2023年 司法試験 論文式 労働法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。
【事 例】
1 A社は、観光バスツアーの催行その他の旅客自動車運送事業等を営む会社である。B社は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)に基づく労働者派遣事業その他の事業を営む会社であり、その雇用する添乗員をA社に派遣している。なお、B社は、A社と同じ企業グループに所属する同社の関連会社であるが、同グループ外の会社を含め、A社以外にも添乗員を派遣している。C組合は、B社に雇用されている添乗員の6割で組織する労働組合であり、Dは、B社に雇用され、A社に派遣されている添乗員で、C組合の組合員である。C組合とB社との間で締結された賃金に関する基本的内容を定める労働協約においては、賃金は毎月20日締め、月末支払とされていた。
A社は、同社に派遣されている添乗員(以下単に「添乗員」という。)について、基本的には、同社が各ツアーの催行に際し旅程を踏まえて作成する添乗員勤務計画書に基づいて添乗業務に従事させつつ、これに加えて、業務従事日には日報を提出させ、また、必要に応じて携帯電話等で添乗員に連絡・指示をすること等により、添乗員が添乗業務に従事する時間の管理を行っていたが、添乗員の勤務の実態としては、ツアー当日の交通状況や立ち寄り先の観光地の事情等により、前記の添乗員勤務計画書に定められた時間を超える労働がしばしば行われ、しかも、時間外労働について所定の割増賃金が支払われない状況が生じていた。そのため、C組合は、令和3年10月1日、A社に対して、C組合の組合員である添乗員の労働時間管理の改善に向けた事項(具体的には、勤務実態についての資料の提示、長時間労働等を解消するための方策の策定等)を議題として、団体交渉を申し入れるとともに、同日、B社に対して、時間外労働に係る未払の割増賃金の支払を議題として、団体交渉を申し入れた。
2 A社は、同月10日、B社に雇用されている添乗員で組織する労働組合であるC組合との団体交渉に応じる立場にはないとしてこの申入れを拒否し、C組合は、同月31日、この団体交渉拒否は労働組合法第7条第2号所定の不当労働行為に該当するとして、前記のとおり申し入れた団体交渉にA社が応じる旨の救済を求め、管轄する労働委員会に救済申立てを行った。
3 B社は、同月15日、前記のとおり申し入れられた団体交渉に応じ、その際、時間外労働に係る未払の割増賃金があることを認めつつ、近年同社の事業全体が低調で経営が悪化しているため、懸案の未払の割増賃金を含め、当面の賃金の支払について交渉したい旨述べた。これを受け、B社とC組合との間で交渉が重ねられ、同年12月20日、両者の間で、C組合の組合員である添乗員の時間外労働に係る未払の割増賃金は同月末に一括して支払う一方で、同月分以降12か月間の基本給の1割について支払の猶予を認め、令和4年12月分の賃金の支払の際、当該支払猶予分の賃金を一括で併せて支払うことを内容とする労働協約が締結された(以下「令和3年協約」という。)。令和3年協約は、C組合の規約に定められた手続を経て締結されたものであり、Dは、その過程で明示的に反対の意思を表明したものではなかったが、自身について未払となっている時間外労働に係る割増賃金はそれほど多額ではなく、むしろ向こう1年間の基本給の1割の支払が猶予されることによる生活への影響を懸念し、不満を持っていた。
4 令和3年協約を締結する際、B社としては、1年後であれば経営状態が改善して賃金の支払に支障がなくなっているであろうと見込んでいたが、令和4年下半期に同社の経営状態は更に悪化し、令和4年12月分の賃金の支払の際、令和3年協約において約した支払猶予分の賃金の支払ができなかった。このため、B社は、令和5年1月に入り、C組合に対して交渉を申し入れ、未払となっている支払猶予分の賃金債権の放棄を提案した。C組合は、B社の経営がこれ以上悪化しない保証はなく、その結果として同社が組合員の解雇に踏み切ったり、将来にわたり賃金を減額する措置に出たりする事態となることは回避すべきであるとして、同月31日、前記のB社の提案を受け入れ、C組合と同社との間で、その旨の労働協約が締結された(以下「令和5年協約」という。)。令和5年協約も、C組合規約所定の手続を経たものであった。
かねて令和3年協約に不満を持っていたDは、令和5年協約は到底受け入れられないと考え、令和5年2月28日、支払猶予分の賃金及びその遅延損害金の支払をB社に求める訴訟を、管轄する地方裁判所に提起した。
〔設 問〕
1 C組合は、令和3年10月31日に行った申立てについて、労働委員会において救済を受けることができるか。検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。なお、C組合は、労働組合法第2条に規定する「労働組合」に該当し、かつ、C組合について同法第5条第1項の立証がなされたものとする。
2 Dが訴訟を提起した、支払猶予分の賃金及びその遅延損害金の支払請求は、認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げて、あなたの意見を述べなさい。
出典:法務省「2023年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。