条文・判例・学説を体系的に整理
建築確認の国賠上の違法と通常の注意
建築主事が、職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらず、その注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果、建築確認を行ったと認められる場合、当該建築確認は国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
平成25年3月26日最高裁第三小法廷集民243号101頁(損害賠償請求事件)
弁護士会照会の前科報告と公権力の行使
市区町村長が弁護士法23条の2に基づく照会に応じて前科及び犯罪経歴を報告することは、国家賠償法1条1項にいう「公権力の行使」に当たる。
昭和56年4月14日最高裁第三小法廷民集35巻3号620頁(損害賠償等)
違法処分の国家賠償請求と取消判決の要否
行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ当該行政処分につき取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではない。
昭和36年4月21日最高裁第二小法廷民集15巻4号850頁(宅地買収不服、所有権確認請求)
市議の議会内発言と国家賠償の職務関連性
市議会議員が議会内における一般質問の際に行った発言は、その発言内容にかかわらず、国家賠償法1条1項にいう「その職務を行うについて」されたものに該当する(発言が違法と評価されるかは別の問題である)。
平成9年9月9日最高裁第三小法廷民集51巻8号3850頁(損害賠償)
在外国民選挙権の立法不作為と国家賠償
国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合には、国会議員の立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受ける。
平成17年9月14日最高裁大法廷民集59巻7号2087頁(在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件)
一連の職務行為による被害と加害行為特定
国又は公共団体の公務員による一連の職務上の行為の過程において他人に被害を生ぜしめた場合において、それが具体的にどの公務員のどのような違法行為によるものであるかを特定することができなくても、一連の行為のうちのいずれかに行為者の故意又は過失による違法行為があったのでなければ被害が生ずることはなかったであろうと認められ、かつ、国又は公共団体が賠償責任を負うべき関係が存在するときは、国又は公共団体は、加害行為不特定の故をもって国家賠償法上の責任を免れることができない。
昭和57年4月1日最高裁第一小法廷民集36巻4号519頁(損害賠償)
公務員の共同故意行為の国への求償債務
国家賠償法1条2項は求償権を定めるにとどまり、複数の公務員が共同して故意に加えた損害について国が賠償した場合の各公務員の求償債務は、責任割合に応じた分割債務ではなく、共同不法行為(民法719条)の関係に立つ各公務員が連帯して負うものと解される。
令和2年7月14日最高裁第三小法廷民集74巻4号1305頁(求償権行使懈怠違法確認等請求及び共同訴訟参加事件)
職務行為の外形理論
警察官が専ら自己の利を図る目的で職務執行を装って私人に職務質問をし、犯罪の証拠物名義で預かった所持品を不法に領得するため拳銃で当該私人を射殺した事案につき、警察官の上記行為は客観的に職務執行の外形を備えているから、国家賠償法1条1項にいう「その職務を行うについて」違法に他人に損害を加えたときに該当する。
昭和31年11月30日最高裁第二小法廷民集10巻11号1502頁(損害賠償請求)
パトカー追跡と国賠法上の違法性
警察官のパトカーによる追跡を受けて車両で逃走する者が惹起した事故により第三者が損害を被った場合において、当該追跡行為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるというためには、追跡が職務の目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走車両の走行の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無・内容に照らして追跡の開始、継続若しくは方法が不相当であることを要し、追跡が必要であり、かつ、その開始、継続及び方法が相当であれば、第三者に対する関係でも違法とはならない。
昭和61年2月27日最高裁第一小法廷民集40巻1号124頁(損害賠償)
裁判官の裁判と国家賠償責任
裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法1条1項にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とし、このような特別の事情があれば国の賠償責任が肯定され得る。
昭和57年3月12日最高裁第二小法廷民集36巻3号329頁(損害賠償)
公的事務の被用者個人責任と民法の適用
国又は公共団体以外の者の被用者が行う行為が国又は公共団体の公権力の行使に当たり、国又は公共団体が被害者に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負う場合には、被用者個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わず、使用者も民法715条に基づく損害賠償責任を負わない。
平成19年1月25日最高裁第一小法廷民集61巻1号1頁(損害賠償請求事件)
公務員の失火と失火責任法の適用
公権力の行使に当たる公務員の失火による国又は公共団体の損害賠償責任についても、失火ノ責任ニ関スル法律が適用されるから、当該公務員に重大な過失があると認められない限り、国又は公共団体は国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負わない。
昭和53年7月17日最高裁第二小法廷民集32巻5号1000頁
違法な行政処分と国家賠償請求
行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては、あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではなく、当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならない。
平成22年6月3日最高裁
建築確認と建築主事の国家賠償責任
建築士の設計に係る建築物の計画について確認をする建築主事は、申請をする建築主との関係でも違法な建築物の出現を防止すべき職務上の法的義務を負い、職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたのに、その注意を怠って漫然と看過して建築確認を行ったと認められる場合には、当該確認は国家賠償法1条1項の適用上違法となり、建築主事が所属する公共団体の国家賠償責任が生じ得る。
平成25年3月26日最高裁第三小法廷
公務員の過失と違法な命令への依拠
監獄の長が行った未成年者との面会を拒否する処分が旧監獄法による委任の範囲を超えた命令に基づいていることを理由として違法とされたとしても、当該命令の適法性につき長期間にわたって実務上特に疑いを差し挟む解釈をされたこともなく裁判上とりたてて問題とされたこともないといった事情があり監獄の長にとって当該命令が委任の範囲を超えることを容易に理解できなかった場合には、上記の違法を理由とする国家賠償責任は認められない。
平成3年7月9日最高裁第三小法廷
公訴提起・追行の国家賠償上の違法性
刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに公訴の提起・追行が国家賠償法上違法となるものではなく、起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、公訴の提起・追行は違法とならない。
昭和53年10月20日最高裁第二小法廷民集32巻7号1367頁(国家賠償)
税務署長の更正処分と違法性
税務署長のする所得税の更正は、所得金額を過大に認定していたとしても、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と更正をしたと認め得る事情がある場合に限り、国家賠償法上違法と評価される。
平成5年3月11日最高裁第一小法廷民集47巻4号2863頁(損害賠償)
国家賠償の違法性と行政の判断過程
国家賠償法上の違法性の判断において、起訴時の検察官の判断(最判昭和53年10月20日)と税務署長の更正(最判平成5年3月11日)は、いずれも、公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたか、合理的な判断過程によったかを基準とする(職務行為基準の)考え方で共通する。
逮捕状更新中の国家賠償請求
逮捕状が発付されたものの被疑者の逃亡により執行ができず逮捕状の更新が繰り返されているにすぎない時点で、逮捕状の請求・発付における捜査機関又は令状発付裁判官の判断の違法を主張して国家賠償を請求することは許されない。
平成5年1月25日最高裁第二小法廷民集47巻1号310頁(損害賠償)
県警察の捜査と国の責任
都道府県警察の警察官が交通犯罪の捜査を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合、国は、原則として、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負わない。
昭和54年7月10日最高裁第三小法廷民集33巻5号481頁(損害賠償)