2026年 司法試験 論文式 倒産法 第1問
問題
配点 50点[倒 産 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の【事例】について、以下の設問に答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和8年1月1日現在において施行されている法令に基づいて答えなさい。
【事 例】
A社は、主に中小出版社を取引相手として書籍等の印刷を行うことを業とする株式会社である。A社の業績は、近年、社会のデジタル化の進展により急激に悪化し、令和4年以降、紙やインクの仕入先への支払が滞りがちになっていた。A社は、メインバンクであるB銀行からの借入金(以下「本件借入金」という。)につき分割払が遅滞していたことから、令和6年11月20日、約定に基づき本件借入金の全額について期限の利益を喪失した。期限の利益喪失時の本件借入金の残高は2億円であった。A社は、B銀行に、本件借入金について、返済を猶予してもらえないか、また、令和4年より前から預け入れていた定期預金1000万円(以下「本件定期預金1」という。)との相殺も控えてもらえないか、内々に相談した。
相談を受けたB銀行は、A社が本件借入金を返済できるようになる見通しも立たない財務状況であったことを踏まえ、令和6年12月10日、➀A社が印刷代金を回収する際の振込口座としてB銀行の当座預金口座を指定すること、➁振り込まれた印刷代金の半額を一定期間ごとに定期預金に振り替える(以下、振替後の定期預金を「本件定期預金2」という。)ことを条件として、当面は本件借入金の請求及び本件定期預金1との相殺を控える旨を提案し、A社は、同日、これに応じた(以下「本件合意」という。)。なお、本件合意は、B銀行が事実上本件借入金の返済等を猶予したものに過ぎず、A社に期限の利益を付与するものではなかった。
A社は、本件合意後、ますます支払に窮するようになり、仕入先からも現金による即時決済でなければ取引に応じてもらえなくなった。
A社は、令和7年2月15日、印刷用の紙を仕入れる必要が生じたが、即時決済をするための手持ちの現金がなかったことから、代表者同士が懇意にしていた同業のC社に対し、窮状を訴えて借入れを懇請した。C社は、令和4年より前にA社に貸し付けた50万円(以下「従前貸付け」という。)の返済が全額遅滞している状況にあったものの、A社の窮状を見かねて、令和7年2月16日、同年3月5日までに返済するよう述べた上で、A社に対して100万円を貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。A社は、同年2月17日、本件貸付けに係る100万円の現金でもって印刷用の紙の仕入れを行った。
A社は、令和7年3月5日、取引先から、印刷代金150万円を現金で回収して、同現金により、C社に対し、従前貸付け50万円及び本件貸付け100万円の合計150万円を弁済した(以下「本件弁済」という。)。なお、C社は、A社が本件借入金について期限の利益を喪失していること、仕入先に対する買掛債務の支払が滞っていること、これらに対する支払能力がないことも知った上で、本件弁済を受けたものであった。
A社では、従業員に対する給与の支給日は翌月1日とされていたが、令和7年4月分が全額未払となっており、同年5月分についても支払の見通しが立たなかったため、同年5月31日、A社の従業員全員が退職した。A社は、同年6月1日、A社のかつての代表者Dに対し、退職した従業員らに対する未払給与の立替払をしてもらえないか懇請した。Dは、退職した従業員らの生活を案じて、4月分及び5月分の未払給与合計200万円についてDが一旦立て替えることを了承し、同年6月3日、A社の代わりにこれを支払った(以下「本件立替払」という。)。
A社は、令和7年6月10日に破産手続開始の申立て(以下「本件申立て」という。)を行い、裁判所は、同月18日、破産手続開始の決定(以下「本件開始決定」という。)をし、破産管財人として弁護士Xを選任した。
本件開始決定時において、A社に公租公課の滞納はなく、本件借入金の残高は2億円であり、A社の定期預金の額は、本件定期預金1が1000万円、本件定期預金2が800万円の合計1800万円であった。
〔設 問〕以下の1から3については、それぞれ独立したものとして解答しなさい。
1 Ⅹは、B銀行に対し、預金契約に基づく払戻請求権の行使として、本件定期預金1及び本件定期預金2の支払を求めることができるか否かについて、考えられるB銀行の主張及びⅩの主張も踏まえて論じなさい。なお、払戻請求時において、本件定期預金1及び本件定期預金2は、いずれも満期が到来していたものとし、利息及び遅延損害金については考慮する必要がないものとする。
2 Ⅹは、C社に対する本件弁済を否認できるか否かについて、考えられるC社の反論も踏まえて論じなさい。
3 Dが、本件立替払としてA社の元従業員らに支払った200万円を破産財団から回収するには、どのような請求権に基づき、どのような方法で行うのが適切かについて、そのように考える理由とともに論じなさい。
出典:法務省「2026年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。