2025年 司法試験 論文式 倒産法 第1問
問題
配点 50点[倒 産 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の【事例】について、以下の設問に答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和7年1月1日現在において施行されている法令に基づいて答えなさい。
【事 例】
会社員であったAは、令和4年4月、Bから投資話を持ち掛けられ、投資のための資金700万円をBの指定する預金口座に振り込むように勧められた。Aは、Bの投資話を信じ、消費者金融2社から200万円ずつ合計400万円、知人Cから300万円をそれぞれ借り入れ、同月25日、上記借入金の合計700万円全額を、投資のための資金としてBが指定した預金口座に振り込んだ。
令和4年5月、Aの実兄が死亡し、その共同相続人であるAとD(Aの実弟)は、同月13日、遺産分割協議を行い、兄の遺産である土地(以下「本件土地」という。)及び預金20万円の全てをDに取得させる旨を合意し(以下「本件遺産分割合意」という。)、同日、本件土地について遺産分割を原因とする所有権移転登記がされた。
令和4年6月、Aは、同僚であるEからソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SNS」という。)上に誹謗中傷にわたる内容を書き込まれ、職場での人間関係に悩んで転職した。Aは、転職により給与が減ったところ、その減額分を上記投資による配当金で賄おうと考えていたが、配当金が振り込まれることはなく、元金の返金もされないままBと連絡が付かなくなった。
その後、Aは、消費者金融2社に対する返済を怠り、同社らから訴訟提起の予告を受けたため、弁護士Fに債務整理を委任することとした。弁護士Fは、令和4年9月5日、C及び消費者金融2社に対し任意整理を行う旨の受任通知を送付し、同年11月、Aの代理人として、C及び消費者金融2社との間で、それぞれ、令和5年1月以降毎月末日限り2万円ずつ支払う旨の和解契約を締結した(以下「本件各和解契約」という。)。なお、本件各和解契約においては、約定の分割金の支払を1回でも怠ったときには直ちに期限の利益を喪失する旨の条項が含まれていた。
本件各和解契約の成立後、Aは体調を崩して欠勤することが多くなり、令和5年1月以降は休職して傷病手当金を受給するようになり、月額収入が3分の2に減少した。Aは、本件各和解契約で定められた分割金の支払について、同年1月から同年3月までは、病院の受診を控えるなどして生活費を切り詰めながら約定どおりの支払をしたものの、同年4月以降は約定の支払をすることができなくなり、消費者金融2社に対しては支払をせず、Cに対してのみ同年9月まで1か月おきに隔月での支払を続けていた。
この頃、Aは、弁護士Fに破産手続開始の申立てを依頼しようとしたが、弁護士Fも体調を崩していたため、上記依頼をすることができずにそのままになっていた。その後、Aは、令和6年8月、弁護士Gに破産手続開始の申立てを依頼し、弁護士Gは、同月5日、Aの代理人として破産手続開始の申立てを行う予定である旨をC及び消費者金融2社に対して通知した上で、同年11月12日、裁判所に破産手続開始の申立てをした(以下「本件申立て」という。)。本件申立てを受けた裁判所は、同月20日、Aについて破産手続開始の決定をし、破産管財人として弁護士Xを選任した。
〔設 問〕
1.以下の⑴及び⑵の訴訟手続がどのように取り扱われるかについて論じなさい。なお、⑴及び⑵のいずれについても破産手続開始の決定時までに口頭弁論は終結していないものとする。
⑴ 本件申立ての前に、AはBを被告として、架空の投資話により700万円を詐取された旨を主張して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起し、第一審裁判所に同訴訟が係属していた。
⑵ 本件申立ての前に、AはEを被告として、SNS上に誹謗中傷にわたる内容の書き込みをされて名誉を侵害された旨を主張して名誉毀損による慰謝料請求訴訟を提起し、第一審裁判所に同訴訟が係属していた。
2.破産管財人Xによる否認権の行使に関し、以下の⑴及び⑵について解答しなさい。
⑴ 破産管財人Xは、本件各和解契約成立後のAのCに対する支払を否認することができるかについて、Cからの反論を踏まえて論じなさい。
⑵ 破産管財人Xは、本件遺産分割合意を対象として否認権を行使した。破産管財人Xが否認権を行使した令和6年12月時点において、Dは、本件遺産分割合意により取得した預金20万円を全額費消していた。また、本件土地の時価は、本件遺産分割合意がされた令和4年5月の時点では100万円であったが、その後、本件土地の近隣に半導体工場が誘致されたことにより、令和6年12月時点で300万円になっていた。
この場合において、破産管財人XがDに対して否認権行使により価額償還を請求するとき、請求することができる額について、その理由も含めて論じなさい。ただし、本件遺産分割合意を対象とする否認権が認められることを前提とする。また、附帯請求は考慮しなくてよい。
出典:法務省「2025年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。