2026年 司法試験 論文式 国際関係法(私法系) 第1問
問題
配点 50点[国際関係法(私法系)]
〔第1問〕(配点:50)
以下の設問への解答に当たっては、法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)を「通則法」と略記して差し支えない。
〔設問1〕
海上運送を営むA(甲国法人)が所有し、甲国を旗国とする貨物船αは、乙国から日本に貨物を輸送する途中、日本近郊の公海においてB(丙国法人。日本に営業所も財産も有していない。)が所有し、丙国を旗国とする船舶βと衝突し、破損した(以下「本件事故」という。)。その後、αは、目的地であった日本に寄港し、そこで修理を受けるとともに、貨物を降ろした。他方、βもαと衝突したことで破損したため、日本に一旦立ち寄り、応急処置・検査を受けた後、丙国に向けて出港した。
Aは、Bに対し、日本の裁判所において、不法行為に基づく損害賠償請求を行うとともに、Bが損害保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた保険会社C(丙国法人)に対しBC間の本件保険契約に基づく保険金を自らに直接支払うよう請求する訴えを提起した。BC間の本件保険契約には、準拠法を丁国法とする旨の条項が含まれていたが、第三者に直接請求を認める旨の条項は置かれていなかった。
以上の事実を前提として、以下の小問に答えなさい。なお、本設問において、「船舶衝突ニ付テノ規定ノ統一ニ関スル条約」を考慮する必要はない。
〔小問1〕
⑴ AのBに対する訴えについて、日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められるかどうかを論じなさい。
⑵ 日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められるものとして、AのBに対する損害賠償請求について判断するに当たり、適用すべき準拠法はいずれの国の法かを論じなさい。なお、AとBとの間で準拠法に関する事後的な選択の合意はなかったものとする。
〔小問2〕
AのCに対する保険金の直接支払請求について、Aは、丁国法が準拠法であるとして、当該請求が認められると主張し、Cは、AのBに対する損害賠償請求の準拠法と同一の法が準拠法であるとして、Aの請求が認められないと主張している。それぞれの主張の根拠を挙げた上で、日本の裁判所が適用すべき準拠法はいずれの国の法かを論じなさい。なお、AのCに対する当該請求については、日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められるものとする。また、丁国法では被害者から保険会社に対する直接支払請求が認められているが、甲国法、乙国法、丙国法及び日本法では直接支払請求が認められていないものとする。
〔設問2〕
本件事故により、貨物船αの船内に海水が流入したため、αが輸送していた貨物の一部が毀損した。Aと運送契約を締結した売主D(乙国法人)から商品を購入し、AがDに交付した船荷証券を入手することにより、日本でAから商品の引渡しを受けた買主E(日本法人)は、自らが購入した商品が毀損し損害が生じたと主張して、Aに対し、日本の裁判所において、債務不履行に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。当該船荷証券の裏面約款には、紛争解決条項として、「本船荷証券の下での請求又は紛争は、運送人の選択に従い、運送人の主たる事業所が所在する国又は発送地若しくは引渡地が所在する国の裁判所によって判断されるものとする。」という管轄合意条項が含まれている。
Aは、第1回口頭弁論期日において、当該管轄合意条項に基づき、裁判所として甲国の裁判所を選択する旨を宣言し、日本の裁判所には国際裁判管轄権がないと主張して、当該訴えの却下を求めた。このAの主張は認められるかを論じなさい。なお、AとDとの間で締結された国際的管轄合意の効力はEに対しても及ぶものとする。
〔設問3〕
船舶βは、丙国に到着した後、そこで更に修理を受けた。Bにβの修理に係る保険金を支払ったことにより、BのAに対する損害賠償請求権を代位取得したCは、Aに対し、丙国裁判所において損害賠償を求める訴えを提起した。当該訴えに係る訴状の送達は領事送達により適式に行われたが、Aは手続に参加せず、何ら主張をしなかった。そのため、丙国裁判所は、Cの主張を全面的に認める判決(以下「本件判決」といい、本件判決に係る判決書を「本件判決書」という。)を言い渡した。丙国法において、欠席当事者に裁判上の文書が送達されないことは、手続法上許容されており、手続に参加しなかった敗訴した被告に判決書を送る必要はなかった上、欠席判決が下される可能性については、当該裁判所による呼出状に添付された説明書に記載されていた。それでも、本件について、Cの代理人は、本件判決書の写しを普通郵便でAに対し発送した。ところが、当該郵便は誤った住所に送付されたため、Aには届かなかった。その後、Aが法定期間内に控訴をしなかったので、そのまま本件判決は確定した。なお、丙国裁判所の判決書は丙国裁判所によりインターネットでも公表されており、Aは本件判決書の写しを閲覧することが可能であった。
Cは、Aに対し、Aの財産がある日本の裁判所において本件判決についての執行判決を求める訴えを提起した。Aは、本件判決書の写しがAには到達しなかったため、本件判決は、民事訴訟法第118条第3号にいう手続的公序の要件を満たさないと主張している。このような主張は認められるかを論じなさい。
なお、本設問の解答においては、〔設問1〕におけるAのBに対する日本での訴訟について考慮する必要はないものとする。
出典:法務省「2026年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。