2025年 司法試験 論文式 経済法 第1問
問題
配点 50点[経 済 法]
〔第1問〕(配点:50)
【前 提】
X協会(以下「協会」という。)は、建築資材A(以下「A」という。)の普及促進と品質向上による豊かな社会の創造、環境保全の促進等を図ることを目的とし、甲県に所在するAの製造販売業者を会員として設立された県内唯一の法人である。定款上、協会の組織、運営、管理等については、総会の決定事項とされているが、次回の定時総会が開催されるまでに決定すべき事項がある場合、会長と4社の有力会員から成る幹事会(以下「幹事会」という。)がその活動を事実上決定し、会員もその決定に従って、次回の定時総会において、幹事会の決定を追認するという運用が慣行となっている。
甲県に所在するAの製造販売業者のほとんどが協会の会員であり、甲県内でのAの製造販売分野における会員の合算市場シェア(売上額に基づく割合)は約90パーセントを占めている。Aには、製造時からの時間経過に応じて品質が劣化して、商品価値が次第に損なわれていく商品特性がある。そのため、Aの製造販売業者は、それぞれ、各都道府県の地理的範囲内で、需要者が指定する建築現場(以下「建築現場」という。)に最も近い自社工場でAを製造・出荷し、それを建築現場まで運搬して需要者に供給している。なお、Aに代替する建築資材はない。
〔設 問〕下記⑴及び⑵の設問に答えなさい。
⑴ 上記の【前提】に加え、以下の事情がある場合に、協会の行為について私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題点を分析して検討しなさい。
建築法令上、Aを用いた建築物に関する基準はあるが、Aの品質等に関する基準はない。しかし、上記の商品特性から、その製造販売業者や需要者の団体等から成る組織が、専門家の知見を踏まえ、Aの品質管理に関する基準(以下「品質基準」という。)を設定している。品質基準に従って定期的に実施される監査に合格した製造販売業者は、それを示す標章(以下「合格標章」という。)の使用を認められる。会員は全て合格標章を使用している。品質基準では、Aを製造・出荷する工場から建築現場までに要する運搬時間の目安(以下「基準運搬時間」という。)が定められている。ただし、Aの品質劣化には気温、湿度など運搬時間以外の条件による影響も大きいことから、品質基準は、製造販売業者と需要者との間で事前に協議の上、特定の品質管理条件を付して基準運搬時間を超える運搬時間を取り決めること(この取決めに基づく取引を、以下「特例取引」という。)も認めている。
最近、甲県の県庁所在地の乙市における建築需要の高まりを背景として、乙市内の建築現場からみて基準運搬時間を超える場所にしか工場を持たない会員が、特例取引によって乙市の需要者にAを安値で販売することが多く生じるようになった。
このような状況を受けて、令和7年5月1日、幹事会は、Aの販売価格の下落に伴うAの品質劣化を回避して、合格標章への社会的信頼を維持するためとして、会員が、乙市内の建築現場を運搬先に指定する需要者に対してAの特例取引を行うことを一切禁止する旨決定し、翌日以降全ての会員にこれを遵守させている。
⑵ 上記の【前提】に加え、以下の事情がある場合に(⑴記載の事情はなく、独立して検討するものとする。)、協会の行為について独占禁止法上の問題点を分析して検討しなさい。
上記の商品特性から、Aの販売に当たり、需要者の発注数量がAを運搬する車両の積載能力に比べて著しく少なく、販売利益に比べて運搬費用がかさむ場合(以下「過小積載」という。)や、運搬したAの一部が使用されずに工場に返送され、会員が不使用分のAの廃棄物処理費用を負担しなければならない場合(以下「不使用返送」という。)には、会員に損失が生じることになる。過小積載及び不使用返送の際には、大多数の会員が、それぞれ、販売先の需要者に、Aの販売代金とは別に、積載能力を下回った数量及び返送数量に基づく従量制の割増料金(以下「各割増料金」という。)を請求してきた。
最近、甲県内における建築需要の低迷を背景として、甲県内で、過小積載及び不使用返送が常態化するようになった。これに伴い、大多数の会員から協会に対して、各割増料金の設定について参考となる金額(以下「各基準料金」という。)を明示してほしいという要請が寄せられた。
そこで、令和7年6月2日、協会は、この要請に対応して、総会で、甲県内における各基準料金を、大多数の会員が従来需要者に請求していた各割増料金の平均にその10パーセントを上乗せした額とする旨決定し、翌日以降全ての会員にこれらを遵守させている。このことにより、甲県におけるAの各割増料金は、上記の総会決定の日の前に比べて約10パーセント高止まりするようになっている。
出典:法務省「2025年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。