司法試験論文式過去問演習

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2025年 司法試験 論文式 租税法 第1問

問題

配点 50点

[租 税 法]

〔第1問〕(配点:50)

P県内の中心市街地にある賃貸住宅に居住し、会社員として給与収入を得ているAは、令和元年10月に自家用車として軽自動車(以下「本件車両」という。)を購入した。Aの自宅は、通勤に利用する最寄り駅まで程近く、交通の便は良い場所にあった。Aは、近所の平面式駐車場を借りて本件車両の保管場所としており、本件車両を趣味の旅行やドライブに利用していたほか、子どもの習い事への送迎や、週末の大型スーパーへの買い出しに利用していた。また、Aは、勤務先会社から定期券代の支給を受けて、自宅から徒歩と電車で通勤していたが、持ち帰る資料が多いときなど、週に1、2回ほどは本件車両で通勤することもあった。

令和2年5月、Aの自宅周辺は予期せぬ豪雨に見舞われ、平面式駐車場に保管していた本件車両は水没し、故障してしまった。Aは、車両保険に加入していなかったこともあり、本件車両を廃車とした。

その後、勤務先会社がインターネット等を活用した働き方(いわゆるテレワーク)を認めるようになったこともあり、Aは、令和2年10月にQ県R市内に新築の土地付き住宅を購入し、直ちにR市に移住した。R市では、定住促進及び同市の活性化を図るため、同市内に定住する意思をもって新築住宅等を取得した者を対象として、R市定住条例に基づく定住奨励金(以下「本件奨励金」という。)を交付することとしていた。同条例では、①本件奨励金の交付を受けようとする者は、対象となる住宅を取得した年の翌年以降、毎年、R市の定める交付申請書及び添付書類を所定の期間内に提出することで、5年間に限り、同条例所定の金額の奨励金の交付を受けることができること、②ただし、奨励金の交付を受けた日から5年以内にR市から転出したときには、その返還を求められる場合があることなどが定められていた。令和3年7月、R市は、Aの申請に基づき、Aに対し、令和3年分の本件奨励金を交付する旨の通知をした。なお、Aは、令和4年以降もR市定住条例の定めに従い本件奨励金の交付を申請し、R市から本件奨励金の交付を受けている。

また、Aは、R市がかつて別荘地として有名であったことをいかして、副業として観光客向けにいわゆる民泊(住宅宿泊事業)を始めることを考え、令和5年1月、売りに出されていた近隣の別荘(以下「本件別荘」という。)を購入した。もっとも、Aは、住宅宿泊事業法に規定する近隣住民からの苦情への対応義務や衛生確保措置等を嫌い、同法に規定する住宅宿泊事業を営む旨の届出をせず、自らの民泊が無届けであることが発覚した場合には、すぐに廃業するつもりであった。

Aは、令和5年3月から民泊を開始した。Aは、観光客に本件別荘を貸し付けて寝泊まりの場を提供するだけではなく、最寄り駅までの送迎や寝具のクリーニング等のサービスも自ら提供していた。令和5年及び令和6年において、Aは、給与収入の4分の1程度である200万円前後の収入を民泊から得ており、その収入を遊興費に充てていた。Aは、今後も、勤めていた会社を辞めるつもりはなく、また、住宅宿泊事業法所定の届出をしていなかったので、近隣住民に不審に思われるような宣伝はできず、民泊による収入が増加する見込みはなかった。

以上の事案について、以下の設問に答えなさい。解答に当たっては、理由を付し、根拠条文がある場合はそれを明記しなさい。ただし、租税特別措置法の適用は考慮しないものとし、事案中の年月日にかかわらず、令和7年1月1日現在において施行されている法令に基づいて解答しなさい。

なお、住宅宿泊事業法は、旅館業法に基づく許可を受けて旅館業を営む者以外の者が、宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる住宅宿泊事業を営む場合に、事業の届出制度や安全面・衛生面の確保措置を義務付ける制度を設ける内容の法律である。旅館業を営む者以外の者が民泊を行うためには住宅宿泊事業法に基づく届出を要するところ、Aが無届けで民泊を行ったことは旅館業法に抵触し、刑事罰の対象となる行為である。解答に当たっては、以上を前提にすれば足り、その余の住宅宿泊事業法及び旅館業法の知識に基づいて論じる必要はない。

〔設 問〕

1 本件車両が水没したことによりAが被った損失の金額は、Aの令和2年分の課税総所得金額の計算にどのような影響を与えるか。本件車両が所得税法上の「生活に通常必要でない資産」

に該当するか否かによっていかなる違いが生じるかを明らかにした上で、自説を述べなさい。

2 AがR市から交付を受けた本件奨励金は、所得税法上、いかなる所得に分類されるか、可能性のあるものを挙げて論じなさい。

3 Aが行った民泊に係る収入は、所得税法上課税の対象となるか。また、課税の対象となるとすれば、いかなる所得に分類されるか、可能性のあるものを挙げて論じなさい。

4 Aによる次の支出が、設問3の所得の金額の計算上、どのように扱われるか論じなさい。

①民泊を始めるに当たり商売繁盛を願って近所の神社に支払った祈祷料

②本件別荘の敷地内にあった古井戸の解体・撤去費用

③民泊の顧客を送迎した際にAが犯した交通法規違反に対する罰金

(参考条文)所得税法施行令

(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)

第25条 法第9条第1項第9号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が30万円を超えるものに限る。)以外のものとする。

一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品

二 書画、こつとう及び美術工芸品

(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)

第178条 法第62条第1項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。

一 (略)

二 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産(前号又は次号に掲げる動産を除く。)

三 生活の用に供する動産で第25条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの

2 (以下略)

出典:法務省「2025年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。