司法試験論文式過去問演習

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2026年 司法試験 論文式 労働法 第2問

問題

配点 50点

〔第2問〕 (配点:50)

次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。なお、事例に関連する諸規程の抜粋を【資料】に掲げてあるので、適宜参照しなさい。

【事 例】

Y社は、食品製造を業とする株式会社であり、東京本社のほか東京郊外に工場一か所を有している。Y社の従業員数は本社及び工場を併せて約300人である。Y社にはY社の従業員Xらで作るZ組合という労働組合がある。Z組合の組合員には事務職員及び工員のいずれの従業員もおり、本社及び工場にそれぞれ分会を置いている。組合員数は約180名であり、XはZ組合の執行委員長である。Y社にはZ組合以外に労働組合はない。

Z組合は、Y社との間で、毎年の賞与の支給基準について団体交渉を行い、同交渉の妥結後に協定書を作成し、調印した後にY社が賞与を支給することが慣例になっていた。令和8年3月4日、Z 組合は、Y社に対し、「令和8年度夏季賞与に関する要求」と題する書面をもって、令和8年度夏季賞与として、基礎額(同年5月31日現在の基本月給をいう。以下同じ。)×4.2か月+10万円の支給を要求した。これに対しY社は、現在の製造量と売上高ではこれが精一杯であるとして、同年3月19日、「会社回答」と題する書面(以下「本件会社回答」という。)をもって、令和8年度夏季賞与を基礎額×3.5か月とする旨回答した。

ところで、当時、Z組合とY社は労働時間制度をめぐって対立状態にあった。Y社は、工場稼働率の向上と人手不足への対応のため、工場に勤務する工員についてシフトを組み、該当日に2時間の残業を行う計画的残業制度を提案し、他方、時間外労働の削減を運動方針とするZ組合は、本社の事務職員を中心に長時間労働が常態化している状況を改善すべきとして、全従業員に対し12時間以上の勤務間インターバル制度(終業時刻から次の始業時刻の間に一定時間以上の休息時間を確保する仕組み)を導入すべきと要求していた(以下「本件労働時間問題」という。)。Y社とZ組合はともにそれぞれの要望を譲らず団体交渉のたびに激しく意見を交わしていた。このような事情があったため、Y社は、本件会社回答において、「昨今の雇用情勢に鑑み計画的残業制度の導入は必須である。制度導入についてご了解をいただくまで、令和8年度夏季賞与に関する交渉は行わない。」旨付記した。

Z組合とY社はその後も本件労働時間問題について交渉を重ねていたが、双方の主張は平行線をたどり展望の見えない状況となっていた。また、Y社は本件労働時間問題の解決が先であるとして、令和8年度夏季賞与に関する交渉に応じない姿勢を崩さなかった。

そこで、XらZ組合執行部は、組合員のために夏季賞与の支給を確実にすべきと判断するに至り、所定の議決手続を経て、令和8年6月10日、Y社に対し、「妥結通告について」と題する書面をもって令和8年度夏季賞与については本件会社回答のとおりに承諾する旨の意思を伝えた。当該書面にはZ組合の公印と執行委員長としてのXの署名が付されていた。

賞与支給日である令和8年6月30日、Y社はZ組合員らに賞与を支給しなかった。他方、Y社は非組合員である従業員に対して、夏季賞与額を基礎額×3.5か月で算定することに承諾する旨の同意書を個別に取り付けた上、賞与を支給した。

一方、Z組合は、組合側の有利に本件労働時間問題を解決していくためには社内の機運を高めていくことが重要であるが、Y社から使用を許可されている掲示板に組合の見解を提示するだけでは十分ではないと考え、勤務間インターバル制度の重要性を説き、計画的残業制度の導入を求めるY社を非難する『臨時組合ニュース』(以下「組合ニュース」という。)を作成し、本社及び工場の従業員休憩室に設置されている個人用レターケース(以下「レターケース」という。)を利用して従業員全員に配布することにした。レターケースは、深さ約2センチ強の透明なプラスチック製の浅型タイプの引き出しが重なった多段式のものであり、引き出しの一つ一つに従業員の個人名が表示されている。レターケースについて、Y社は個人宛の指導文書等業務上必要な資料を従業員に配布するために使用しているが、以前からZ組合が組合員への連絡文書の配布などに利用することは黙認していた。

令和8年6月15日、Z 組合員らは昼食休憩の時間を利用し手分けして、A4サイズのコピー用紙1枚表裏に印刷された組合ニュースを全従業員のレターケースに投函した。ところが、その日の午後、本社に勤務する総務係長Aがレターケースに業務用の資料を投函しようとした際、いくつかのレターケースで書類が満杯になっており、当該資料を入れるスペースがないという事態が生じた。Aはそれらのレターケースを点検し、組合員か否かに関わらず組合ニュースが投函されていること及びそれらが会社の明示の許可なく投函されたものであることを確認した。Aは直ちに取締役Bに報告した上で、Bの指示に従い、全てのレターケースを点検し、見つけた組合ニュースを全て回収した。また、Bは工場の管理責任者にも同様に指示して、工場のレターケースを点検させ、発見された組合ニュースを全て回収させた。なお、既に組合ニュースを入手した従業員もいたようで、空のレターケースもあった。

翌令和8年6月16日、BはXを役員室に呼び出し、会社の許可なくレターケースを使用してはならないこと及び会社は今般のレターケース無許可使用の件を重く見てZ組合に使用を許可している掲示板を1か月間使用停止とすることに決定したことを伝え、同掲示板に貼付されている掲示物を直ちに全て撤去するよう求めた。そして、再度同じことが行われた場合、今回と同様に配布物を全て回収した上で、執行委員長であるXに対し懲戒処分を行うこと及び掲示板の使用の許可を取り消すつもりであることを伝えた。

〔設 問〕

1 Xらが令和8年度夏季賞与の支払を求めて裁判所に提訴した場合、請求は認められるか、あなたの見解を述べなさい。

2 Z組合は、本件会社回答及びそれ以降のY社の対応について、労働委員会に不当労働行為の救済申立てをすることを検討している。Z組合は、どのような主張をしてどのような救済を求めるべきか。また、労働委員会は、どのような命令を発することになると考えられるか、あなたの見解を述べなさい。なお、Z組合は、労働組合法第5条第1項が定める救済申立ての要件を満たしているものとする。

【資 料】

〇 Y社就業規則

第20条 従業員は、会社の施設、車両、機械、備品等を大切にし、みだりに使用したり、許可なく私用に用いてはならない。

第22条 従業員は、会社が許可した場合を除き、会社施設内において演説、集会、貼紙、掲示及びビラの配布その他これに類する行為をしてはならない。

② 前項の規定に違反した場合、会社は掲示物その他を撤去することができる。

第50条 会社は、原則として、毎年12月1日(冬季)及び6月30日(夏季)に賞与を支給する。

② 前項の賞与の額は、会社の業績並びに本人の勤務成績及び勤怠状況を勘案して決定し、原則として支給日に在籍し、算定対象期間(4月1日から9月30日まで(冬季)及び10月1日から翌年3月31日まで(夏季))に勤務した者について支払う。

③ 前項の規定にかかわらず、会社は、業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、賞与の支給時期を延期し、又は賞与を支給しないことがある。

第70条 会社は、社員が次の各号のいずれかに該当するときは、次条の規程により懲戒処分を行う。

(1)〜(3) (略)

(4) 業務上の指揮命令に違反したとき。

(5) (略)

(6) 本規則その他会社の定める規則に違反し、又はこれらの規則に定める手続若しくは届出を怠り、若しくは偽ったとき。

(7)〜(9) (略)

(10) その他、前各号に準ずる不適切な行為をしたとき。

第71条 懲戒は、その情状により、次の区分により行う。

(1) けん責

(2) 出勤停止

(3) 降職

(4) 諭旨退職

(5) 懲戒解雇

〇 基本労働協約(Y社とZ組合の間で締結されたもの)

第30条 会社は就業規則の定めるところに従い、賞与を支給する。

② 会社は、賞与の支給基準その他の条件について組合と協議し決定する。

第40条 組合は、所定の掲示板において、組合活動に必要な宣伝、報道及び告知を行うことができる。

② 組合は、所定の掲示板以外の場所において、貼紙及び掲示をしてはならない。

第41条 会社は、組合が前条第2項の規定に違反した場合又はそれに準ずる行為をした場合は、掲示板の使用の許可を取り消すことができる。

出典:法務省「2026年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。