)は、没収の言渡しにより第三者の所有権自体が剥奪される効果が生じることを前提として判断した。
昭和37年11月28日最高裁大法廷刑集16巻11号1593頁(第三者所有物没収事件)
森林法共有林分割制限違憲判決
共有林の分割請求を持分価額2分の1以下の共有者に認めない森林法の規定は、財産権に対する規制として立法目的との関係で合理性と必要性を欠き、憲法29条2項に違反して無効である。
昭和62年4月22日最高裁大法廷民集41巻3号408頁(共有物分割等)
憲法29条の財産権保障
憲法29条は1項で財産権の不可侵を、2項で財産権の内容は公共の福祉に適合するよう法律で定めるとし、3項で正当な補償の下に公共のために用いることができると規定する。
憲法29条1項の二重の保障
憲法29条1項が保障する財産権の不可侵には、私有財産制という制度の保障と個人が現に有する具体的な財産上の権利の保障という二重の意味が含まれる。
昭和62年4月22日最高裁大法廷民集41巻3号408頁(共有物分割等)
慣習法上の権利と財産権
憲法29条2項は財産権の内容は法律で定めるとするが、憲法上の財産権には制定法上の権利のみならず、入会権のような慣習に基づく伝統的な権利も含まれる。