2024年 司法試験 論文式 国際関係法(公法系) 第1問
問題
配点 50点[国際関係法(公法系)]
〔第1問〕(配点:50)
A国とB国は、国境を接する隣国であり、A国では人口の約7割がα民族、B国では人口の約8割がβ民族である。α民族とβ民族は、同じ人種に属し、使用言語も類似しているが、宗教に関してはα民族のほとんどがα教を、β民族のほとんどがβ教をそれぞれ信仰している。B国との国境に近いA国のP州では、A国の中では例外的に人口の約9割がβ民族であるが、P州に居住するβ民族のほとんどはA国の国籍を有している。
P州内には、州内の少数派であるα民族の住民(以下「α系住民」という。)が利用するα教の宗教施設と、州内の多数派であるβ民族の住民(以下「β系住民」という。)が利用するβ教の宗教施設とが混在しており、それぞれの施設の利用をめぐってα系住民とβ系住民の間での対立が深刻化していった。P州における知事選挙でβ系住民の圧倒的支持により当選した知事Xが、P州におけるα教最大の宗教施設であるQ寺院の閉鎖を命じたところ、A国大統領であるYは、「A国憲法で保障されている信教の自由を侵害した」ことを理由に、A国憲法の規定に基づいてP州のX知事を解任するとともにP州に非常事態を宣言する大統領令を発布した。P州では、X知事解任と非常事態宣言に抗議するβ系住民が武器を持って立ち上がり、P州政府の主要機関を占拠して「P共和国」の樹立とA国からの独立を宣言した。
A国のY大統領は、このようなP地域の状況を受けて、「『P共和国』と自称する武装勢力による独立宣言は、A国の国内法上の重大な犯罪行為である。」と宣言し、この動きを鎮圧する目的で多数のA国軍を新たに派遣したため、P地域ではA国軍と「P共和国」支持派勢力との間で激しい戦闘が発生した。
このようなP地域における混乱の中で、B国政府は、「国際法上の原則として確立している人民の同権及び自決の原則に照らして、P地域におけるβ系住民による独立宣言を支持する。」との声明を発表するとともに、「『P共和国』を国家承認する。」と宣言した。これに対して、A国政府は、B国政府による「P共和国」の「国家承認」はA国の領土保全を侵害する重大な国際法違反であると非難し、その撤回をB国政府に対して強く要求した。
P地域におけるA国軍と「P共和国」支持派勢力との武力衝突が一進一退を続ける中で、B国政府は、「P共和国」から援助の要請を受けたことを理由に、P地域に多数のB国軍を派遣した。B国軍の強力な支援を受けた「P共和国」支持派勢力は、P地域におけるA国軍との戦闘に勝利し、P地域のほぼ全域は「P共和国」が実効的に支配するところとなった。
以上の事実関係を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、A国とB国は、共に国際連合加盟国であるが、いずれも安全保障理事会の常任理事国ではない。また、以下の設問にある安全保障理事会における審議の時点で、A国は安全保障理事会の非常任理事国であったが、B国は非常任理事国ではなかった。
〔設問1〕
「国際法上の原則として確立している人民の同権及び自決の原則に照らして、P地域におけるβ系住民による独立宣言を支持する。」とのB国政府の声明及び「『P共和国』を国家承認する。」とのB国政府の宣言に対して、A国政府はどのように反論できるかについて国際法上の根拠を挙げながら論じなさい。
〔設問2〕
A国政府は、A国のP州に対するB国軍の軍事侵攻は国際法の重大な違反であるとして国際連合の安全保障理事会に訴えた。安全保障理事会における本件に関する審議に際して、B国の代表は、「本件は、AB両国間の紛争であるにもかかわらず、A国は安全保障理事会の理事国として本件表決に際して一票を行使できるのに、我が国は行使することができない。これは、加盟国の主権平等の原則に反するものであり、紛争当事国であるA国は、本件に関する安全保障理事会での表決に際して投票を棄権すべきである。」と主張した。このようなB国の代表の主張に対して、国際法上どのように評価できるかについて論じなさい。
〔設問3〕
A国及びこれを支持する安全保障理事会の理事国7か国は、「A国のP州に対するB国軍の侵攻は、国際の平和及び安全を危うくする平和の破壊に該当することを決定する。」という内容の決議案を、安全保障理事会に共同提出した。この決議案は、安全保障理事会において審議の後、投票に付され、投票結果は賛成12か国、反対1か国、棄権2か国であったが、B国の同盟国であり安全保障理事会の常任理事国であるC国が反対票を投じたため、否決された。
以上の状況を踏まえて、A国が国際連合の枠組みの中で本件に関する問題解決を更に求めるとすれば、どのような手段を採ることが考えられるかについて論じなさい。
出典:法務省「2024年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。