司法試験論文式過去問演習

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2026年 司法試験 論文式 労働法 第1問

問題

配点 50点

[労 働 法]

〔第1問〕(配点:50)

次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。

【事 例】

Y社は、電子部品製造を業とする従業員300人の株式会社である。X1、X2及びX3は、いずれも大学で電子工学を専攻して卒業後にY社の技術系社員となった者である。それぞれの入社の時期は、X1が令和2年4月、X2が平成31年4月、X3が平成27年4月である。

Y社は、主要な取引先である自動車製造業のA社、家電製品製造業のB社及び通信機器製造業のC社との取引による売上額が全体の80%以上を占め、これら3社(以下「取引先3社」又は「出向先3社」ということがある。)との間の取引関係を継続していくことがY社にとって極めて重要であるため、関係強化と、技術協力を通じた従業員の技術力の向上を目的として、取引先3社に対し、従業員を各1名出向させてきた。Y社では、後掲の就業規則及びそれに付随する出向規程において、Y社が従業員を出向させるための規定を定めている。Y社の出向規程は、出向先3社の各々との間で締結している出向に関する合意内容を踏まえ、それらに基づき策定されたものである。

Y社は、出向先3社と協議を行い、出向させる従業員の担当業務を決め、各社の希望に沿う従業員を選考し、出向させてきた。現在出向中の従業員が、3年間の出向期間満了により令和8年3月末にY社に復職するため、Y社は、出向先3社の各々と次期出向者の担当業務について、同年1月から協議を行った。その結果、A社は製品の部品調達・管理担当を、B社は製品の電子部品設計担当を、C社はシステム開発担当を希望した。Y社は、同年3月9日、出向先3社の希望に基づき出向対象者の選考を行い、出向期間を3年として、まだ出向経験のない技術系社員30名の中から、X1をA社に、X2をB社に、そしてX3をC社へ出向させることを決定した。この決定に基づき、Y社は、同月10日、X1、X2及びX3に対し、各出向先への出向命令を発令した。X1、X2及びX3は、各出向命令に従い、着任日の同年4月1日から各出向先で勤務を始めた。

X1は、Y社の技術部門の専門職となるために求められる電気電子部門技術士(注)の資格の取得を目指しており、同資格試験の第二次試験の受験に必要な実務経験にはならないA社への出向は不本意であった。そのため、X1は、勤務中に上司に対し反抗的な態度をとることがあった。A 社は、X1のこのような勤務態度を注意したが、X1がかえってこれに反発するようになったため、A社への出向から2か月が経過した令和8年6月1日、Y社に対し、出向者をX1から他の従業員に代えるよう要請した。

Y社は、A社との関係を悪化させないよう、A社からの出向者の交代要請に早急に応じなければならないと考えたが、新たに出向者の選考を行う時間的余裕がないことから、X1に代えてA社に出向させる者は、現在出向中の者の中で一番経験年数のあるX3が適任と判断し、同人をX1に代えてA社に出向させ、これに併せてC社にX1を出向させることを決定した。同決定に基づき、Y社は、令和8年6月8日、A 社に対し、X1の代わりにX3をA社に出向させることを説明し、A社から了承を得た。翌日、Y社は、C社に対し、出向者がX1に交代となることについて事情を説明し、X1にC社で勤務に精励するよう指導することを約した上で、C 社から了承を得た。

Y社は、令和8年6月10日午前、X3に対し、上記の事情からA社に出向中のX1を交代させ、その代わりにX3をA社に出向させること及びA社での業務内容について説明した。X3は、もともと技術系の管理職に就くことを希望していたが、そのためには、既に取得している電気電子部門技術士の資格に加えて総合技術監理部門技術士の資格を取得することが必要であった。X3は、C 社への出向は、同部門の資格試験の第二次試験の受験に必要な実務経験となるが、A社への出向はこれに該当せず、A社への出向期間の分だけ同部門の技術士の資格取得が遅れることになってしまうため、A社への出向には応じられないと回答した。

令和8年6月10日午後、Y社は、X1に対し、A社からの出向者の交代要請に応じるため、X1をC社に出向させる旨を説明した。これに対し、X1は、共働きで保育所に通う子供を2人抱えていること、新たな出向先となるC社は自宅から通勤困難な所にあり単身赴任となること、そうすると配偶者には仕事の継続が困難になるほどの過大な負担がかかることから、C社への出向ではなくY社に復職させてほしいとY社に申し入れた。Y社は、このX1の申入れに対し、単身赴任となる出向者に対しては、出向手当1と出向手当2を設け単身赴任の負担軽減を図っていると説明し、X1の申入れには応じられないと回答した。しかし、X1は、Y社の説得に応じることなく、C社への出向を拒否し、Y社への復職を求め続けた。

Y社は、翌令和8年6月11日、A社及びC社との関係悪化を恐れ、X1に対しC社への出向命令を、X3に対しA社への出向命令を、それぞれ同月18日を着任日として発令した。着任日までの1週間は、X1及びX3については、Y社に復職させて人事部付きとした。

(注)技術士は、技術士法に基づく国家資格で、同法第32条第1項の登録を受け、技術士の名称を用いて、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。)に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務(他の法律においてその業務を行うことが制限されている業務を除く。)を行う者である。電気電子部門及び総合技術監理部門を含む計21の部門について、技術士の資格が設けられている。

〔設 問〕

1 X3は、A社への出向命令に従わなければならないか。検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。

2 Y社は、着任日までの1週間の間、X1に対し、C社への出向に応じるよう説得を繰り返したが、X1は、これを拒否し続け、着任日にC社に出社せず、その後も出社しなかった。

そこで、Y社は、X1がC社への出向命令に従わないことが就業規則所定の解雇事由に該当するとして、30日分の解雇予告手当の支払をした上で、X1を解雇した。Y社によるX1の解雇は有効か。検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。

【Y社就業規則(抜粋)】

(出向)

第13条 会社は、従業員に対し、業務の必要により出向させることがある。この場合、従業員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

② 出向に関する詳細については、別に定める出向規程による。

③ 出向を命じられた従業員は、指定された日に、出向先に着任しなければならない。

④ 会社は、業務上の必要等があるときは、出向期間の途中においても出向者を復職させることがある。

(解雇)

第55条 会社は、従業員が次のいずれかに該当するときは、解雇することができる。

(1)〜(5) (略)

(6) 正当な理由なく業務上の指示・命令に従わなかったとき。

(7) (略)

(8) その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。

【Y社出向規程(抜粋)】

第1条 出向とは、出向先(A社、B社、C社)に従業員として勤務することをいう。

第2条 出向する従業員は休職とする。

第3条 出向期間は原則として3年以内とする。ただし、業務上の必要によりこの期間を延長することができる。

第4条 出向者の就業時間、休日、休暇等の就業に関する事項については、出向先の規定による。

第5条 当社における考課、昇格、昇給及び賞与等の査定については、出向先における勤務成績を勘案の上、当社規定により社内勤務者と同一基準により行う。

第6条 自宅からの通勤が困難で家庭の事情により単身赴任となる出向者には、出向手当1として、自宅から出向先の勤務地までの距離に応じた金額の手当を支給する。

第7条 前条の規定に該当する出向者に対しては、出向手当2として、社内勤務者に支給される住居手当とは別に勤務地に応じた金額の手当を支給する。

第8条 出向者の給与及び賞与は、出向先の定めるところによる。ただし、出向先の支給額が当社規定による支給額に満たないときは、当社の規定による支給額との差額を支給する。

第9条〜第10条 (略)

第11条 退職手当は、出向期間を通算し、当社の規定により支給する。

第12条〜第14条 (略)

第15条 出向者が復職する場合は、その能力、経験等を勘案して配属先を決定する。

出典:法務省「2026年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。