2026年 司法試験 論文式 租税法 第1問
問題
配点 50点[租 税 法]
〔第1問〕(配点:50)
個人Aは、労務管理や経理等の業務に係るシステムの開発を主たる事業とする株式会社B(以下「B社」という。)で、約10年間、ITエンジニアとしてソフトウェアの開発に従事し、令和元年12月末日付けでB社を退職した。その後、Aは、不動産の売買、賃貸、仲介等を事業目的とする株式会社C(以下「C社」といい、その事業年度は暦年である。)の代表取締役であり、その発行済株式の全部を有する個人Dから、C社の経営をDと共に担い、C社の各種業務のIT化を牽引してほしい旨の要請を受け、令和2年4月1日付けでC社の代表取締役に就任した。それ以来、Aは、平日はほぼ毎日出社し、C社から役員給与として毎月末に50万円の支払を受けている。なお、AとDは、約10年前から内縁関係にあり、生計を一にしている。また、C社は、その資本金の額は1000万円で、約30人の従業員を雇っており、各事業年度に800万円程度の所得を得ている。
C社は、中小企業のIT化支援を目的とする国の補助金の交付を申請し、令和3年1月に150万円の補助金交付決定を受けた。C社は、交付の条件に従い、同月中に300万円を支払ってソフトウェアを購入して事業の用に供し、同年2月に上記補助金の交付を受けた。なお、上記補助金は、返還を要しないことが令和3事業年度末までに確定している。
Aは、C社からの役員給与以外にも収入を得たいと考え、令和4年1月、C社の許可を得て、C社での業務に支障のない範囲で、注文を受けて、ソフトウェアを創作し提供する業務(以下「本件ソフトウェア業」という。)を始めた。本件ソフトウェア業において、Aは、Dが所有する建物を賃借して本件ソフトウェア業専用のオフィス(以下「本件オフィス」という。)とし、B社から受け取った退職金と銀行からの借入金を原資として機材や備品、消耗品等を取りそろえる一方で、従業員を雇わず、主に平日の夜間や週末等にソフトウェアの創作等の業務を行っている。本件ソフトウェア業において、Aは、顧客との間で締結した業務委託契約に基づき、顧客の要望に応じたソフトウェアを創作し、完成したソフトウェアとこれに係る著作権を保持した上で、顧客がクラウド上で当該ソフトウェアを利用することを許諾し、所定の対価の支払を受けている。なお、創作されたソフトウェアは、全て業務システム用のものであり、「プログラムの著作物」(著作権法第10条第1項第9号)に該当し、その著作権は創作者に帰属する。
令和4年中の本件ソフトウェア業に係る受注は10件程度で、その売上げの額が諸費用の額を僅かに上回るのみであったが、積極的なインターネット広告の効果もあり、令和5年には、受注件数は約20件に、売上げの額は約2000万円に達した。令和6年から令和7年にかけて、本件ソフトウェア業に係る受注件数と売上げの額はいずれも増加傾向にあり、他方、本件ソフトウェア業に係る諸費用の額は、令和5年以降の各年とも約500万円(後述の外注費を除く。)である。なお、Aは、令和4年分の所得税の確定申告に際し、開業の届出(所得税法第229条)を行った。
Aは、個人Eから受注して令和5年にソフトウェアを創作し、同年からEにその利用を許諾していた。Aは、Eの了解を得て、令和6年12月、当該ソフトウェアに係る著作権(その時価は400万円である。)を100万円でC社に譲渡する契約を締結し、C社からその全額の支払を受けた。
A及びC社は、双方の顧問を務める税理士からの助言に従い、Dの同意を得て、令和7年1月以降の前記業務委託契約に係る受注について、AがC社に対し、ソフトウェアの創作等に係る業務を再委託して外注費を支払う旨合意した。もっとも、この合意について書面は作成されず、再委託業務の範囲や条件等に関する特段の取決めもされなかった。また、当該ソフトウェアの創作等の業務は、実際には、令和6年以前と変わらず、Aが本件オフィスにおいて一人で行っていた。Aは、令和7年1月に前記業務委託契約の下でB社から受注して創作したソフトウェアを、同年中にB社の利用に供した。Aは、B社からの上記受注分につき、上記合意に基づく外注費として、C社に対し、90万円を支払った(C社は同額を令和7事業年度の益金の額に算入した。)。
以上の事案について、以下の設問に答えなさい。解答に当たっては、理由を付し、根拠条文がある場合はそれを明記しなさい。ただし、租税特別措置法の適用は考慮しないものとし、事案中の年月日にかかわらず、令和8年1月1日現在において施行されている法令に基づいて解答しなさい。
なお、本件ソフトウェア業における取引は、「リース取引」(所得税法第67条の2第3項)には該当しないものとする。
〔設 問〕
1 C社が交付を受けた補助金とこれに係るソフトウェアの取得に関し、C社にとって一般に有利となる法人税法上の処理について説明しなさい。
2 Aは、令和4年以降の各年分の所得税の確定申告に際し、本件ソフトウェア業から生ずる所得をどの種類の所得とすべきか。
3 AがC社に対して行った著作権の譲渡は、令和6年分のAの各種所得の金額及び総所得金額の計算上、それぞれどのように扱われるべきか。低廉な対価による譲渡との関係で、Aの各種所得の金額の計算上の扱いを定める所得税法の規定の趣旨に言及して、述べなさい。なお、著作権の取得費及び譲渡費用はいずれも0円であり、Aの所得又は損失は、問題文に示されたもの以外にはないものとする。
4 所得の金額の計算上、必要経費を控除する制度の趣旨と、控除されるための要件を述べた上で、Aが支払った費用の額(いずれも通常の額である。)に関する以下の各問に答えなさい。なお、債務がいずれの年に確定したかについては論じる必要はない。
⑴ ① Aは、各種所得の金額の計算上、C社に対して支払った外注費の額を必要経費の金額に算入しようと考えている。Aの立場に立って、これを正当化する主張を行いなさい。
② 前記①のAの主張に対して、所轄税務署長の立場から考えられる主張を行いなさい。ただし、所得税法第45条第3項及び同法第157条第1項の適用については考慮しないものとする。
⑵ 本件オフィスに係る賃料の額を必要経費として控除することは、所得税法第56条の適用によって否定されるか。
(参照条文)
所得税法施行令
(減価償却資産の範囲)
第6条 法第2条第1項第19号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。
一 〜 七 (略)
八 次に掲げる無形固定資産
イ 〜 リ (略)
ヌ ソフトウエア
ル 〜 ネ (略)
九 (略)
(短期譲渡所得の範囲)
第82条 法第33条第3項第1号(短期譲渡所得)に規定する政令で定める所得は、次に掲げる所得とする。
一 自己の研究の成果である特許権、実用新案権その他の工業所有権、自己の育成の成果である育成者権、自己の著作に係る著作権及び自己の探鉱により発見した鉱床に係る採掘権の譲渡による所得
二、三 (略)
(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)
第169条 法第59条第1項第2号(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)に規定する政令で定める額は、同項に規定する山林又は譲渡所得の基因となる資産の譲渡の時における価額の二分の一に満たない金額とする。
法人税法施行令
(減価償却資産の範囲)
第13条 法第2条第23号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(事業の用に供していないもの及び時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。
一 〜 七 (略)
八 次に掲げる無形固定資産
イ 〜 リ (略)
ヌ ソフトウエア
ル 〜 ナ (略)
九 (略)
出典:法務省「2026年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。