2024年 司法試験 論文式 環境法 第1問
問題
配点 50点[環 境 法]
〔第1問〕(配点:50)
【資料】を参照しつつ、地球温暖化対策の推進に関する法律(以下「温対法」という。)及びその適用に関する以下の設問に答えよ。
〔設問1〕
A県にあるB町は、内陸部に位置しているという地理的な事情もあり、夏には国内最高気温を何度も記録するような状況にあった。こうしたことから、同町は、地球温暖化対策に熱心であり、2019年に、温対法に基づく地方公共団体実行計画を、県内の他の市町村に先駆けて策定した。
2020年に、内閣総理大臣が、2050年までに国家レベルでカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言した。それを受けて、2021年に、温対法は、一部改正された。B町は、町内において再生可能エネルギーのうち風力発電を促進するために、地域における合意形成を重視しつつ、この改正の内容を最大限活用しようとしている。
甲社は、B町にあるC国定公園内の甲社所有地において、自然公園法第33条第1項の届出を要する規模での鉄塔状の工作物による風力発電事業の実施を計画している(なお、計画地は普通地域内にある。)。当該風力発電事業を行うためには、その発電に必要な電気工作物(出力6万キロワット。以下「本件工作物」という。)の設置の工事について、電気事業法第47条第1項の認可が必要である。また、本件工作物を設置するには、森林法第5条に基づく地域森林計画の対象となっている民有林であり、かつ、温対法上の対象民有林でもある上記甲社所有地内にある森林を森林法第10条の2の許可を要する規模で伐採する必要がある。
⑴ 本件工作物の設置のために、温対法の下で、甲社はB町に対してどのような手続をとることが考えられるかを説明せよ。なお、B町は、同法に基づく計画策定市町村であり、本件工作物の設置予定地を含む地域を促進区域に指定している。また、B町に関して、同法に基づく地方公共団体実行計画協議会は組織されていないものとする。
⑵ 2021年の温対法の改正によって導入された仕組みは、再生可能エネルギーの利用による脱炭素化のための施設の円滑な整備を促進するためのものであり、その仕組みにおいては、関連法令により必要とされる規制が緩和されている。本件工作物の設置との関係で、その内容を説明せよ。
〔設問2〕
温対法は、個別の事業者に対して、温室効果ガスの排出量の削減を直接に強制するといった伝統的な規制手法を採用していない。
⑴ 温対法の目的の実現のために、同法上の特定排出者との関係で同法が採用している排出量削減策とはどのような手法であり、伝統的な規制手法と比較してどのような特徴があるのか。温対法が採用している上記手法により期待されている効果にも留意しつつ説明せよ。
⑵ 国内のある地方公共団体の条例において制度化されているように、個別の事業者に対して温室効果ガスの排出量の削減を直接に求める手法があるが、それは何か。また、これは伝統的な規制手法を修正したものであるが、どのような特徴があるのかを説明せよ。
〔設問3〕
地球温暖化は人為的な温室効果ガスの排出が原因となっているところ、大規模に温室効果ガスを排出しているとして、複数の企業に対し、二酸化炭素の排出の抑制を求める調停が公害紛争処理法に基づき申請されたことがある。公害等調整委員会は同申請を却下し、却下決定の取消しが請求された訴訟において、裁判所は同請求を棄却した。環境基本法の関係規定にも触れつつ、上記申請が公害紛争処理法上の調停の対象とならない理由を説明せよ。
【資 料】
〇 地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地域脱炭素化促進事業計画の認定等に関する省令(令和4年農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省令第1号)(抜粋)
(地域脱炭素化促進施設)
第2条 法第2条第6項の環境省令・農林水産省令・経済産業省令・国土交通省令で定める施設は、次に掲げるものとする。
一 再生可能エネルギー発電施設(中略)
二、三 (略)
○ 環境影響評価法施行令(平成9年政令第346号)(抜粋)
(第一種事業)
第1条 環境影響評価法(以下「法」という。)第2条第2項の政令で定める事業は、別表第一の第一欄に掲げる事業の種類ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる要件に該当する一の事業とする。
(中略)
別表第一(抜粋)
| 事業の種類 | 第一種事業の要件 | 第二種事業の要件 | 法律の規定 |
| 5 法第2条第2項第 1号ホに掲げる事業 の種類 | ワ 出力が5万キロワ ット以上である風力 発電所の設置の工事 の事業 | 出力が3万7500キ ロワット以上5万キロ ワット未満である風力 発電所の設置の工事の 事業 | 電気事業法第47条第 1項若しくは第2項又 は第48条第1項 |
〇 電気事業法(昭和39年法律第170号)(抜粋)
(工事計画)
第47条 事業用電気工作物の設置又は変更の工事(中略)をしようとする者は、その工事の計画について主務大臣の認可を受けなければならない。(中略)
2~5 (略)
○ 森林法(昭和26年法律第249号)(抜粋)
(地域森林計画)
第5条 都道府県知事は、全国森林計画に即して、森林計画区別に、その森林計画区に係る民有林(中略)につき、5年ごとに、その計画をたてる年の翌年4月1日以降10年を一期とする地域森林計画をたてなければならない。
2~5 (略)
(開発行為の許可)
第10条の2 地域森林計画の対象となつている民有林(中略)において開発行為(中略)をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。
(以下、略)
○ 森林法施行令(昭和26年政令第276号)(抜粋)
(開発行為の規模)
第2条の3 法第10条の2第1項の政令で定める規模は、次の各号に掲げる行為の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める規模とする。
一 専ら道路の新設又は改築を目的とする行為 当該行為に係る土地の面積1ヘクタールで、かつ、道路(中略)の幅員3メートル
二 太陽光発電設備の設置を目的とする行為 当該行為に係る土地の面積0.5ヘクタール
三 前二号に掲げる行為以外の行為 当該行為に係る土地の面積1ヘクタール
○ 公害紛争処理法(昭和45年法律第108号)(抜粋)
(定義)
第2条 この法律において「公害」とは、環境基本法(平成5年法律第91号)第2条第3項に規定する公害をいう。
(公害等調整委員会)
第3条 公害等調整委員会(以下「中央委員会」という。)は、この法律の定めるところにより公害に係る紛争についてあつせん、調停、仲裁及び裁定を行うとともに、地方公共団体が行う公害に関する苦情の処理について指導等を行う。
(管轄)
第24条 中央委員会は、次の各号に掲げる紛争に関するあつせん、調停及び仲裁について管轄する。
一 現に人の健康又は生活環境(環境基本法第2条第3項に規定する生活環境をいう。)に公害に係る著しい被害が生じ、かつ、当該被害が相当多数の者に及び、又は及ぶおそれのある場合における当該公害に係る紛争であつて政令で定めるもの
二 前号に掲げるもののほか、2以上の都道府県にわたる広域的な見地から解決する必要がある公害に係る紛争であつて政令で定めるもの
三 前二号に掲げるもののほか、事業活動その他の人の活動の行われた場所及び当該活動に伴う公害に係る被害の生じた場所が異なる都道府県の区域内にある場合又はこれらの場所の一方若しくは双方が2以上の都道府県の区域内にある場合における当該公害に係る紛争
2、3 (略)
(申請)
第26条 公害に係る被害について、損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場合においては、当事者の一方又は双方は、公害等調整委員会規則で定めるところにより中央委員会に対し、政令で定めるところにより審査会等に対し、書面をもつて、あつせん、調停又は仲裁の申請をすることができる。この場合において、審査会に対する申請は、都道府県知事を経由してしなければならない。
2 (略)
出典:法務省「2024年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。