2026年 司法試験 論文式 租税法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
Aは、あるビルの1階を店舗として賃借し、長年「B」の屋号で、個人事業主として寿司屋(以下「B店」という。)を営んできた(以下「本件事業」という。)。Aは、青色申告の承認を受け、本件事業から生じる所得につき、青色申告書を提出して確定申告をし、毎年多額の所得税を納付していた。また、Aは、幼なじみのCに頼まれ、Cが主たる株主で、代表取締役でもある同族会社D(以下「D社」という。)の非常勤取締役を平成22年4月から務めていた。もっとも、Aは、D社において、取締役会に1年に1回、特に発言もせずに出席する程度の業務しか行っておらず、報酬を受け取っていなかった。
Aは、令和3年2月頃に体調を崩したことから、本件事業に注力するため、D社の同年3月期(令和2年4月1日から令和3年3月31日までの事業年度をいい、他の事業年度も同様に表記する。)の末日に非常勤取締役を辞任した。Aの辞任に際し、Cは、Aが暗号資産取引に興味を示していたこともあり、Aに対し、役員退職慰労金として、D社がE暗号資産取引所(以下「E取引所」という。)に設けていた暗号資産取引口座にある暗号資産(資金決済に関する法律第2条第14項に規定するものであり、以下「本件資産」という。)200単位を譲渡することを打診した。Aは、同年4月10日、本件資産をD社から譲り受けることを内諾し、E取引所に自己名義の暗号資産の取引口座を設けた。同月16日、D社の株主総会において、Aに対し、役員退職慰労金として本件資産200単位を譲渡することが決議されたが、Aに対する本件資産の譲渡が不相当に高額な役員退職給与に該当するのではないかと懸念されたため、D社の帳簿書類上は、取引先Fに対して販売手数料を暗号資産で支払ったものとして処理することとされた。同日、E取引所において、D社の取引口座からFの取引口座を経由し、Aの取引口座に本件資産200単位が移された。同日における本件資産の価額(時価)は、1単位当たり10万円であり、D社の帳簿書類上その原価の額は、1単位当たり1万円であった。
Aは、令和4年夏頃に更に体調が悪化し、本件事業の継続が困難になったため、同年12月末日限りでB店を閉じて静養することにした。本件事業は、同月24日の最終営業日まで好調であり、そのため、令和4年分のAの所得税額も200万円程度になった。Aは、顧客Gが同月15日にB店で実施した忘年会の代金20万円(以下「本件売掛金」という。)を、同月末日までに回収できていなかったが、同額を令和4年分の本件事業に係る総収入金額に算入した。Aは、上記忘年会後は音沙汰のなかったGから本件売掛金を回収するため、令和5年6月30日、Gの自宅に赴いた。しかし、Gは令和5年に入って仕事を失い、高齢で再就職のめどが立たず、資産もないため、本件売掛金を全く支払うことができず、今後も支払の見込みがない状況であった。
B店の従業員であったHは、Aの許しを得て、令和5年2月、かつてAが賃借していた店舗を新たに賃借し、「B」の屋号を用い、個人事業主として寿司屋を開業した。Hは、税務に関する知識が乏しく、青色申告承認申請を行っていなかったが、令和5年分の所得税につき、Aが行っていたように青色申告書により確定申告を行った。Hは、令和6年分及び令和7年分についても同様に確定申告を行ったが、所轄税務署から何も指摘を受けなかった。ところが、Hは、令和8年4月、所轄税務署による調査を受け、調査担当者から、いわゆる白色申告を前提とする修正申告をするよう勧奨された。Hがこれを拒否したため、所轄税務署長は、同年7月、令和5年分から令和7年分のHの所得税について、白色申告を前提とする増額更正処分をした。
以上の事案について、以下の設問に答えなさい。解答に当たっては、理由を付し、根拠条文がある場合はそれを明記しなさい。ただし、租税特別措置法の適用は考慮しないものとし、事案中の年月日にかかわらず、令和8年1月1日現在において施行されている法令に基づいて解答しなさい。
〔設 問〕
1 D社がFの取引口座を経由してAに移した本件資産につき、D社の令和4年3月期の所得の金額の計算上、益金の額と損金の額に算入すべき額をそれぞれ答えなさい。ただし、法人税法第55条第3項及び同法第132条第1項の適用はないものとして解答しなさい。
2 本件売掛金について、Aの所得税額の計算上どのように取り扱われるか。Aが行うことができる所得税法上の手続と併せて説明しなさい。
3⑴ 所得税法における青色申告制度の趣旨について、簡潔に説明しなさい。また、AがB店を閉じたことにより、青色申告の承認の効力がどうなるかについても説明しなさい。
⑵ Hは、青色申告として提出した令和5年分以降の所得税の確定申告書につき、所轄税務署長が何ら問題とすることなく受理しておきながら、令和8年7月になって増額更正処分をすることは信義則(民法第1条第2項)に反すると考え、その旨を増額更正処分の取消訴訟で主張しようと考えている。この主張の当否について論じなさい。
出典:法務省「2026年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。